アルバム「A WONDERFUL TIME」からの先行シングル「おまえにチェックイン」
1982年5月1日にリリースされた沢田研二さんの「お前にチェックイン」は、往年の「危険なふたり」を思わせる、ひざびさの軽快なポップロック・ナンバー、その1ヶ月後に発売された、アルバム『A WONDERFUL TIME』からの先行シングルだった。
沢田研二さんの、1980年の『G.S.I LOVE YOU』、1981年の『ストリッパー』で全曲の編曲を担当させていただいた銀次に、続く1982年のアルバム、『A WONDERFUL TIME』でも再び編曲の依頼がきたことは、アレンジャーとしては嬉しく、とても冥利に尽きる出来事だった。
ただ今回は以前の2作のような明確なアルバムコンセプトがあるわけではなく、ちょっと肩の力を抜いた軽やかなバラエティあふれるポップアルバムを目指そうというわけで、編曲は僕と後藤次利君と吉田建の三人で分担することとなった。
ソングライターとしてレコーディングに抜擢された大沢誉志幸
僕がこのアルバムで編曲を担当したのは、佐野元春がこのアルバムのために書き下ろした「Why Oh Why」、売野雅勇さんと僕がコンビを組んだ「素肌に星を散りばめて」 と、大沢誉志幸君作曲の「Stop Wedding Bell」と「おまえにチェックイン」の2曲、あわせて4曲だった。
大沢君は、前年の1981年までクラウディ・スカイというバンドのリードヴォーカルをやっていて、この「おまえにチェックイン」のレコーディング時は、バンドを解散した後のまだソロデビュー前だった。このクラウディ・スカイがジュリーと同じ渡辺プロダクション所属だったこともあって、大沢君の才能を人一倍買っていたジュリーのディレクターでもある木﨑賢治さんがソングライターとしてこのレコーディングに抜擢したのだった。
この頃、木﨑さんが関わる吉川晃司や山下久美子などの作品によく登用されたのはこの大沢君、安藤秀樹君、そして僕伊藤銀次など。特に名前があったわけではないけれど、僕はなんとなくこのチームに「木﨑組」と名前をつけていたものだった。佐野君もある意味、この頃は「木﨑組」の一員といってもよかったかもしれない。
この当時の大沢君の作風は、クラウディ・スカイから一貫して続いていた、60年代の、いわゆるリズム&ブルース的なホットで切ないキャッチーなメロディが特徴的で、僕がアレンジした2曲も、デモテープを聴いた段階ですでに、そういう匂いがぷんぷんしていた。
沢田研二、佐野元春、大沢誉志幸、伊藤銀次… 一夜限りのスーパー・コーラス・グループ
プロデューサーの加瀬邦彦さんと木﨑賢治さんと話し合ってアイデアを練り、アレンジの感じは、当時欧米でちょっと流行っていた、ロッド・スチュワートの「燃えろ青春(Young Turks)」みたいな、軽やかなポップロックで行くことにした。演奏を務めるのは、アルバム『ストリッパー』から沢田さんのレギュラーバンドとなったエキゾティックス。『ストリッパー』のときは結成したばかりでまだ初々しい感じだった彼らも、テレビ出演やツアーを経て、さらに息の合った成熟したバンドになっていたのがよかった。
順調にサウンドがイメージどおりに仕上がってきて、沢田さんの歌入れも終了し、いよいよ残されたのは「おまえにチェックイン」で一番キャッチーなフレーズ、
♪ チュルルル チュッチュッチュ チューヤー
… のコーラス部分。当然のごとく、バックバンドのエキゾティックスのメンバーでトライしたのだけど、なんかいまいちR&Bっぽいイカした雰囲気が出ない。
困ったな… と思ってるところへ、加瀬さんが素晴らしいアイデアを出してきてくださった。なんとこの日は、曲を提供した佐野君と大沢君がたまたまスタジオに遊びに来ていた。そこで、この二人と沢田さん、そして僕を加えた四人でやったらどうだいというのだった。
これはおもしろい!!
さっそくスタジオにマイクが立てられ、四人が横並びになって、♪ チュルルル~~。さすがの四人、あっという間にゴキゲンなのが録れてしまった。
CDにはクレジットされていなかったが、あのチュルルル~ は、沢田研二、佐野元春、大沢誉志幸、伊藤銀次による、一夜限りのスーパー・コーラス・グループによるものだったのでした。
その後、加瀬さんや木﨑さんたちは別室に移って、どの曲を先行シングルにするかの決定会議に入ったので、結果を待つ間、しばしエンジニアのトッピー(飯泉俊之君)や大沢君たちと談笑。
「おまチェク」には僕は手応えを感じていたので「選ばれるといいね」と大沢君に振ると、「そうだとうれしいですね」と、控え目な彼だったが、シングルに決まったとの知らせが入って来た時の、目を輝かせて喜んでいたあの初々しい姿が、今でも忘れられないね。
ラッキーなことに僕は、その後のビッグアーティスト “大沢誉志幸” への階段に、彼が足を一歩かけた瞬間に立ち会えたというわけだ。
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2022.05.07