4月4日

高橋幸宏「大人の純愛三部作」にみる J-POP のテーマと歌詞

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高橋幸宏のアルバム「BROADCAST FROM HEAVEN」がリリースされた日
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高橋幸宏「大人の純愛三部作」テーマは、天国、来世、幸福


平成元年、1989年に『夜のヒットスタジオ』司会の古舘伊知郎が「今年、もっともトレンドな同窓会」と評したサディスティック・ミカ・バンドの再結成。その仕事を終えた高橋幸宏は90年代前半、毎年春に「大人の純愛三部作」と呼ばれるアルバムをコンスタントにリリースしていく事になる。

その一作目が『BROADCAST FROM HEAVEN』で、アートワークはかつて細野晴臣『はらいそ』(78年)のジャケットを担当した横尾忠則。続く91年に『A Day in The Next Life』、92年には『LIFE TIME, HAPPY TIME~幸福の調子~』をリリース。

そのテーマは「天国」「来世」「幸福」と不惑の40代に差し掛かろうとしていた幸宏さんのいぶし銀のボーカルとも相まって、消費されるための分かりやすい歌詞が蔓延していた当時の J-POP の中で、ひときわ異彩を放つ深淵なテーマを描き出す事に成功している。

本家「純愛三部作」ユーミンと高橋幸宏の接点


ところで、1990年、ユーミン(松任谷由美)がリリースしたアルバムのタイトルは『天国のドア(THE GATES OF HEAVEN)』。期せずして、同じ J-POP の土壌で活動する二人が、この年のアルバムのテーマに “天国” を据えている。幸宏さんが自身の “純愛三部作” に敢えて “大人の” と添えたのは、同じく東芝EMI から年末の風物詩としてリリースされ、89年に完結したユーミンの “純愛三部作” と差別化を図ったものと思われる。ここで、ユーミンと幸宏さんの接点を整理しておきたい。

幸宏さんのソロキャリアのスタートである、YMO 結成前夜にリリースされたファーストアルバム「Saravah!』(78年)は、当時の男性ソロアーティストの作品らしからぬ洗練された佇まいから、一部では “男ユーミン” と評されたりもしていた。

また、21世期以降の自身のソロ活動のコンセプトを “男ユーミン” と据えた桑田佳祐。幸宏さんが、伊豆に別荘を構えていた時期、一緒に釣りを楽しんだ顔触れの中に、彼の姿も度々、見受けられたようだ。

桐島かれんをゲストボーカルに迎えた平成元年のミカバンド以前、1985年に旧国立競技場で国際青年年記念イベントとして開催された『ALL TOGETHER NOW』のステージ上でサディスティック・ユーミン・バンドとしてボーカルを取ったのはもちろん、ユーミンその人であった。

実はユーミン、かつては幸宏さんの実兄である高橋信之氏(BUZZ の名曲「ケンとメリー~愛と風のように」の作曲者でもある)が所属していた GSグループ、ザ・フィンガーズの追っかけをしていたという浅からぬ縁だったりもする。

ロック界の笠智衆? 話題に事欠かなかった高橋幸宏


さて、1990年前後の幸宏さん周辺を見渡してみると、前述のミカバンドのプロジェクトを終えた桐島かれんは幸宏さんのソロツアーにもゲストとして帯同。ファーストアルバム『かれん』の制作には幸宏さんの人脈も色濃く関わっている。

続いて、幸宏さんプロデュースでデビューした高野寛が、シングル「虹の都へ」をスマッシュヒットさせる(前回の拙コラム『高野寛の歌う「虹の都」は今、どこにあるのか?』参照)。高野が『夜のヒットスタジオ』に出演した際には、授業参観と称して幸宏さんは特別出演したりしていた。

他にも、ドラマ『とんぼ』で長渕剛の妹役を好演し、吉田栄作とのデュオ NOA 名義でミリオンヒットを出した仙道敦子と女性向け転職情報誌『サリダ』のCMで共演。シーナ&ロケッツが「♪職業選択の自由 アハハン」と歌うインパクト充分の「憲法第22条の歌」をバックに、一言も発する事なく枯れた魅力でその存在感を示す。CMでの怪演を裏付けるかのようなエピソードとして、ご本人含む幸宏さん周辺では、冗談めかして「ロック界の笠智衆」(小津安二郎監督作品の常連で、日本を代表する老け役の一人)を目指す!などと語られていたという。

さらには、幸宏さんが大ファンだと公言する作家、椎名誠の初監督作品、映画『ガクの冒険』のサウンドトラックを担当。制作発表記者会見当日まで映画音楽の事を忘れていたという椎名から、その場で直接依頼された。低予算での撮影のため「ほかほか弁当2個程度」のギャランティーしか払えないという無茶振りを快諾したりと話題には事欠かなかった。

KAN「愛は勝つ」と比較して読み解く大人の純愛とは


“大人の純愛三部作” 時代の作品から、歌詞の面にフォーカスしてみよう。比較対象は、90年9月にシングルカットされた、KANの「愛は勝つ」。今をときめく音楽評論界の革命者二人、マキタスポーツ氏が “カノン進行” と提唱し、なかんずくスージー鈴木氏により “がんばろう系カノン” の筆頭として取り上げられた曲だ。

「愛は勝つ」が大ヒットした翌91年2月、幸宏さんは「愛はつよい stronger than iron」を “大人の純愛三部作” 二作目のアルバム『A Day in The Next Life』からの先行シングルとしてリリースした。

作詞は、自身もバンド出身であり、アイドルへの詞提供からアニメの主題歌までをこなす詩人、森雪之丞。そして YMO 時代からの盟友、クリス・モズデル。この楽曲は、香港の主権がイギリスから中国へ変換された1997年にも、幸宏さんプロデュースにより、香港出身のシンガー、エリック・ソン(孫耀威)がカバーし、現地でもリリースされた。ここでは、おそらくクリス・モズデルが担当しただろう英詞部分に着目したい。

 Love's stronger-stronger than iron
 Love's wiser-wiser than I am
 Love's thicker-thicker than thieves are
 Love's kinder-kinder than I was

 Love's sharper-sharper than steel
 Love's harder-harder than nails
 Love's stronger-stronger than iron
 Love's wiser-much wiser than I am

シンプルな構成のリフレインでは、こう歌われている。

 愛は鉄よりも強く
 私よりも賢く、私よりも優しい

 愛は鋼よりも鋭く、爪よりも硬く
 愛は私よりもずっと賢い

大人の純愛、それは愛が勝つとは限らない真実


平成バンドブームが陰りを見せ始めたのと裏腹に、タイアップを武器に台頭し、セールスの面で成果を出したシンガーソングライター勢。その多くは難解な表現を避け、平易な言葉で、あくまで前向きに愛を賛嘆する作風が見受けられた。そのなかでも潔く “恋愛至上主義” を訴求したKAN の世界観が広く大衆に浸透した事実に異論はない。ところが、ベテランロックアーティストにはそんな風潮を揶揄する者も居たようだ。

このとき幸宏さんは、彼らと同じ J-POP というフィールドで、国際的にも通用する楽曲を通して “愛が勝つとは限らない真実” に、そっと言及している。時には激しく傷付け合ったり、損なってしまう可能性も添えてこその “大人の純愛” がそこにはある。


ユーミンの “純愛三部作” については、カタリベ 鈴木啓之さんのコラム(松任谷由美が描く純愛三部作の傑作「Delight Slight Light KISS」)に詳しいので是非ご覧ください

2020.01.30
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