エレキギターを弾くために生まれてきた人―― 寺内タケシ
エレキの音は稲妻に似ている。テケテケテケテケ……! 1960年代、ベンチャーズとともにエレキブームを巻き起こした日本初のエレキバンド “寺内タケシとブルージーンズ”。超絶技法で多彩な音を奏でるリーダーの寺内タケシは「エレキの神様」と呼ばれている。
―― なるほど、その演奏は “弾く” という表現だけではまったく足りない! 魂のスイッチがエレキについていて、彼が弦を叩いたり撫でたり引っ掻いたり高速でかき回したりすることで、バーッと命のエネルギーが放出。それが音を出している感じなのだ。
私が初めて見たのは、ベートーヴェンの「運命」のアレンジをライブで披露している映像だった。時が止まった。「ちょっと何これ! ヤバいカッコいい!!」音と一緒に気持ちが高ぶっていくのが分かる。体中にビリビリ電気が流れる感覚がするほどだ―― エレキだけに!
まさに “エレキギターを弾くために生まれてきた人”。そんな寺内タケシのギター歴を辿ってみると、始めたのはなんと5歳! 当時は戦争中で、出征する兄から「開けたら殺すぞ」と言われ預かったギターケースを、その日のうちに開けてしまったのだとか。
ギターを教えてくれたのは、三味線の家元である母親。三味線でギターの稽古をつけてもらう5歳のタケシ少年……。想像するだけでなかなかすごい図だ。しかもかなり厳しかったそうだが、タケシ少年はめげない。それどころか、三味線の音のほうが大きくて悔しくて、ギターに電話機のコイルをつけ、エレキギターを自作したという。なんだかものすごい親子である。音楽にギラギラしている!
ターニングポイントは「エレキギター追放運動」
「絶対開けるな」の禁を破って始まった寺内のギター人生。もう一つの大きなターニングポイントもまた “禁断の空気” がきっかけだったという。それは1960年代中盤に起きた「エレキギター追放運動」だ。
生徒の不良化を促進するとして、ジーンズ・長髪とともに、エレキギターが社会問題視される。そんな時代があったのか……!
エレキギターへの偏見をなくすべく寺内がとった活動はとてもストレートだ。
一つはエレキの誤解を解くべく、学校を回りエレキの演奏を学生に聴かせる「ハイスクールコンサート」を開いた。最初こそ門前払いだったそうだが、寺内の熱い気持ちは門を広げ、1500校を超えるライフワークに。次第に青少年教育の分野で評価されるようになり、2004年文化庁より長官表彰を受けている。
これに並行し「エレキを禁止した大人たちが認める音楽を、エレキで演奏する」という最高の作戦にも打って出た。日本の伝統民謡やクラシック音楽までテケテケと縦横無尽に弾き巡る寺内タケシ!
彼は閉じようとする世界をエレキで開き、パワーを解放させる人だった気がするのだ。
指で魅せる! 「寺内タケシ エレキ!エレキ!エレキ!in YOKOHAMA」
2022年6月に発売された、「寺内タケシ エレキ!エレキ!エレキ!in YOKOHAMA」(1994年・1998年に神奈川県民ホールにて行われたコンサート収録)はそんな彼の情熱とテクニックを確認できる一枚だ。もちろんそのサウンドはCDでもじゅうぶん大迫力だが、映像だと「手」が見えるので興奮は倍。ギターの上を10本の指が舞う!
自身のオリジナル曲に加え、ベンチャーズの「ダイヤモンド・ヘッド」、映画『パルプ・フィクション』のオープニングでなじみのある「ミザルー」、「♪乗ってけ 乗ってけ 乗ってけサーフィン」で懐かしい「太陽の彼方に」、加山雄三の「夜空の星」など、コントラスト豊かに流れてくるので楽しい!
特に「津軽じょんがら節」「ギター・コンチェルト№1」「チゴイネルワイゼン」からの「運命」の流れは圧巻! 緊張感溢れる演奏の間にひょっこり顔をあげ、“ニカッ! ” と笑う笑顔も最高だ。
これからこの映像作品を観る方にアドバイスを。体を動かさずに聴くなんて無理! 自然と横揺れになるので、少し広めのスペースを取って視聴しよう!
エレキの入り口が遠くなる。だからこそ弾いてみる
教えてくれる人も、真似する憧れのカリスマもいない。そんな時代手探りであらゆる奏法を試したパイオニアだから「エレキについて攻め尽くした」という感じなのかと思っていた。ところが違った。NHK映像ファイル『あの人に会いたい』に寺内がゲスト出演した際、こう話している。
「プレイをしたら『もっとこうすればよかった』がいっぱい出てくるのね。入り口がだんだん遠くなる。エレキの入り口が遠くなっちゃう。でも能書き垂れててもしょうがないからね、とりあえず弾いてみる。ギターは弾かなきゃ音が出ない」
弾けば弾くほど入り口が遠くなる。だからこそ弾くしかない――。エレキの神様は、5歳でギターの箱を開けたときから、ずっと同じ気持ちで向き合ってきたのだろう。
2021年6月18日、寺内タケシは82歳でこの世を去ってしまったけれど、溢れ出る音の洪水は、時代もジャンルも超える。
聴けばいつでも、強い気持ちが湧いてくる!
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2022.08.08