最高にハジけた工藤静香のニューアルバム「Dynamic」 2026年6月24日、工藤静香が通算19作目となるオリジナルアルバム『Dynamic』をリリースし、私はまずその早い完成に驚いた。というのは、2作前の『凛』から前作の『明鏡止水』までは7年の月日を要していたからだ。もっと言えば3作前のオリジナルアルバム『月影』から『凛』までは12年ものインターバルがあった。なので、前作からたった2年でオリジナルの新作が聴けるとは思わなかったのだ。
しかも、2020年代に入ってからの工藤静香は、2021年と2025年に中島みゆきのカバーアルバムである『青い炎』と『Love Paradox』を、2022年にはセルフカバーアルバム『感受』をリリース。つまりこの6年で5作もの新録音アルバムを発表していることになる。これは2010年代の完全新録音のアルバム2作(オリジナルの『凛』と洋楽カバー『Deep Breath』)を既に大きく上回っており、作品を追うごとに歌声のタフさが上昇していっているのも頼もしい。
そして、実際に今回のアルバムを聴いてみるとその野心ぶりにも驚かされた。バンド演奏によるハードなロック調の楽曲が多いうえに、国内外のグループアーティストに多く見受けられる展開の多いダンスポップスにも果敢に挑んでいるのだ。バンド中心のアルバムは、後藤次利がほぼ全曲を手がけていた時期の『mind Universe』(1991年)があった。さらには1994年以降のセルフプロデュース期にリリースされ、シャ乱Qのはたけが全曲作曲を手がけた1998年の『I’m not』 もかなり攻めた内容だった。
しかし、本作はそれらにも増して工藤静香史上最高にハジけたアルバムになっている。それゆえ全10曲であっても、約40分間、激しく揺れるジェットコースターのようで、まさに『Dynamic』という名にふさわしい作品だと感じている。以下、順を追って全曲を解説してみたい。
セクシーに挑発するかのように歌う「supercar」 まず、1曲目の『supercar』は、ドラムソロの躍動的なイントロに「♪I am a suuuu-per supercar」と工藤の熱唱が分け入って幕を開けるロックチューン。時にマニッシュにシャウトしつつ、時にはセクシーに挑発するかのように歌うメリハリもまさに “静香節” と呼べるかもしれない。
「♪レッドゾーン」や「♪バックミラー」といったキーワードから、工藤が愛絵理のペンネームで作詞を手がけた1996年の「ルナ -月の女神-」を想起したが、今回はもっとギリギリを猛スピードで走っていくようで爽快だ。作曲を手がけた愛娘のKōki,は、これが5作目となる工藤への提供曲。どれも既存のJ-POPの枠に収まらない構成のものばかりで、スリリングな聴き心地を増幅させる。
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タフな歌声が突き抜けていく「FLYER」 2曲目の「FLYER」は、終始ハードなギター演奏の中を、タフな歌声が突き抜けていく。世の中に抗うような歌詞は、2002年のアルバム『Jewelry Box』収録の「us」あたりから増えている印象があるが、当時よりも格段にパワフルなボーカルとなっている。まさに「FLYER」= 大きな野心をもって跳躍する人という言葉本来の意味にも納得がいく。本作はアルバム全体でも言葉の説得力が半端ない。作曲・編曲を手がけた宮崎諒-amazuti- は、超ときめき宣伝部やAぇ!groupなど若手アイドルグループへの提供作でも知られる注目のクリエイターだ。
3曲目の「Tequila」は煽動的なギターリフと、気だるく歌う静香のボーカルが絡み合うようなミディアムチューン。まさに夜の酒場で危険な恋愛の駆け引きが始まってしまいそうな雰囲気がある。「♪恋に沼ったりして」と今風にアップデートした自身の歌詞にも、クセになるサウンドを操るスキマスイッチの2人にも新たな魅力を感じさせる。
4曲目の「今だけ」は、これまでの3曲とは一変してピアノとストリングスの演奏が印象的なバラード。作詞・作曲はwacciのボーカル&ギターの橋口洋平が手がけているが、本命にしてもらえない女性のやるせない恋心が綴られており、全般にいじらしく歌う彼女の声も相まってとても切ない。同じ橋口による作詞・作曲で前アルバム『明鏡止水』に収録された「霙(みぞれ)」では、どうしようもない状況を断ち切って幸せになる女性が描かれているが、本作はその女性のプレ・エピソードのようにも感じられる。どちらもwacciのギタリストである村中慧慈が編曲を手がけていて、感情に寄り添うような演奏も涙腺を刺激する。
ファンにエールを送り続ける工藤静香に重なる「warrior」 5曲目の「()つける?」(読み:かっこつける)は、ダンス&ボーカルグループDa-iCEの花村想太や、シンガーソングライターのMEG.MEが作詞・作曲を手がけたダンサブルなナンバー。「♪だって本気はカッコいいじゃん」というメッセージが自然に入っている所で工藤への当て書きだと分かる。本アルバムでは、本人の作詞であろうとなかろうと、いずれも彼女らしい感情が込められていて全く違和感がない。
6曲目の「warrior」は、歌声にディストーションを効かせた前半と、一気に殻を破った歌声で熱唱するサビ部分が対照的で興味深い。「♪I’m a warrior」と歌った後に、「♪We are warriors」と続けることで、闘う者たちを独りにしないという歌詞の中の主人公のタフネスが伝わってくる。その様子は、ライブのMCで “嫌なことを言われたとしても、私がいるから大丈夫” といった主旨のファンにエールを送り続ける工藤自身にも重なって心が温まる。作曲・編曲はザ・ベイビースターズの田中明人が手がけている。
7曲目の「Dodge」は、wacciの橋口洋平が作詞・作曲を担い、ベース担当の小野裕基が編曲を手がけたポップチューン。「♪あなたごときに私の怒り 引き出せるわけがないでしょう ご期待に沿えずごめんなさいね」というサビのフレーズがまるまるSNSでの誹謗中傷をスルリとかわす処世術となっていて痛快だ。これも、工藤静香だからこそストレートに歌詞が伝わってくるし、それを説教くさくなく、ファンキーに仕上げているのがカッコいい。
エキゾチックで摩訶不思議な世界にいざなう「Dynamic」 8曲目はアルバムのタイトルチューンである「Dynamic」。聴き手をエキゾチックで摩訶不思議な世界にいざなうような楽曲で、本作中で最も斬新であり中毒性の高い楽曲といえるかもしれない。これまでもスムージーなダンスポップスなら1999年の「ZIGUZAGU」が、インド風のアレンジなら1997年の「カーマスートラの伝説」があったが、巻き舌でまくし立てて歌ったり、「♪nah nah nah nah」と幻想的なコーラスを入れたり、まっすぐなボーカルで生きる術を説いたりと、実に変幻自在。この3分の間、魔法にかかったような錯覚に陥る。
作曲・編曲を手がけたScott Russell StoddartはITZYやIVEなどK-POPグループの大ヒットにも貢献しており、その最先端の音楽に挑む姿は圧巻だ。1980年代や1990年代に大衆に親しまれたカラオケヒットの多い静香だが、素人がカラオケでは絶対に歌えないような難曲をも彼女は歌いこなしているのだ。
9曲目の「魔法のスパイス」は、工藤静香本人が作詞、スキマスイッチの大橋卓弥が作曲、同じくスキマスイッチの常田真太郎がピアノ演奏や編曲を手がけたスローナンバー。アルバム全体では、力強い歌詞と歌声のロックなナンバーが多いが、この「魔法のスパイス」は、優しく労わるような歌詞と、守りたい人に語りかけるような歌声に癒される。
40年間サバイブしてきた唯一無二のアーティスト工藤静香 そして、ラスト10曲目の「凛」は、SUPER BEAVERのギター担当である柳沢亮太が作詞・作曲を、前述の宮崎諒-amazuti-が編曲を手がけたロックンロール。SUPER BEAVERらしい相手を思う真っ直ぐな言葉と、アコギ中心の前半からバンド演奏となり終盤にはストリングスも重なっていくドラマティックな構成、そして何よりその中心で凛として立っているような堂々とした工藤静香の歌いっぷりが痛快だ。
このように、様々な作風の楽曲を様々な歌い方で挑むという大きな振り幅のアルバムを通して聴くと、工藤静香というアーティストが唯一無二な存在で、40年間サバイブしてきたことが自ずと分かってくる。バラエティー番組でお笑い芸人にツッこまれて大笑いしたり、Instagramでやせるためのエクササイズや絶品料理のレシピを惜しげもなく披露したりするのも、紛れも
日常生活の心配ごとやネット上のやり取り、はたまた激変する世界情勢まで、何かと大変なことばかり続いているが、こんな時代でも折れない工藤静香の最新作を聴いてみれば、まだまだ頑張れる勇気がきっともらえるはずだから。
Information ▶ 工藤静香2年ぶり19枚目の最新オリジナルアルバム「Dynamic」
▶ デビュー39年目を迎える工藤静香が「ロック」をコンセプトイメージに掲げた意欲作!
01. supercar 作詞:愛絵理 / 作曲:Kōki, / 編曲:渡辺 剛 02. FLYER 作詞:愛絵理 / 作曲・編曲:宮崎諒-amazuti- 03. Tequila 作詞:愛絵理 / 作曲:大橋卓弥、常田真太郎 編曲:スキマスイッチ 04. 今だけ 作詞・作曲:橋口洋平 / 編曲:村中慧慈 05. ()つける?(※読み:かっこつける) 作詞:花村想太、MEG.ME / 作曲:花村想太、MEG.ME、Louis / 編曲:MEG.ME、Louis 06. warrior 作詞:愛絵理 / 作曲・編曲:田中明仁 07. Dodge 作詞・作曲:橋口洋平 / 編曲:小野裕基 08. Dynamic 作詞:愛絵理 / 作曲:Scott Russell Stoddart 、JJean、Justin Reinstein / 編曲:Scott Russell Stoddart 09. 魔法のスパイス 作詞:愛絵理 / 作曲:大橋卓弥 / 編曲:常田真太郎 10. 凛 作詞・作曲:柳沢亮太(SUPER BEAVER)/ 編曲:宮崎諒-amazuti-
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2026.07.01