4月26日

格闘技的テクノユニット Wha-ha-ha「死ぬ時は別」コンピュータと人間の真剣勝負!

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幻のテクノユニット Wha-ha-ha「BETTERDAYS」からアルバムリリース


BETTERDAYS というレーベルを知っている方は、80年代の音楽事情にかなり詳しいと言えるだろう。このレーベルは、1977年に日本コロムビアの中に設立されたもので、第一回新譜となったのは久保田麻琴と夕焼け楽団の『ラッキー・オールド・サン』だった。

欧米では、フランク・シナトラが設立したリプリーズレコード、ビートルズのアップル・レコードなど、早くからアーティストや音楽のカラーを強く反映するレーベルがあった。そして、日本でも70年代の音楽の多様化によって、CBSソニーが吉田拓郎のレーベルとしてオデッセイを発足させるなど、特色あるレーベルがいくつも誕生していく。

BETTERDAYSもそうした新レーベルのひとつで、坂本龍一『千のナイフ』(1978)、渡辺香津美『KYLIN』(1979)『TO CHI KA』(1980)など、これまでのジャンルの枠を越える意欲作を発表していった。さらに80年代に入ると、久石譲のムクワジュ・アンサンブル、橋本一子、藤本敦夫のカラード・ミュージック、清水靖晃、笹路正徳らのマライヤといった先進的な音楽性をもったアーティストの作品を数多く発表している。

この BETTERDAYS から1981年に発表されたのが幻のテクノユニット Wha-ha-ha のファーストアルバム『死ぬ時は別』だ。Wha-ha-ha をテクノユニットと紹介してしまうのはいささか乱暴な気もするが、説明するほどわかりにくくなってしまいそうなので、とりあえずそういうことにして話を進めさせていただく。

知る人ぞ知る異色のメンバー、坂田明、千野修一、小川美潮、神谷重徳


1981年というと、テクノブームに火付けた YMO は、アバンギャルドな匂いを強めたアルバム『BGM』を発表、さらにプラスチックス、ヒカシューなどの一味違うグループも名乗りをあげていた。

Wha-ha-ha は、そうした動きと触れるか触れないかという微妙な立ち位置にいた。

なにしろメンバーが異色だった。山下洋輔トリオで一世を風靡したジャズ・サックスプレイヤーであり、一世を風靡したタモリの “ハナモゲラ語” の生みの親でもある坂田明、宇崎竜童率いるダウン・タウン・ブギウギ・バンドのキーボーディストだった千野修一、板倉文らと結成したコンテンポラリーバンド、チャクラのボーカリストとして注目されていた小川美潮、さらにジャズギタリストでシンセサイザー奏者の神谷重徳という、なんとどこに接点があるかもわからない不思議な顔合わせだった。

世の中的には知る人ぞ知る存在だったけれど、それぞれが、その道では達人として一目置かれ、しかも変人としても知られていた。まさに、賢者は賢者を知る、とでも言うべき顔合わせだった。僕自身、果たしてこのメンバーが集まってなにをするのか、興味津々ながらもまったく見当がつかなかった。

まさに格闘技、デジタルと生音が呼応する真剣勝負!


その答えとして81年4月にリリースされたのが『死ぬ時は別』だ。探していただければ YouTube などでも音源を見つけることができると思うので、一曲目の「イナナキ」だけでも聴いていただけると、Wha-ha-ha の凄さを感じてもらえるんじゃないかと思う。

シーケンサーによるシンセサイザーのビートにからむように、ドラム、ピアノ、サックス、そして生歌などがスリリングでダイナミックなフレーズを聴かせる。それはまさに馬のイナナキのようでもありながら、まぎれもないテクノサウンドであり、時にフリージャズでもあった。デジタルサウンドと生音が呼応するそれぞれの演奏のクオリティがただならぬものであることもリアルに感じられた。

どの曲からも、メンバーが徹底的に楽しみながら、それぞれの技量のありったけを遠慮なくぶつけ合って真剣勝負をしていることが感じられた。そこには、作品を耳触りの良い商品として成立させようなどという忖度は一切なかった。例え、ポップスとして演奏がスタートしたとしても、メンバーが感じる面白さに応じて演奏はブレーキを外してどんどんエスカレートしていく。そうして、遠慮なしにジャンルを突破していく。そんな掟破りの爽快さが伝わってくるのだ。

しかも、それが単なる頭デッカチのデタラメではなく、高度な音楽技量知識と技量に裏打ちされたメンバーが奔放に暴れてくれるから、まさに格闘技の醍醐味が味わえる。

なかでも、久しぶりに『死ぬ時は別』を聴き直して、小川美潮のヴォーカルの凄さを再確認した。彼女の歌は、一見、80年代以降に流行った個性派雰囲気ヴォーカルのようにも感じられる。けれど、それは稚拙さをごまかす唱法ではなく、彼女はどんな複雑なアンサンブルでも、まるで楽しくてたまらないように軽々と歌いこなしてしまう。坂田明、千野秀一らの超絶技巧に一歩も引けをとらないその歌は圧倒的だ。

ジャンルを超えた創造、時を経て再発見される実験的音楽


『死ぬ時は別』はテクノポップという文脈を使いながら、コンピューターと人間が真剣勝負することで、どこまで刺激的な音楽をつくることかができるかというテーマにチャレンジした作品だった。

このアルバムをリリースした後、wha-ha-ha はライブアルバム『LIVE DUB』、スタジオアルバム『げたはいてこなくちゃ』などを発表していったが、82年には消滅している。

当時も Wha-ha-ha は、一部音楽ファンに熱く支持されてはいたけれど、一般的には知る人ぞ知る存在だった。けれど、80年代前半には、ヒット曲を追求するメジャーシーンとは別に、最初に述べたムクワジュ・アンサンブルやカラード・ミュージックなども含めて、鋭いセンスと高度な技量をもったアーティストたちが、ジャンルを超えた創造活動を展開していこうとする、かなり豊かな “場” があったことも確かだ。そして、こうした80年代の実験的音楽が、ここに来て海外の音楽ファンなどに再発見されつつあるという。それも面白い現象だと思う。

2020.01.20
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カタリベ
1948年生まれ
前田祥丈
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