増田惠子の声の魅力を存分に引き出したソロデビュー作「すずめ」
昨年、増田惠子が「ソロデビュー40周年」を迎えたと聞いて「え、もうそんなに経つの?」とつい驚いてしまった。1981年3月末、後楽園球場でのコンサートをもってピンク・レディーは解散。ケイはその8ヵ月後に「増田けい子」名義でソロデビューを果たす。なんと、中島みゆきの曲で。
ピンク・レディー時代、ハスキーで太く、独特の陰影を持つケイの声質は、明るく澄んだミーの歌声と対をなしていた。この陰陽のハーモニーがあったからこそ、阿久悠・都倉俊一コンビも楽曲に様々な趣向を凝らすことができた。あまり前面には出ないが、陰でしっかり主張するタイプの声だ。
中島みゆき作詞・作曲のソロデビュー曲「すずめ」は、そんなケイ個人の声の魅力を存分に引き出す一曲だった。
失恋した女心を雀に喩えたこの曲を、ケイはあえて感情を抑え、淡々と歌っている。歌声にそこはかとなく漂う薄幸さとけなげさがたまらない。オリコン最高9位のヒットを記録したのは、ケイの歌声にそれだけ人の心を揺さぶる何かがあったからだ。
節目の年を迎えてリリースされた「そして、ここから…」
昨年、そのソロデビューからちょうど40周年。ピンク・レディーでデビューしてから45周年という節目を迎えたケイ。記念盤として、7月27日に2枚組CD『そして、ここから…』がビクターから発売される。
ファンにとって嬉しいのは、ライブ音源を含む「ピンク・レディー時代のケイのソロ曲」に加え、「ソロデビュー後のシングルA面全曲」がレーベルの枠を超えて収録されているところだ。ケイの声の魅力がたっぷり堪能できるし、シンガーとして彼女がどう成長してきたのか、その足跡もたどることができる。
このほか、昨年無観客で開催された「40周年記念・配信ライブ」の模様も収録されていて、スタジオ音源とはまた違ったケイの“生声”が味わえる上に、現在のケイによる「ピンク・レディーメドレー」も楽しめる。
まさに至れり尽くせりのこの40周年記念盤、もう一つ注目してほしいのは「新曲5曲」だ。第1弾で先行配信された「Del Sole」は、ケイが心から楽しんで歌っていることが聴いていて伝わってくる。
配信第2弾の「Et j'aime la vie~今が好き」は、これまでケイ自身が歩んできた人生にも重なる歌詞で、作曲は先日惜しまれつつ世を去った上田知華だ。
また「向日葵はうつむかない」は、阿久悠・都倉俊一コンビの“新作”だ。これは阿久が遺した未発表の詩に都倉が曲をつけたもので、うつむかず前向きに生きるケイにぴったりの曲。ケイの恩師二人に対する深い情愛も感じられる。
「観覧車」も阿久の未発表作で、こちらは宇崎竜童作曲。途中の語りがニクい。
ヨーロッパと縁が深い増田惠子が歌う新曲「こもれびの椅子」
そしてもう1曲、ぜひ聴いてほしい新曲が、6月22日に第3弾として配信された「こもれびの椅子」だ。作詞は松井五郎、作曲は日本在住のイタリア人ピアニスト、アルベルト・ピッツオが手掛けている。
ケイは80年代末にパリでシャンソンを学び、フランスでデビューしたこともあり、ヨーロッパとは縁が深い。先に挙げた新曲のタイトル「Del Sole」はイタリア語だし、「Et j'aime la vie」はフランス語だ。
欧州を愛する日本人のケイと、日本を愛するイタリア人のアルベルトが出逢ったこの曲は、荘重なクラシック風のナンバー。聴く人を優しく包み込んでくれる癒しの1曲だ。
オペラ歌手が歌ってもおかしくない曲だが、ケイが飾ることなく、あくまで自然体で歌っているのが心地よい。
ねえ 今でも醒めない夢もある
二人で築いたこもれび
椅子に腰掛けて、窓越しに風景を見つめる二人。おそらく、長年一緒に人生を歩んできたパートナーだろう。キラキラと光る木漏れ陽は、これまで二人で築いてきた、かけがえのない想い出の喩えかもしれない。
長い人生、涙を流す日もあれば、冷たい雨にさらされる日もある。だがケイは優しく、しかし力強く、こう歌う。
でも必ず季節はめぐるから
並んで見てる光は消えない
二人のこもれび
聴くたびに心に沁みるケイの歌声
41年前、「すずめ」を聴いたときにも思ったが、聴くたびに不思議と心に沁みてくるケイの声。彼女自身の人生にも、いろいろな出来事があって今があり、その一つ一つが歌声に反映されているからだ。
新曲5曲はいずれもクォリティが高いが、この「こもれびの椅子」は本アルバム中、白眉の名曲である。あらためて、ケイの声の魔力にやられてしまった次第。
しかし、こういう聖母のような曲も歌う一方で、「地球の男にあきたところよ」と歌う振り幅の広さ…… 増田惠子、グレイト!
特集! ピンク・レディー伝説
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2022.06.23