小泉今日子の代表曲「なんてったってアイドル」
1984年、「渚のはいから人魚」を皮切りに、30万枚超えのスマッシュヒットを連発し、名実とともにトップアイドルに君臨した小泉今日子。しかし、続く1985年の「常夏娘」「魔女」では30万枚を割り込み、売上的には小休止状態を迎えます。
この時期「小泉今日子」に「キョンキョン」に「KYON2」と、"ひとり百花繚乱"なアイドル像を体現していた彼女ですが、それが逆に、シングル楽曲の方向性の定まらなさを引き起こしているようにも見え、当時中学生だった私も少し歯がゆさを感じていました。
そんな、1985年も終わりが近づいてきた11月のある日、決定的な新曲を耳にする日が訪れます。その曲のタイトルは「なんてったってアイドル」。初めてこの曲を聴き終えた時に抱いた第一印象を私は鮮明に覚えています。―――「この曲は絶対、彼女の代表曲になるだろう」。私自身、中学1年生の分際で生意気にもそう思ったのです。
結果、「なんてったってアイドル」は、前作「魔女」から10万枚以上の上乗せとなる売上を記録し、『ザ・ベストテン』でも約1年ぶりの1位を獲得。紅白歌合戦での歌唱曲にも選ばれ、私の予感は良い意味で的中しました。しかし、この曲が私の中でキョンキョンの好きな曲ランキングの上位に来る曲か?と聞かれると、ちょっと微妙… と言わざるを得ないのが不思議なところでもあります(笑)。
まぁ、そんな曲に対する複雑な気持ちは脇に置いといて、今回はちょっと違った視点から、この「なんてったってアイドル」という曲を振り返ってみようと思います。
作詞は秋元康、アイドル仕掛人としての面目躍如
当時、この曲に対する複雑な感情を抱いていたのは、いちリスナーだった私だけではありませんでした。当の小泉今日子本人が「この曲を歌えるのは私だけだろう」との手ごたえを感じていた反面、「歌うのがイヤだった」と、葛藤があったことを後のインタビュー記事で語っています。
作詞は、この1985年、おニャン子クラブで一大旋風を巻き起こし始めていた27才の秋元康。おニャン子で瞬く間に時代の寵児となった印象のある秋元康ですが、この時期、ソロの小泉今日子プロジェクトでもしっかり爪痕を残し、まさにアイドル仕掛人としての面目躍如たる仕事をやってのけています。
アイドルはやめられない
―― この、若干悪ノリが過ぎるとも思える歌詞を「乗りこなせる」スキルを所持していたアイドルは、当時は小泉今日子しか居なかったと思われます。ここで言うスキルとは、アイドルが客商売であることを逆手にとって面白がるスキル… とでも言ったら良いでしょうか。
よく、自作自演系アーティストが、“音楽を純粋にリスナーに届けたい精神とは裏腹に、不用意に湧いてくる下世話なワイドショーを皮肉るような歌” を発表することがありますが(例として、山下達郎の「HEY REPORTER!」、長渕剛の「豚」、ジョージ・ハリスンの「デヴィルズ・レイディオ」)、そんな中、小泉今日子はこの曲で、スキャンダルをも手玉に取って味方につけてしまう、そんな “シニカルな能天気さ” を提示したように思います。これは、発売から40年近く経った今でも通用する “タフな価値観” だと感じられます。
スキャンダルを面白がったキョンキョン、冷めた目で俯瞰した明菜
ところで、この1985年から1986年のアイドルソング界隈では、「スキャンダル」をキーワードに持つ曲が相次いでチャートの1位を獲得していました。
■ あの娘とスキャンダル / チェッカーズ
■ なんてったってアイドル / 小泉今日子
■ DESIRE / 中森明菜
この中で、小泉今日子と中森明菜が歌う、スキャンダルに対する価値観の違いは興味深い物がありました。「スキャンダルならノーサンキュー」とおどけて見せて、「アイドルはやめられない」と自分で歌ってしまうキョンキョンは、今思えば、火のない所の煙さえ、自分自身でモクモクと発煙することで、不動の地位を築いていった感があります。
そして、その3か月後にリリースされたのが、中森明菜の「DESIRE」でした。この曲の中で彼女は「何を信じればいいの スキャンダルさえ 時代のエクスタシィよ」と歌っています。これ、サビ前で見過ごされがちな箇所ではありますが、中々含蓄のある、示唆に富んだ歌詞だと思います。
スキャンダルを面白がるキョンキョンと、スキャンダルを冷めた目で諦観する明菜。1985~86年と言えばおニャン子全盛の時代でしたが、そんな中、アイドル界でこの2人が別格レベルでそびえ立っていたのは、納得というほかありません。
いつまでも「なんてったってアイドル」。パワーの源流は「シニカルな能天気さ」
時は流れて2020年代。1980年代に無くて、2020年代に有るツールと言えば、インターネットやSNS。便利になった反面、誰もが匿名でネット上に燃料投下できる厄介な社会になってきました。
どこに地雷が埋まっているか見えにくい… そんな時代の中、多くの人々が我が身を守るために、カメレオンのように順応性に長けた存在になっていく現代社会。しかし、そんな不透明な現代においても、小泉今日子は、小泉今日子としての輪郭をしっかり保ち続けている。これは賞賛すべきことではないでしょうか。
そして、その枯れないパワーの源流こそが、1985年に「なんてったってアイドル」で、“清く・正しく・美しく解き放ったシニカルな能天気さ” にある、私はそんな風に思うのです。
現在、デビュー40周年を迎え31年ぶりとなる全国ホールツアーを開始しているキョンキョン。こうして全国各地で、往年のパワフルな姿を見せてくれているのはなんとも嬉しいことです。観覧した友人の話だと、なにやらこの「なんてったってアイドル」では歌詞が飛ぶハプニングもあったとのこと。でも、56才のキョンキョンは歌詞が飛んだって気にしないんです! なぜかって? それは勿論、彼女は泣く子も笑う小泉今日子―― そう、「なんてったってアイドル」なのですから!!
※2021年2月4日に掲載された記事をアップデート
40周年☆小泉今日子!
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2022.03.03