待ちわびたファンにありったけのパフォーマンスで応えた中森明菜 “She is back!” 。ステージを目の当たりにしたオーディエンスはそう確信したに違いない。20年ぶりのライブツアー『AKINA NAKAMORI LIVE TOUR 2026』で全24曲を歌唱。待ちわびたファンにありったけのパフォーマンスで応えた中森明菜のことだ。
全会場でチケットは完売。東京公演2日目にあたる7月14日の東京国際フォーラム ホールAにも満席となる5,000人の観客が詰めかけた。独特の高揚感と言ったらいいだろうか。場内は開演前から歌姫との再会に胸を高鳴らせた人々の期待と興奮に包まれていた。見渡したところ、客席はこの日の主役と同じ時代を歩んできたリアタイ世代に加え、サブスクや動画配信サイトなどを通じて彼女を “発見” したと思しき若い男女、さらに親子や夫婦と思われる2人組まで、多彩な顔ぶれで埋め尽くされていた。
原曲を再現したアレンジで歌唱した「TATTOO」 開演は19時。客電が落ち、幕が上がり、場内アナウンスが中森明菜の名前を高らかに告げると「TATTOO」のイントロが流れ始める。ステージ中央に設置された階段最上部には見慣れたシルエットが浮かび上がり、歌が始まった瞬間、ピンスポットが当たる。
「明菜だ!」「帰ってきてくれた」――。
その感激が観客のボルテージを一層上げ、会場は総立ちに。そこかしこから明菜コールが沸き上がる。活動再開の表明から4年。“ゆっくりになってしまうと思いますが、見守っていただけると嬉しいです” の第一声どおり、その後の彼女はセルフカバーJAZZバージョンの連続配信や、ファンクラブ限定イベント、自身初のフェスへの出演、ディナーショーの開催…… と着実に歩みを進めてきた。
体調不良による活動休止期間はおよそ5年。そこから体力と歌声を取り戻すために、時間をかけてトレーニングに励んできたことは想像に難くない。とはいえ、配信を重ねたJAZZバージョンでは抑えたボーカルだっただけに、大ホールでバンドを従えた約2時間のコンサートで、どのくらいのパフォーマンスができるのか、一抹の不安があったことも事実だ。
しかし、それは杞憂だった。オープニングの「TATTOO」から全編にわたって原曲を再現したアレンジで歌唱。序盤は声が出づらかったのか、硬い表情を見せる場面もあったが、よくぞここまでと感服するボーカルを次々と聴かせてくれた。筆者は彼女と同じ昭和40年生まれ。生半可な鍛え方では維持するのが精いっぱいで、少しサボればたちまちツケが回ってくる年齢であることを身を以って知っている。だからこそ大ステージに復帰した同学年の星に限りないリスペクトを抱いたのだ。
振付と同じようにペンライトが振られた「禁区」 嬉しかったのはそれだけではない。衣装、髪型、振付など、ビジュアル面でも卓越したセルフプロデュース力を発揮してきた彼女は、今回のライブでも我々が大好きな中森明菜を存分に感じさせる演出や衣装で終始魅了してくれた。ちなみに衣装は本編で5ポーズ。彼女のコンサートでは珍しくない回数だが、頻繁な衣装替えはそれなりの体力と緊張感を要する。それでも “足を運んでくださった皆様に少しでも楽しんでいただきたい” という気持ちが強かったのだろう。ファン想いのサービス精神も真に彼女らしいものだった。
歌姫復活の狼煙を上げた最初のコーナーでは、光沢のある黒革のタイトミニに肩パッド入りのカラフルなジャケット、ハイヒールブーツで登場。腰を振ってリズムをとるのも、挑発的な視線も、まさに中森明菜そのものだ。続く「禁区」でも当時の振付を披露。これまでのライブではあまり歌われてこなかった曲ということもあり、会場の熱気はさらに高まる。「♪も~ど~り~たい~」で始まるサビでは振りに合わせてペンライトがインフィニティ(∞)を描くように振られたのも壮観だった。最初のMCでは来場への謝辞を述べたあとーー
「私にとっては久々のコンサートですが、素晴らしいメンバーと一緒にお届けしますので、最後までよろしくお願いいたします!」
ーー と挨拶。ジャケットを脱いでオフショルダーのトップスになると、どよめきが起こるが、しばしの暗転を経て、当時カセットのみの企画としてリリースされた「ノンフィクション エクスタシー」のイントロが流れ始める。「この曲も歌ってくれるのか!」―― そう感動したのは筆者だけではあるまい。
歌唱後はステージに現れた鳥かご(ブース)の中へ。バイオリンソロから「TANGO NOIR」の演奏が始まると、カルメンを思わせる、黒地に赤い薔薇をあしらったドレスに身を包んだヒロインが早着替えで登場した。ここからは中森明菜の専売特許とも言える、異国情緒溢れる3曲が歌われた。
中森明菜の真骨頂、「SOLITUDE」 まず「TANGO NOIR」ではトレードマークの上体反らしやキックターン、そして「♪タンゴノア~~~~」のロングトーンを惜しげもなく披露。『AERA』(朝日新聞出版社 / 6月29日号)のインタビューでは “今やると転んでしまうと思うので、あそこまではできませんけど(笑)” と語っていたが、本ツアーに向けた彼女の意気込みが十二分に伝わるパフォーマンスであった。
大歓声を浴びるなか、次の「ジプシー・クイーン」はスクリーンの映像と舞台上で炎が燃えさかる演出。続く「SOLITUDE」では都会の夜景をバックに、ステージを左右に移動しながら歌い上げた。内に秘めた情熱を囁くように、呟くように歌唱するのは中森明菜の真骨頂。女性アイドルといえばハイトーンボイスが活きる楽曲が主流だった当時、アルトボイスで孤独や情念を余すところなく表現できる稀有な存在であったことも再認識させられた。7月12日に放送された『EIGHT-JAM』(テレビ朝日系)の中森明菜特集で、一青窈が「SOLITUDE」の唱法から “声量を抑えたままでも、強弱で感情を表現できることを学んだ” と証言していたが、後輩たちに与えた影響も大きかったのだ。
続くMCでは衣装の早着替えや、先日久しぶりに出演したバラエティ番組『Golden SixTONES』(日本テレビ系)に関するエピソードに言及。自虐ネタを交えて笑いを誘いつつ、観客とのコミュニケーションを深めていく。こういうとき少女のような声になるのも往時のまま。かつて本人も語ったことがあるが、中森明菜のことが好きで、その歌声を求めるファンが集まるステージは言ってみればホームグラウンドなので、つい甘えてしまうということだろう。
その後、衣装替えのためステージから捌けると、スクリーンにはNHKの若者向け音楽番組『レッツゴーヤング』(1974年〜1986年)をはじめとする歌唱映像が映し出される。同番組では視聴者から寄せられたイラスト付きのリクエストハガキを紹介するコーナーがあったが、今回のツアーでは、それにちなんだ企画をファンクラブが主催。多くのファンから寄せられたハガキを見た中森明菜が “みんなすごく上手で選べない” “私はこんなに可愛くないよ~(笑)” “私は幸せ者だ~。みんな大好き!” と感動しながらコメントする様子も上映された。
ヒットチューン7曲をメドレーで立て続けに歌唱 コンサート中盤は、そのイラスト付き応援ハガキと1980年代の歌唱シーンを組み合わせた映像を背景にしたメドレーコーナーからスタート。キラキラ光る薄紫色のドレスをまとった中森明菜は「1/2の神話」「スローモーション」「I MISSED “THE SHOCK”」「セカンド・ラブ」「北ウイング」「サザン・ウインド」「Dear Friend」のヒットチューン7曲を13分間、立て続けに歌ってくれた。
映像は「サザン・ウインド」までの6曲は本年6月にBlu-ray BOXとして発売された『中森明菜 80's Best Performance on NHK』に収録されたもの。7曲目の「Dear Friend」は本人の要望を受けて制作された自身初のミュージックビデオの映像が使用された。英国のチャールズ皇太子(現:国王)とダイアナ妃が新婚旅行で訪れたバハマの高級リゾート地、ピンクサンドビーチで撮影されたミュージックビデオは、約1年の活動休止を経ての復帰作にふさわしい、明るく開放的な表情が評判となったが、本ツアー用に4K画質相当にデジタルリマスターされたという。YouTubeでの公開も予定されているらしいので、その吉報も待ち遠しい。
過去と現在がシンクロする構成となったメドレーコーナーでは全曲イントロから演奏され、1コーラスもしくは1ハーフをしっかりと歌ってくれた。「1/2の神話」や「サザン・ウインド」ではお馴染みの振付を再現し、「北ウイング」では代名詞の明菜ビブラートを披露。「Dear Friend」では “今歌えていることが何よりも楽しい” と感じさせる笑顔がこぼれる。選曲、衣装、演出など全般にわたって本人のアイデアが盛り込まれている今回のコンサート、過去のイメージと重ね合わせる演出が採用されたのは、活動再開に対する確かな手応えを感じていることの現われと言えそうだ。
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圧倒的な説得力で5,000人を魅了した「駅」 大いに盛り上がったメドレーのあとは再び衣装替え。その間、本人の影アナウンスでバンドメンバーが紹介された。この日の演奏は、バイオリン:西野絢賀、ギター:飯室博、バンドマスター / キーボード:秋田慎治、ベース:川崎哲平、コーラス:Aiyan’、Takuma、真崎ゆか、ドラムス:高田真の8名(紹介順)。加えてスタイリストの東野邦子氏と粟野多美子氏、ヘアメイクの只友謙也氏の名前もコールされ、3人はステージにも登場した。それは今の自分を支えるスタッフをみんなにも知ってもらいたいという、本人の気持ちを反映した演出だったと思われる。その後、ステージに戻ってきた中森明菜はオフショルダーの白いドレス姿。ここからは心のひだをしっとりと歌い上げるバラード4曲が歌われた。
まずはフュージョン路線にシフトしたアルバム『BITTER AND SWEET』に収録された「SO LONG」、続いて女性ソングライターからの提供曲で構成した名盤『CRIMSON』から「駅」である。前者は角松敏生、後者は竹内まりやの作詞・作曲。いずれもシティポップシーンの中心に位置づけられる人物だが、中森明菜はほかにも林哲司(「北ウイング」ほか)、高中正義(「十戒」ほか)、大貫妙子(「ENDLESS」ほか)など、現在世界的に注目されているミュージシャンからの提供作品を数多くリリースしてきた。それだけ創作意欲を刺激する存在であることの証と言えよう。
それもそのはず。20歳前後で、儚さや脆さまで表現できる歌手はそういない。のちに女優としても才能を発揮する彼女は若い頃から歌の世界に没入する能力に秀でていた。それゆえ実年齢より遙かに大人の女性の歌も違和感なく歌いこなしていたのだが、歌手としても、ひとりの女性としても、さまざまな経験をするなかで深みを増していく。それを改めて実感させられたのが、この日の「駅」であった。
今ではスタンダードソングとなったこの歌を発表したのは21歳のときだったが、それから40年を経た本ツアーでは列車や街の映像をバックに、横長のソファに座って歌唱。前日に61歳となった今の中森明菜に書き下ろされたような、圧倒的な説得力で5,000人を魅了した。
過去の自分と向き合うような、演劇的な表現を披露した「予感」 クライマックスはなおも続いた。バラードコーナー3曲目はASKAが作詞・作曲を手がけた「予感」(アルバム『BITTER AND SWEET』収録)を星のように煌めくライトのなか、階段に座って歌唱。4曲目の「水に挿した花」は歌詞に合わせてスクリーンに映写された三日月が輝くなか、過去の自分と向き合うような、演劇的な表現を披露した。同曲をコンサートで初めて歌った『夢 ‘91 Akina Nakamori Special Live』で涙を流した中森は、この日もこみ上げる感情を抑えきれなくなったのか、途中からしゃがみ込んで歌う迫真のステージとなった。
「予感」はASKA自身もセルフカバーしているが(アルバム『SCENE』収録)、現在はスタイリストが同じという縁もあって、本ツアーの大阪公演を鑑賞したようだ。そのときの感動がASKAのブログに綴られているので、長く彼女のことを知るプロの見立ても是非チェックしていただきたい。
語りかけるように丁寧に歌唱した新曲、「ごめんと、すきと、」 さて、バラード4曲を歌い終えると、歌姫は一旦退場。スクリーンではツアー初日の7月1日にシングルCDとしては10年ぶりにリリースされた新曲「ごめんと、すきと、」に関するインタビュー動画が上映された。
同曲の作詞は中森を中心としたクリエイティブチーム「HZ VILLAGE」名義だが、その制作について “疎遠になってしまった大好きな友達に向けて今の気持ちを込めた歌" とコメント。“皆さんにもそういう経験があるかもしれないので、そんな風に聴いていただけたら嬉しい” と続け “今日は足を運んでくださってありがとう。また会えましたね” “いつでも会えます。いつでも来てください。明菜でした” と締めくくった。大好きな友達のなかに彼女を待ち続けたファンが含まれていることは言わずもがなであろう。
VIDEO 少し照れた表情でステージに戻った歌姫はその新曲を語りかけるように、丁寧に歌唱。スクリーンには歌詞が表示されたが、印象的だったのは「♪もう二度と 離れない どんな時も 怘(まも)るから」の「怘」という文字だった。歌詞カードでもそう表記されているが、言葉を大切にする彼女のこと。あえてこの表現にしたのは、大切な人との関係を揺るぎないものにしたいという想いが込められているに違いない。
歌い終えると祈るように手を合わせ、深々とお辞儀をした彼女は一転、少女モードでトークを展開。30年ぶりとなる『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)生出演を控えた心境を “心臓がどんどん小さくなって本番中に倒れるかも……” と冗談交じりに語ると、客席から “大丈夫!” “観るよ~” との声が飛んだ。大勢のファンからの直接の激励は何にも勝る力となったのではないか。
歌でも、トークでも、20年ぶりのツアーとは思えぬ “らしさ” を発揮した中森明菜だが、最後の衣装替えのため舞台袖へ。その間ステージでは「SAND BEIGE」や「サザン・ウインド」のインストが演奏され、スクリーンにはデザイン画や、衣装合わせ、リハーサル時の映像が流された。どの場面でも笑顔がいっぱいで、いい環境で歌えていることが伝わってくる。
持ち前のロングトーンを炸裂させた「飾りじゃないのよ涙は」 終盤は “ロックな明菜" を象徴する4曲が上演された。黒いパンツスーツのジャケットに真紅のポケットチーフを合わせたクールなスタイルで、まずは「少女A」を披露。続けて「十戒(1984)」「飾りじゃないのよ涙は」「愛撫」と、キラーチューンで畳みかける。
「十戒」では歌詞の一部を間違えるハプニングもあったが、それはライブならではのご愛嬌。赤い花をあしらった黒いハットを目深にかぶった「飾りじゃないのよ涙は」では持ち前のロングトーンを炸裂させたほか、 “1階〜!” “2階〜!” と煽りながらコール&レスポンスで観客を熱狂へと導いた。続く「愛撫」でも客席にマイクを向け「♪Touch Me, Touch Me~」を大合唱。ステージを左右に移動し、何度も感謝を述べながら本編を終了した。
場内の熱気は最高潮になった「DESIRE -情熱-」 鳴り止まぬ拍手と明菜コールのなか “行くよ!” の声を合図に幕が上がると、ツアーTシャツにジーンズ(昨年の還暦企画でLeeとコラボした限定アイテム)というカジュアルなスタイルの中森が登場。アンコールに応えて「LA BOHÈME」(「DESIRE -情熱-」B面収録)を歌い始める。色気と情念と異国情緒に溢れた “これぞ中森明菜” とも言うべき、ライブの定番曲だ。
続けて「DESIRE -情熱-」のイントロが演奏されると場内の熱気は最高潮に。冒頭の「♪Burning love」でキャノン砲から銀テープが発射されると大歓声が巻き起こった。ここまで全身全霊のパフォーマンスを見せてきた中森は最後の力を振り絞るように熱唱。途中、座り込みながらも、5,000人からの合いの手 “は~、どっこい” に “ありがとう!” と応えて歌い切った。
アンコールの「LA BOHÈME」から「DESIRE -情熱-」という流れは1995年の『TRUE LIVE』を彷彿とさせたが、本ツアーは数々の伝説を作ってきた彼女が新しいページを開いたものとして記憶に刻まれることは間違いない。
開始当初は若干不安定なところがあったものの、観客からの拍手と声援を受けるにつれて調子は上昇。会場との一体感がライブの醍醐味とするならば、“今の気持ちを直接届けたい” という強い想いが全編から伝わってきたこの日は、それを存分に味わえるものであった。人一倍プロ意識の高い彼女ゆえ、本人にとっては課題もあったと思われるが、9月19日、20日に決定した追加公演(東京国際フォーラム ホールA)ではきっと修正してくるだろう。今から次の明菜に会えることが楽しみでたまらない。
Information 中森明菜 AKINA NAKAMORI LIVE TOUR 2026 日時:2026年7月14日(火)19時開演 会場:東京国際フォーラム ホールA <セットリスト>
01.TATTOO
02.禁区
03.ノンフィクション エクスタシー
04.TANGO NOIR
05.ジプシー・クイーン
06.SOLITUDE
07.1 / 2の神話
08.スローモーション
09.I MISSED THE “SHOCK”
10.セカンド・ラブ
11.北ウイング
12.サザン・ウインド
13.Dear Friend
14.SO LONG
15.駅
16.予感
17.水に挿した花
18.ごめんと、すきと、
19.少女A
20.十戒(1984)
21.飾りじゃないのよ涙は
22.愛撫
23.LA BOHÈME
24.DESIRE -情熱-
<プレイリスト>
AKINA NAKAMORI LIVE TOUR 2026
https://akinanakamori.lnk.to/ANLT2026PU <BAND>
秋田慎治(Key、B.M.) / 飯室博(Gt) / 川崎哲平(B) / 高岡真(Ds) / 西野絢賀(Vn)/ Aiyan’、Takuma、真崎ゆか(Cho)
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2026.08.01