5月1日

【中森明菜へのラブレター】唯一無二の歌姫でありながら大切な心のベストフレンドへ

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歌う世界は壮大なのに「明菜ちゃん」と呼びたくなる幼さ


時代を背負うスターになる人がいる。その輝きは、本当に眩くて不思議な力を持っているようで、憧れてしまう。けれど、同時に「時代」とはどんなに重いものだろう、とも思う。それを両肩に乗せ、美しい光をまき散らすように踊り歌い、世の中を魅了した明菜ちゃん。

―― 今、少しでもゆっくりできていますか。

泣くほど嫌いだったというセカンドシングル『少女A』がヒットし、大スターになっていった彼女。私はその幼い表情と、強気な視線とのギャップに参った一人。歌、振り付け・衣装・メイク・髪型まですべて、曲の主人公に合わせて華麗に変身するその姿に誘われ、何度も心の旅をしたし、激しい恋をした気にもなった。毎回、そのステージに、感情が波のように揺さぶられるものだった。

「ミ・アモーレ〔Meu amor é・・・〕」「AL-MAUJ」など、異国情緒漂う曲も多く、非現実な世界を見せてくれるタイプのアーティスト。でも、それでも「明菜ちゃん」とちゃんづけで呼びたくなる不思議。多くの人の青春の一ページに、彼女の麗しさや凛々しさと同時に、あぶなっかしいほど幼い笑顔があるのではないだろうか。



「女の子が持つ、希望と逆ベクトルに存在する何か」を歌う中森明菜


デビューの切符を掴んだ『スター誕生!』では山口百恵の「夢先案内人」を歌い、デビュー曲の「スローモーション」はお気に入りだったというから、もしかしたら、もう少し等身大で、ゆるやかなやさしい曲をもっと多く歌いたかったのかもしれない。

ただ、時代は「82年組」と称されるほど、アイドル豊作の年。弾ける若さとかわいさで希望を歌うライバルはごまんといた。そんななか、哀愁を帯びたアルトボイスと類まれなる歌唱力を持つ彼女は「女の子が持つ、希望と逆ベクトルに存在する何か」を歌うことで、立ち位置を確立する。「禁区」「十戒(1984)」「飾りじゃないのよ涙は」「難破船」と、確実に孤独のレベルを上げながら。

「難破船」を作詞作曲した加藤登紀子は「これは絶対明菜さんの歌だ」と太鼓判を押していた。歌い手としては最高の賛辞ではあるが、22歳の若さでこの曲を託されるのはかなりヘビーなことだったろう。



それでも、「孤独を表現する」という使命に120%で答えた彼女。その在り方は、キラキラとミラーボールが輝くようなあの時代の中、太陽のやさしい光を求める一輪の生花のようだった。その咲き誇り方が美しくて儚くて、ドキドキした。

ただ、どれだけ凍り付くような重く切ない世界を歌ってきても、私のなかでは、なぜか彼女のイメージは「初夏」なのである。大好きな「サザン・ウィンド」のイメージと、あの幼く、つるんとした笑顔のせいかもしれない。

「DESIRE -情熱-」や「TANGO NOIR」といったデコラティブな曲はもちろんテンションが上がる。「水に挿した花」のように、絶望を心を削るように、ここまで繊細に歌えるのは彼女しかいない。



でも、自然と笑顔が弾け出るようなハッピーな歌も、もっともっとたくさんあってよかった、と思うのだ。明るい、夏のはじまりを思わせる歌が。

明菜ちゃんが大好きだから、元気でいてくれればそれでいい


昨年8月末、ツイッターで個人事務所設立のお知らせが流れ、中森明菜40周年再始動か、という期待に満ちたニュースが流れた。私は「今はツールが増え、自分のスタイルで音楽を発信できるようになっている。それは彼女の活動の追い風にもなるはず。ゆっくりでいいので復活を待ちたい」と記事で書いたことがある。

しかし、あるファンの友人がこう言っていた――

「明菜ちゃんが、元気でいてくれればと思う。それだけなんだよ」

あぁ、そうなのだ。中森明菜のパフォーマンスを見れば、誰だって、彼女がどれだけのパワーを1曲に掛けているかがわかる。

だからこそ、「復活を待ちたい」の前に「明菜ちゃんが大好きだから、ただ元気でいてほしい」。まさに、その通りだと思った。

彼女にはエールではなく、そんなシンプルな思いを綴った「ラブレター」という言葉を贈りたくなる。歌謡界における唯一無二の歌姫でありながら、遠い存在ではなく、一人ひとりの心にとても近い “明菜ちゃん”。

きっと彼女は、多くの人にとって、たまらなく大切な心のベストフレンドなのだ。

誕生日おめでとうございます!

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2023.07.13
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カタリベ
1969年生まれ
田中稲
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