10月21日

素晴らしすぎる吉田美奈子の歌唱!初のセルフプロデュースアルバム「モノクローム」

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吉田美奈子 / MONOCHROME

「モノクローム」を自らプロデュースした理由


アルバム『モノクローム』は、吉田美奈子さんにとって初めての単独セルフプロデュース作品です。文字通りモノクロの写真に文字だけが青いジャケットと相まって、やや内省的な印象を放つこのアルバムは、前作『LET'S DO ITー愛は思うままー』からは2年ぶり。そのやや長めなブランクは、どうやら前作で苦労したからのようです。

『LET'S DO IT』はジーン・ペイジ(Gene Page)という米国の大御所プロデューサーの下、ロサンゼルスでレコーディングしているのですが、アルファレコードの社長、村井邦彦氏が“勝手に”契約して、お膳立てをしてしまったらしく、美奈子さん本人は非常に不本意だったようです。でも社長の村井さんがよかれと思ってやったことを無下にはできず、従うのですが、ともかく、いわゆる「ハリウッドサウンド」にはしたくなくて、デモテープを、近しいミュージシャンたちとヘッドアレンジできっちりつくって渡しました。そしたら、そのデモテープそのままのサウンドにストリングスとホーンが足されただけのものになった、と後年、美奈子さんはインタビューでぼやいています。

そういうギクシャクした制作過程に疲れてしまったようですが、でも、そもそもペイジの思うようにさせたくなくて、デモテープをつくり込んだんですよね。それでデモそのままだと文句を言うのはおかしいでしょ。



ただ、たしかにこのアルバムのサウンドは全然よくない。ノリが各楽器間でバラけているように感じます。特に「海」のイントロでのブラスのリズムなんかひどいもんです。結果として全体的にノリが悪く、ボーカルとの一体感もありません。はっきり言って、“やっつけ仕事”ってヤツではないですかね。「この通りやってくれ」と言わんばかりのつくり込まれたデモテープを渡されて、気分を害したんだと想像しますね。

このアルバムから彼女はアルファレコードに移籍したのですが、それまでは「アルファ&アソシエイツ」が“原盤”を制作して、RVCからリリースしていました。で、村井さんが1977年に「アルファレコード」を設立したので、リリース権もそちらに移したということです。言わば「自分たちのレコード会社」になったので、2年間の充電期間にもとやかく言われなかったということでしょうが、売上的に特に期待されていなかったとも言えるかもしれません。

セルフプロデュースは大正解


『モノクローム』の制作にセルフプロデュースで臨んだのは、明らかに前作からの反動でしょう。今度はともかくすべてを自分がコントロールできる範囲に置きたかったのだと思います。

ミュージシャンも必要最低限の信頼できる人たちに絞り、おそらくはヘッドアレンジで、音を出し合いながら、サウンドを構築していったのではないでしょうか。前作よりはるかに、ボーカルとサウンドの一体感を感じます。

ただ“最低限”と言いながら耳を引くのがヴィブラフォンです。ヴィブラフォンという楽器はアタック感が弱く、言わば“余韻”だけみたいな音なんですが、全体的にサウンドがシンプルなだけに、「TORNADO」や「MIRAGE」といった曲では、この楽器の独特な音色が非常に印象的に漂っています。演奏しているのがマイク・マイニエリ(Mike Mainieri)というこの楽器の第一人者。特殊な楽器だけにプレイヤーは、特に日本には、多くありません。マイニエリは、渡辺香津美のアルバム『TO CHI KA』をプロデュースし、ちょうどこの『モノクローム』のレコーディング時期に、渡辺のツアーのために来日していたのでした。

そして、ストリングスやホーンセクションを使う代わりに、彼女は自身の声の多重録音によるボイスアンサンブルを駆使しました。それまでは自身でのハーモニーを、これほど目立っては使っていなかったのに、これ以降多用するようになります。このアルバムで、“開眼”したんですね。

とにかくめちゃめちゃ歌がうまい人だし、ユーミンなど他アーティストの作品へのバッキングボーカルでの参加も数多いので、一人コーラスのクオリティもすばらしい。ピッチの正確さと、ツルッとした声質が相まって、薄くて滑らかな布のような、それだけで耳に快感をもたらしてくれる響きがあります。

肝心のリードボーカルも、いちばんいい時期なんじゃないかな。いくらうまい人でも、当然ながら、年齢や経験によって歌は変わります。デビューの『扉の冬』(1973)の頃は、瑞々しく爽やかながら、やや荒削りでもありました。逆に『DARK CRYSTAL』(1989)あたりからは、まさにダークと言うか、凄みが増して、でもキュートさが薄れていったように感じます。この『モノクローム』からの数年間が、ちょうどいろんなバランスがよかった。素晴らしいとしか言いようのない歌唱です。

ということで、セルフプロデュースを選んだことは、売上的にはよく分かりません(あまり売れてないでしょう)が、大正解だったと思います。本人も自信を得たことが、引き続きセルフプロデュースによる、『MONSTERS IN TOWN』(1981)、『LIGHT'N UP』(1982)といった重量級のアルバムにつながっていったのでしょう。





惜しむらくは、「SUNSET」と「MIDNIGHT DRIVER」の2曲が少々長過ぎます。どちらも8分近くもあり、前者は後半リズムが変わって違う展開を見せるのでまだいいのですが、それでもそれまでが長い。後者は充分4分程度に収められるし、そのほうがきっといいと断言できます。

特に後者、「MIDNIGHT DRIVER」は、あの竹内まりや「プラスティック・ラヴ」にも共通するヘヴィなファンクビートの曲で、欧米人は好きだと思います。もし4分くらいにスキッとまとまっていたら、「シティ・ポップ」名曲として、もっと注目されていたかもしれないのに、もったいないことです。

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2023.06.08
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カタリベ
1954年生まれ
ふくおかとも彦
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