日本レコード大賞で作詩賞、小泉今日子「あなたに会えてよかった」
まず、この曲の作詞が小泉今日子本人、というのは誰もが知っていることだろう。キョンキョン、悔しいほど多才。てっきり根っからの体育系で、文章なんて興味がないと思っていたのに! …… というのが、リアルタイムでそのことを知った私の感想である。
文章なんて興味がないどころか大の読書家で、アルバムやシングルで、すでに何曲も作詞を手掛けていた。そしてこの曲では『第33回日本レコード大賞』の作詩賞を受賞するのだ。
今見ると、この受賞は本当にすごい。というのも、1991年はとにかく名曲だらけの年だったのだ。特に男性アーティスト楽曲の勢いたるや。年間ランキングを見ても、
1位:KAN「愛は勝つ」
2位:CHAGE&ASKA「SAY YES」
3位:ASKA「はじまりはいつも雨」
4位:小田和正「ラブ・ストーリーは突然に」
5位:槇原敬之「どんなときも」
6位:小泉今日子「あなたに会えてよかった」
7位:B'z:「LADY NAVIGATION」
8位:長渕剛「しゃぼん玉」
…… と続くのである。
これらの歌はとても広い世代から、長く愛される曲ばかり。「あなたに会えてよかった」も、小泉今日子だけでなく多くのアーティストがカバーし、名曲として歌い継がれている。
ドラマ「パパとなっちゃん」と歌とのせつないリンク
「あなたに会えてよかった」は1991年の春クール、TBS系で放送されたドラマ『パパとなっちゃん』の主題歌だった。
ドラマ『パパとなっちゃん』は、コミカルな田村正和と、しっかり者のキョンキョンの相性も抜群で、「ああ、こんな親子いるいる!」と毎回ほのぼのヒヤヒヤしたものだ。許婚役の大江千里がこれまた、やさしいんだけど優柔不断っぽい感じがぴったりだった。
そんな物語の絶妙のタイミングに流れてくる「あなたに会えてよかった」は、イントロから脳内擦り込み抜群の威力(作曲は小林武史)。ドラマとぴったりの甘酸っぱさで、その相乗効果もあり、158万枚を売り上げる大ヒットとなったのだった。
ところが私は、この曲は長い間ラブソングだと思っていた。だから、キョンキョンが実の父親を思い出して書いたものだったと知ったときは驚いた。実生活でも “父と娘のストーリー” のテーマとなっていたのか……!
彼女がエッセイ『黄色いマンション 黒い猫』発売記念イベントで語った言葉をそのまま使わせてもらうと、「本当にウマがあった」お父さんだったらしい
もどかしい父と娘の愛情表現は、こんなにも恋に近いのだ。歌詞の終わり「世界で一番 素敵な恋をしたね」という一行は、当時プロデューサーだった田村充義氏に直しを求められた彼女が、最後につけたという。これまで出会ってきた、大切な人達に向けて。
そして、この曲でレコード大賞・作詞賞を受賞してから、田村プロデューサーは、詞の直しをお願いすることはなくなったという。
歌詞に滲み出る「会えてよかった」という気持ち
そもそも、キョンキョンに作詞をするよう薦めたのも田村氏だったが、その理由は、
「小説の説明や、ドラマの面白い部分を話すのがとてもうまかったから」
…… なのだとか。
まさにその “説明の上手さ” が、この曲の歌詞に凝縮しているように思う。良い意味でものすごくシンプル。奇抜な表現はなく、わかりやすく、とっても素直だ。そしてちょっと内向的。あなたに会えてよかった、“ありがとう”、より「逃げてごめんね」が前に来る。このあたりの後悔というか、罪悪感をこんなにやわらかく、そして絶妙な順序で言える(書ける)なんて。
中森明菜をはじめ、何人ものアーティストがカバーしているが、全員が、言葉を噛みしめるように歌う。それは言葉や文のつながりが、そういった “大切な人への複雑な思い” を重ねやすいからだろう。
この曲が流行った当時は、私は、苦い思いは苦いまま。ポジティブに消化できないタイプだった。だからこの曲もピンと来なかったが、年齢を重ねるほど沁みてくる。ようやく数々の思い出を、素敵だったと受け入れられるようになってきたのかも。そう思うと、この曲「あなたに会えてよかった」は自分の心のコンディションを知るリトマス紙のようでもある。
40周年☆小泉今日子!
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2022.03.19