倉本聰作「北の国から」か、山田太一作「想い出づくり。」か…
家庭用録画デッキが普及する前の、1981年秋。倉本聰作『北の国から』と山田太一作『想い出づくり。』の放送枠が重なったことで、ドラマ好きは大いに迷った。なんてことを言われるが、私はまったく迷わず、『想い出づくり。』一択だった。
青大将の田中邦衛とジャージ姿の子供が出てきて、さだまさしが「♪あーあー」と歌う主題歌がかぶさる予告を見ても、まったく心が動かなかった。『北の国から』って、都会から田舎に越してきた家族が、過酷な自然に立ち向かいながらも、田舎暮らしに親しんでいく。そんなほのぼのとしたドラマでしょ? 田舎=善、都会=悪、みたいな?
だが、『想い出づくり。』に夢中な私にも、『北の国から』おもしろいよ、という評判は聞こえてきた。『想い出づくり。』が先に終了したのを機に、私も『北の国から』を観ることにした。すると……
さだまさしのハミングに騙された? 中学生には受け止めきれないエピソード
私が思い描いていた話とはかなり違う。ヘナマズルイとみんなに疎まれ、愛馬を手放した夜に川に落ちて亡くなる笠松のじっちゃん。好きな男にふられて家出し、風俗嬢となるつらら。UFO目撃や怪文書が引き金となり、学校を追われる凉子先生。
中学生だった私には受け止めきれない、過酷なエピソードが続く。ぜんぜん、ほのぼのなんかしてない。さだまさしのハミングに騙された! と、観始めてから、ほどなく気づいたわけで。
スペシャルドラマ版も含めると、最も印象に残っているのは、1992年に放送された『巣立ち』で、主役の五郎が上京してくるくだりだ。好きでもない女の子を妊娠させた息子の純に、五郎がこう言う。
「あやまっちゃお。とにかく、二人であやまりゃ何とかなるさ」
てっきり、五郎が純を殴るか怒鳴るかすると思っていた私はあまかった。こ、この親子って……。
倉本先生、あなたのペンはまったく錆びてません
2017年、昼帯で倉本聰作『やすらぎの郷』が放送されていた。そこでも、ちょいちょいとんでもないセリフが挟まれ、驚きの展開になっていた。まったくやすらがない。
そういえば、倉本聰自身をモデルにしたと噂される、石坂浩二演じる脚本家がよく飲んでいるカクテルは、ラスティペン(錆びたペン)という。倉本聰なりのシャレなのだろう。でも、みんなこう思っているのではないか。
倉本先生、あなたのペンはまったく錆びてません。40年たった今も、私たちはあなたに騙され続けています…… と。
※2017年8月6日に掲載された記事をアップデート
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2021.10.09