スーッとした清涼感のあるなかに、カラフルさやあたたかみを感じる「どんなときも。」
「この曲を題材に絵を描くなら、どんな色の絵の具を最初にキャンバスに塗るか?」ということを時々考えることがある。
「どんなときも。」は、スーッとした清涼感のあるなかに、カラフルさやあたたかみを感じる楽曲だ。澄みきった青空を表現する、クリアなブルーの水彩をスケッチブックに落としていこう。そして透明感のある色を使って描いていこう。
映画『就職戦線異状なし』のテーマソングとして、1991年6月10日にリリースされてから既に33年近くが経った。その後CM(ケンタッキーフライドチキン)のタイアップもあり、国内、海外を問わず多くのアーティストにカバーされて、もはやスタンダードなポップスとして親しまれている。槇原敬之さんのやわらかい歌声は、やさしく、そして力強く背中を押してくれる。
槇原敬之を日本のポール・サイモンにしたい
槇原敬之さんがデビューした時のプロデューサー・木﨑賢治さんは、「槇原敬之さんを日本のポール・サイモンにしたいと思っていた。Loveだけじゃない、生き方のある音楽を作って欲しい」と、福岡で行われた2022年の大村雅朗さんのトリビュート・コンサートで語っていた。
シンプルで親しみやすいメロディ。リズムも難しくないし、誰でもすぐに覚えられる。学校の教科書に載ったこともあったし、合唱曲としても多く取り上げられた。
市井で生きる人を応援する、こまやかな心情を表現したことば
「どんなときも。」のクレジットは、作詞・作曲・編曲ともに槇原敬之さん。槇原さんは詞を書いてから曲をつける作家と何かで読んだが、詞先が生きている楽曲だ。市井で生きる人を応援する、こまやかな心情を表現したことばに沿ったポップなメロディ。そして槇原さんの歌を引き立てる、上品なアレンジ。全部22歳の槇原さんが作ったというのは、天才的といっていい。歌に入る前やサビ前に出てくる背中を押すような「ジャンジャン」というフレーズ、ドラムの使い方等、目立たないがいいお仕事がたくさん聴こえてくる。
ピアノやギターでの弾き語りも、細かいところまで完コピするのでなければ、さほど難しくない。とてもシンプルなカノン進行のコードで、ギターでも簡単に弾けるのだが、サビに入る前の「ジャンジャン・ジャジャ」の一瞬の不協和音、ここで一瞬つまずいてしまう。実はこれがとても効いている。このつまずきがあるから、その後の半音下の「♪どんなときも どんなときも 僕が僕らしくあるために」が印象的になり、説得力を持つのだ。
日々の暮らしのなかで希望を見出して、背中を押してくれる名曲
この曲が作られたのは1991年。バブルのピーク時からは景気が落ち始めていて、中東では湾岸戦争が勃発したものの、まだどこか明るい時期だった。ただ、どんな時代であっても、人間は生きている限り、どんな年代の人でも、何かしらの悩みや不安を感じるものだ。学生でも若手でも中堅でも年配者であっても、みんなそれぞれ何か言えない苦しさを抱えている。
「どんなときも。」が大ヒットした背景には、もちろん映画やCMソングのタイアップもあるが、それ以上に、この曲を聴いた多くのひとたちが、日々の暮らしのなかで希望を見出して、背中を押されて頑張っているところにあったのだろう。傷ついたって、いつか夜が明けて朝が来る。毎日それを繰り返して、わたしたちは生きつづける。どんなときも。そしてきっと答えが出る。背中を押す歌は、優しく慰める歌でもある、
2024年が明けた。迷い探し続ける日々が今年もきっと待っている。毎日、太陽が昇り、明るく照らし、都会ではビルの間を、山間部であれば山の間を窮屈そうに夕陽は沈んでいく。そんな夕陽は、赤と黄色の色鉛筆で塗ろうか。夕陽が落ちた後の空は、最初に使ったクリアブルーを濃くした色に溶かしこんだような、とてもきれいな色になる。
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2024.01.03