時代とともに変化する応援ソングのスタイル
“歌” に心を突き動かされて人生を切り拓いてゆく。これはいつの時代にも変わらない情景だと思います。しかし、時代と変化と共に人々の心を突き動かす応援ソングのスタイルも大きく変わってきます。
例えば、70年代は、人々の心の哀しみに寄り添い、共感することで、強く生きるモチベーションを見出していた人が多かった時代だったと思います。ここには、阿久悠先生が3分間の楽曲の中に描く “物語” に代表されるような昭和歌謡がありました。つまり、強く生きるということは、哀しみを知りそこに自らの人生をなぞっていくこと。そうやって、ひとつの時代が作られていたと思います。
しかし、80年代へ向かうなかで、人々の価値観は大きく変わってきました。バブル景気に向かって暮らしがだんだんと良くなり、物質的な享楽が先行されていた時代。“歌” の世界も大きく変わっていきます。それまで歌謡界で築き上げた職業作家の先生たちの歌に変わり、シンガーソングライターが台頭し、ミュージシャンによる楽曲提供が当たり前の時代に突入します。そしてロックアーティストが市民権を得て彼らの多くは、哀しみとの共存より、多様性を認め、もっと前向きに、リスナーひとりひとりに寄り添った応援歌を作り出していきました。
例えば、1979年にリリースされた浜田省吾の名曲「風を感じて」では、「♪ 自由に生きていく方法なんて100通りだってあるさ」と歌い、当時の若者の背中を押していきました。そう。シンガーソングライター、そしてその後のロックミュージシャンの台頭は、時代の流れの中で必然だったのかもしれません。
そんな時代の流れの中で興味深いのが、バブルに向かい時代が豊かになればなるほど、ポジティブな印象の応援ソングが増えていったということです。例えば、爆風スランプ「Runner」、プリンセス・プリンセス「DIAMONDS」、大事マンブラザーズバンド「それが大事」… 書き出せばキリがないのですが、豊かな時代だからこそ、気づかされる心の隙間というか、決してお金では買えない大切なものに気づくのではないでしょうか? 自分が自分であるために背中を押してくれる、とっておきの “歌” が必要だったのかもしれません。
ザ・ブルーハーツ「TRAIN-TRAIN」、絶望の中で見出す未来
そんな時代に、僕が決してお金では買えない価値観に気づかせてくれた1曲を挙げるとするならば、それは、ザ・ブルーハーツが1988年11月23日にシングルリリースした「TRAIN-TRAIN」です。彼らの初期の集大成とも言えるサードアルバム『TRAIN-TRAIN』の1曲目に収録されている表題曲であります。
1981年にデビューしたザ・モッズ、1982年に『MORAL』でメジャーデビューしたBOØWY、そして1987年に登場したザ・ブルーハーツ。それまで反逆の象徴であり、マイノリティな存在だったロックが市民権を得て、多くの人の生活の中に浸透してゆきます。ここに挙げた3つのバンドの共通項は、パンクロックに大きな影響を受けているということ。それは、1977年にセックス・ピストルズが「ノー・フューチャー」と叫んだ絶望の音楽を昇華させ、ティーンエイジャーたちは未来の指標を作ります。それは、邦楽シーンの歴史を塗り替えたと言っても過言ではない大事件でした。
僕が「TRAIN-TRAIN」を挙げた理由は、パンクロックのような、絶望、痛み、溜息しかない世界から生まれた歌が、どれだけ多くの人を励ましたか… という点にあります。僕もそのひとりでした。ギターの真島昌利がソングらライティングを手掛け、甲本ヒロトのシャウトが永遠のように耳に残るこの曲では、こんな風に歌っています。
弱い者達が夕暮れ
さらに弱い者をたたく
その音が響き渡れば
ブルースは加速していく
見えない自由が欲しくて
見えない銃を撃ちまくる
本当の声を聞かせておくれよ
つまり、物質の享楽に溺れた僕らの心の奥で燻っていた一抹の寂しさを、この曲は冒頭で丸裸にしてくれます。どんなに街がきらびやかになって、新しい服、新しい車… そんなものに囲まれていても、心は満たされないんだよということを突きつけてくれたのです。だからこんなに絶望的な歌詞でも、そこに僕らは未来を見出だせたのと思います。
思い起こすマーシーの言葉「自由な心でいましょう」
そして、「TRAIN-TRAIN」はこんな風に続きます。
世界中にさだめられた
どんな記念日なんかより
あなたが生きている今日は
どんなにすばらしいだろう
世界中に建てられてる
どんな記念碑なんかより
あなたが生きている今日は
どんなに意味があるだろう
ここで心を丸裸にされたハタチになったばかりの僕は気づくのです。「流されるな。自分をしっかり持て! そこに生きる価値があるのだ!」ということを。それは当時のマーシーが常々言っていた「自由な心でいましょう」ということだと今も思っています。
ザ・ブルーハーツが教えてくれた生きる指針
バブル期にスターダムにのし上がったザ・ブルーハーツは、この曲だけではなく、数多くの曲を通じて「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」ということを僕に教えてくれました。それは、物質的にどんなに満たされて、最先端の洋服で着飾っていても自分にしかないブレない軸を持っていなければ、虚しさは積もっていくばかりだということです。
あれから30年。時代は流れ人々の価値観も多様性を持って変わってきましたが、僕の生きる指針はこの曲の中にあります。だから今もこの曲を聴くと心の奥底にあるマグマのようなものがメラメラと燃え上がってくるのです。
あなたには、どんな元気が出る応援ソングがありますか? もはや戒厳令下とも言える緊急事態宣言の最中だからこそ、語って欲しいのです。
リマインダー好評のZOOMイベント、次回は「元気が出る応援ソング」です。もちろん、人それぞれに思いも心の中に流れるメロディも異なると思いますが、たっぷり語って明日への指針を再確認したいですね。
【編集部よりお知らせ】
来たる2021年1月23日(土)に、当サイト Re:minder 主催でオンライン・プレゼンショー『エールをおくろう「元気が出る!応援ソング」ZOOMイベント』を開催します。パソコンやスマートフォンをベースにZOOMアプリを使用しての参加型トークイベントで、今回のテーマは「元気が出る!応援ソング」です。あなたのエール、聞かせてください!
2021.01.15