シティポップ人気を背景に高い評価を得ている「SUNSHOWER」 ここ10数年、シティポップ人気を背景にして、大貫妙子のアルバム『SUNSHOWER』は高い評価を受け続けている。海外でも人気は高く、一例としては2017年8月に放送されたテレビ東京の人気バラエティ番組『YOUは何しに日本へ?』でのエピソードが挙げられる。アメリカ人青年が大貫妙子のレコードを探すために日本へやってきて、ようやっと手に入れたのが『SUNSHOWER』だった。この放送での反響を受けてこのアルバムはアナログ盤がリイシューされ、以降、現在に至るまで何度も再発が繰り返されている。
シュガー・ベイブの解散後、ソロ活動をスタートさせた大貫妙子。日本クラウンのPANAMレーベルに移り、1976年9月25日にファーストアルバム『Gray Skies』でソロデビュー。それからわずか1年足らずで世に出たのが1977年7月25日発売の『SUNSHOWER』だった。シュガー・ベイブ時代の作風も継承していたファーストアルバムに比べて、このアルバムでは大きく方向性を変え、この時期に台頭し、その後フュージョンと呼ばれるクロスオーバー・サウンドを大胆に取り入れたものとなった。
1970年代当時、この2枚は商業的に成功とはいかず、RCAレコードに移籍。ヨーロピアン路線へと移行した4作目『ROMANTIQUE』で独自の世界が確立され、セールス面も上向きになっていった。そして1990年代以降、1970年代日本のポップスの再評価が始まり、多くのDJたちが山下達郎やティン・パン・アレー周辺の楽曲などと並んで、この『SUNSHOWER』からの楽曲を取り上げるようになる。これに加え2010年代後半からの世界的なシティポップ人気で、さらなる注目を集めていったのだ。
新進のスタジオミュージシャンだった坂本龍一の参加 『SUNSHOWER』の制作においては、全曲のアレンジを手掛けた坂本龍一の存在が大きく、アルバム全体のサウンドと方向性を決定づけている。当時まだ新進のスタジオミュージシャンだった坂本は、大貫の前作『Gray Skyes』の数曲のアレンジを手掛けて以来の共同作業。大貫自身も坂本と好きなようにアルバムを制作することを決意。クロスオーバーに興味があったそうで、結果として歌よりサウンド優先を徹底させたアルバムとなったのである。
ミュージシャンも、キーボードには坂本のほか今井裕、ギターは大村憲司、渡辺香津美、松木恒秀ら。ベースに細野晴臣、後藤次利、コーラスにシュガー・ベイブ時代からの仲間である山下達郎などのメンバーが参加している。その中で、本場アメリカのクロスオーバー・センスを加えているのは、アルバム全曲でドラムを叩いている、アメリカのフュージョングループ "スタッフ" のクリス・パーカーだ。
クリスは1977年に4月にスタッフのメンバーとして来日、晴海で開催された『ローリング・ココナツ・レビュー』に参加したところを、大貫妙子の関係者が直接クリスと交渉。翌月、再来日の約束を取り付けたのである。クリスの鋭いグルーヴ感がこのアルバムにおいての要であることは、一聴すればわかるほどだ。
はシティポップの代名詞的な1曲となった「Summer Connection」 個々の曲調も、夏らしくキラキラした音色の「Summer Connection」、スティーヴィー・ワンダーからの影響で作られ、現在ではシティポップの代名詞的な1曲となった「都会」。そしてシュガー・ベイブのラストコンサートでも歌われた、ジャジーなスロー曲「からっぽの椅子」、トッド・ラングレン率いるバンド、ユートピアをイメージして書かれた「Law Of Nature」、ラテンベースの「くすりをたくさん」など、アレンジ面で坂本の豊富なアイデアが次々と具現化されている。ジャズやクロスオーバーはもとより、ソウル、ファンク、AORといった洋楽のトレンドを貪欲に取り入れているのだ。
一方で、作詞面は内省的なものが多い。「都会」に関してもサウンドは洗練されたものだが、歌詞では都市生活の華やかさを否定するかのような内容である。一人暮らしで、時折心にぽっかり穴が開くというイメージを歌詞にした「からっぽの椅子」や、当時の医療に批判的なメッセージで書いた「くすりをたくさん」。全てを雨のように洗い流し、もう一度最初から世の中をやり直したいと訴える「何もいらない」。逃避願望を歌った「誰のために」や「Silent Screamer」など、シニカルな視点でどこかクールな自己客観視が強い。
そう、内省的な歌詞と華やかなサウンドといった真逆の方向性が、不思議な形での融合を成し遂げている。そもそも、アルバムタイトルの『SUNSHOWER』は天気雨という意味だ。晴れているのに雨が降ってくる状況を指す単語がタイトルなのは、明るいのに暗かったり、ハッピーなようでいて憂鬱だったり、相反するものを1つにまとめたこのアルバムの作風を投影したものなのだろうか。
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“ミュージシャンズ・ミュージシャン" 大貫妙子 他のミュージシャンから、その才能や技術に高い評価と尊敬を受けるアーティストを “ミュージシャンズ・ミュージシャン" と呼ぶが、大貫妙子は、よく日本のミュージシャンズ・ミュージシャンとして名が挙がる。装飾を削ったシンプルで繊細な言葉選び、透明感のある美しい声質と語りかけるように歌う歌唱スタイル、独特な音符の飛び方をするメロディーラインといった確固たるスタイルが初期の頃から一貫してあり、こういったぶれない作品づくりが敬意を集める理由なのだろう。
まさにシンガーソングライターの極みといった存在だが、サウンド面ではシュガー・ベイブ時代のアメリカンポップスから、本作におけるクロスオーバー / フュージョン。その後はヨーロピアンテイスト、アコースティックポップ、ブラジリアンなど、様々な変遷を辿っている。
確かに、大貫妙子といえばヨーロピアン調のイメージが、多くの人の中にはあるかもしれない。その前提でこの『SUNSHOWER』を聴くと、驚くほどアグレッシブでグルーヴィーな楽曲群と、荒削りながらも伸びやかに16ビートに乗るボーカルが新鮮に聞こえる。だが、どこか寂しげな冷ややかで孤独を感じさせるメロウな楽曲には、その後の彼女の作品と共通するものがあり、現在のスタイルがこの時点である程度完成していたことを物語る。
同業者にリスペクトを受け続けるミュージシャンズ・ミュージシャン大貫妙子。その独創的で魅力溢れる楽曲群も、世代を超えた音楽ファンに愛され続けている。幾度にもわたるアルバムのリイシューが、何よりそのことを証明しているのだ。
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2026.04.29