10月5日

徹底分析!アン・ルイス「六本木心中」なぜ令和の今でもカラオケ定番曲なのか?

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唯一無二の存在感を放つアン・ルイス


1970年生まれの筆者にとって、アン・ルイスは「70年代に地位を確立したロックシンガーが、80年代にその地位を盤石にした」ように見えていました。

80年代初頭には、お茶の間にも認識されている女性ポップロックシンガーとして、唯一無二の存在感を放っていました。アンの歌はとにかくカッコよくて艶やかで、筆者の世代では “憧れの姉御” として見ている人が多かったと思います。

ですが、実際の70年代のアンが、アイドル的な売り出し方をされていたり、フォーク調やディスコ調の楽曲をリリースしていたりと、活動が多面的だったことは、筆者より上の世代の方はよくご存知だと思います。

また、ヒットという観点では、1982年に作詞:山口百恵(名義は三浦百恵)、作曲:沢田研二の「ラ・セゾン」が彼女最大アンルイス,六本木心中,あゝ無情のレコード売り上げを記録するまで、トップ10に入るヒットがありませんでしたし、「ラ・セゾン」の後もヒットが続きませんでした。

つまり、70年代~80年代前半のアン・ルイスは、地位を確立していたというよりも、様々な挑戦や模索をしていた時期だったと言えるでしょう。

代表曲は1985年にヒットした「六本木心中」


そんな挑戦や模索を経て、アンのキャラクターと楽曲が完全に合致したのが、1985年にヒットした「六本木心中」、そして翌年1986年発売の「あゝ無情」だったと思います。

当時の巷のカラオケでは、アン・ルイスに雰囲気が近い人から遠い人まで、様々な女性たちがアン・ルイスになりきって「六本木心中」や「あゝ無情」を熱唱していました。

「六本木心中」がカラオケで歌いやすい要因とは?


令和の今でもカラオケ定番曲として根強い人気を持つ「六本木心中」には、実はカラオケで歌いやすい要因があるのです。その要因を筆者独自の譜面を使って解説します。下図は、サビの部分の譜面です。



ここでは “レ・ミ・ファ・ソ・ラ” の5つの音が出現していますが、実は「六本木心中」の楽曲全体が、この5つの音だけで構成されているのです。有名な童謡「きらきら星」でさえ “ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ” の6つの音が使われていますから、5つがいかに少ないかが分かります。わずか5つの音だけであれほどの名曲ができているとは信じ難いですよね。これに気づいたときは本当に驚きました。

最低音(レ)から最高音(ラ)までの音域の幅は7音です(厳密には7半音ですが、このコラムでは半音を単に「音」と記します)。1オクターブは12音から成っていますので、「六本木心中」の音域は1オクターブよりずっと狭いというわけです。

邦楽の楽曲のほとんどは、1オクターブ以上の音域幅を持っています。数少ない1オクターブ未満の曲には、PUFFY「アジアの純真」(音域幅:10音)、佐野元春「約束の橋」(同:9音)などがありますが、筆者が邦楽の有名曲の音域を調べた限りでは、7音は “音域幅が最も狭い” 範疇に入ります。

音域幅が狭ければ歌いやすくなりますので、音域という観点では「六本木心中」は最も歌いやすい曲と言えるのです。この圧倒的な音域の狭さが、カラオケの定番曲になっている一因と言ってよいと思います。

2つのバージョンが存在する「六本木心中」その違いは?


ところで、読者の中には “あれ…「六本木心中」の音域幅はもっと広いのでは?” と思った方もいらっしゃるでしょう。実はその疑問は正しいのです。下図を用いて、その理由を解き明かしていきましょう。


この図の “変則メロディー” を見て「確かにこんなメロディーあった」と思い出した方もいらっしゃるでしょう。このメロディーは、2番と間奏が終わった後の、いわゆる “リフレイン” “大サビ” と呼ばれる箇所に2回だけ出現します。

ところが、逆に「こんなメロディー知らない」「カラオケではこのメロディーを歌わない」という読者もいらっしゃるでしょう。また、変則メロディーが入ると、音域幅が7音ではなく10音になります。いったい、どういうことなのでしょうか。

ここでピンときた方もいらっしゃると思いますが、実は「六本木心中」には2つのバージョンが存在するという話と結びつきます。「六本木心中」は発売から1ヶ月で、音源やジャケットが差し替えられているのです。この差し替えの経緯は、まこりん さんのコラム『日本の80年代にはアン・ルイスがいた!「六本木心中」からの「遊女」で最高潮!』に書かれています。

本コラムでは、発売当初のバージョンを【初期Ver.】、差し替えられた後のバージョンを《後発Ver.》と記すことにします。2つのバージョンの聴き分け方として有名なのは,イントロで「1・2・3・4!」というカウントがあるかどうか(有り→《後発Ver.》、無し→【初期Ver.】)ですが、メロディーや音域に関しても以下のような違いがあります。

【初期Ver.】通常メロディーのみ。音域幅:7音
《後発Ver.》変則メロディーが出現。音域幅:10音

本コラム前半の「“レ・ミ・ファ・ソ・ラ” の5つの音だけで構成されている」という記述は【初期Ver.】に当てはまります。一方、それより後の「音域幅はもっと広い」「リフレインで変則メロディーが入る」という記述は《後発Ver.》に当てはまるのです。

2つのバージョンを聴き比べると、アレンジの違いなどもあり《後発Ver.》は華やかな印象があります。こちらの方が聴きなじみがあると感じられるのは、1985年にヒットした時点で《後発Ver.》が使われていたからでしょう。

一方で【初期Ver.】は、わずか1ヶ月という短命に終わったことや、5つの音だけで構成されていることに思いをはせると、味わい深く聴くことができると思います。《後発Ver.》の変則メロディーにはやや唐突感が感じられることもあり,筆者は【初期Ver.】の方が好みです。



ぜひ皆さんも、改めて聴き比べてみてください。【初期Ver.】は曲名が「六本木心中(Original Version)」と記載されており、以下に示すベストアルバムに収録されています。

【初期Ver.】『WOMANISM I』
《後発Ver.》『WOMANISM COMPLETE BEST』ほか

本コラムでは「六本木心中」をメロディーや音域という観点から考察してみました。「六本木心中」の音域が極めて狭いことは、かなり意外だと感じられたのではないでしょうか。また「六本木心中」の2バージョンに関する、メロディーや音域の違いの話は、今まであまり話題に上らなかった観点だったと思います。ぜひ聴き比べてその違いを楽しんでみてください。

80's ディスコ★パラダイス

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2023.06.05
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カタリベ
1970年生まれ
倉重誠
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