友人の結婚式が先日あった。もうそんな時期かなどと思いながら、三次会のカラオケに行くと、同じ歳(26歳)の女の子から、思わぬ質問をされた。
「トガワジュンって歌手、知ってる?」
僕は途端に変な声を出して驚いてしまったのだ! 知っているもなにも、今でも彼女のライブには行くし、CDはすべて持っている!
「大好きだけど、なんで!?」と訊いてしまったが、同世代同士で戸川純をお互いが知っているのもオカシな話だ。その後「なんで、知ってるの!?」と訊き返されたのも当然だ。
きっかけはYouTubeだったという。彼女はもともとヴィジュアル系バンドの追っかけをしている、いわゆる「バンギャ」で、そのアーティストが影響を受けたと公言していて気になって検索をしたそうだ。
現在のインディーズ・ヴィジュアル系には、どうやら「病み系」や「鬱系」というジャンルがあるそうで、エイティーズ的表現をすれば「ほとんどビョーキ」なヴィジュアル、歌詞が特徴のようだ。それが心の病気を持ったような人=「メンヘラ」と呼ばれる、一定の層から根強い支持を得ているようなのだ。
そしてどうやらその原点に、戸川純が位置付けられているという。
さて、マイクが彼女に回ってきた。「じゃあ歌っちゃおうかなー」などと言いながら彼女が歌い出したのは、なんとヤプーズ89年の名曲『Men's JUNAN』だった。
躁病的とも言えるようなベースの効いた、転調するメロディ。それに乗せられる歌詞は、じつに病んでいるが最高だ! 女性である「私」が恋する男性への重すぎる愛をストレートに歌うが、「私」はそれを後悔している。そして男性への憐憫で歌は終わる。
かわいそうにこんな女を
それでも抱きしめる
ああ あなたの 腕の中で
二度ともう二度と
ああ トレランスなあなたの受難
結婚式帰りのカラオケで、熱唱する歌ではないことは確かだ。周りの友人らの、あっけにとられた顔は忘れられない。ともあれ彼女も僕も80年代当時、相当なイロモノ・アイドルとして消費された彼女を知らない。知っているのは、そのエキセントリックで素晴らしい音楽だけである。
90年代生まれは、椎名林檎や鬼束ちひろ、Coccoなどを通過した世代だ。もちろん厳密な意味で、これらの女性アーティストと戸川純は別物であろうが、その聴かれ方にはどこか似たところがあり、戸川純はその原点であろう。そして、彼女たちのファンの中で、戸川純に行き着く人も多い。
このように、豊穣な80年代が生んだ奇妙な果実は、こうして確実に現在進行形で聴かれている。彼女のライブに行ってみると良い。そこでは中高生が(親に連れられてではなく)参加し「純ちゃーん」と叫んでいる。
そして去年、音楽活動35周年を迎えた戸川純はセルフカバーアルバム『わたしが鳴こう ホトトギス』を発表した。戸川純は、確実に「今=現在」のアーティストなのだ。
2017.05.01
YouTube / Togawa Fan
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