5月21日

日本の80年代にはアン・ルイスがいた!「六本木心中」からの「遊女」で最高潮!

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トレンディドラマの走り? トライアングル・ブルー主題歌「六本木心中」


1984年10月5日発売の「六本木心中」。リリース当時、この曲が自身のキャリアを大きく塗り替えるヒット曲になるとアン・ルイスとそのスタッフは予想しただろうか。この曲がヒットにたどり着くまでは約一年の時間を要した。

最初のきっかけは深夜ドラマの主題歌起用から始まる。シングルリリースから1ヶ月後の1984年11月6日、同曲はとんねるず、可愛かずみ、川上麻衣子らが主演するテレビ朝日系の深夜ドラマ『トライアングル・ブルー』のオープニングテーマとエンディングテーマの両方に起用される。しかも流れるのはアン・ルイスのライブ映像だ。

ドラマ『トライアングル・ブルー』はドラマの途中で都内のおしゃれスポットを紹介したり、ドラマの途中で演者自身の素を見せたり、今振り返ると、メタ的な演出が多く、トレンディドラマや業界ドラマの始祖ともいえる示唆的な作りなのだが(このスタッフは後に『季節外れの海岸物語』を制作する)、これは別の機会に語るとして、とはいえ主題歌を大胆にフィーチャーしたこのドラマは、スタート時点では大きな話題にはならなかった。

ちなみにドラマスタートと同時期の1984年11月5日、ベストアルバム『全曲集』が発売(当初はカセットのみ。アポロンから発売)され、『全曲集』収録のバージョンに合わせる形で11月9日からシングル「六本木心中」の音源とジャケットが差し替えられている。

結果を出せずに次シングル「ピンク・ダイヤモンド」へ


1984年、「六本木心中」はブレイクの兆しがないまま、同曲のプロモーションはいったん終了。次のシングル「ピンク・ダイヤモンド」(1985年3月5日発売)へのプロモーションへと移行する。

「ピンク・ダイヤモンド」は大塚食品のインスタント麺「アルキメンデス」CFソングに起用された(アンもCMに出演)。この「アルキメンデス」も “歩きながら食べる麺” というコンセプトや「止まって食べてはいけません」というキャッチコピーが忘れがたい “ザ・80年代” 的商品なのだか、この深掘りも次の機会に置くとして、3月21日には、「ピンク・ダイヤモンド」含むアルバム『Dri夢・X-T-C』をリリースする。

当時のアン・ルイスはシングル曲のほとんどをアルバムに収録しているにもかかわらず、「六本木心中」はアルバム収録を見送りしているところからして、1985年春の時点でもこの曲は大きなヒット曲となっていないことがわかる。なお、「ピンク・ダイヤモンド」(売上:0.6万枚)『Dri夢・X-T-C』(売上:2.7万枚)ともにセールス的に大きな成果を残すことはかなわなかった。

アイドルとアーティストの垣根を超えた「ANN CALL」開催


潮目が変わったのは6月に入ってからだ。

1985年6月9日、アン・ルイスは日比谷野外音楽堂で『ANN CALL'85』を開催する。これはアン・ルイスが企画した野外イベントで、アン・ルイス風にざっくり言うと「アンちゃん、サイコーの友達たくさん呼んだから、みんなで一緒に大騒ぎしようぜー」というもので、第1回目となる85年は、Char、織田哲郎、北島健二、原田真二、子供ばんど、吉川晃司、RATS&STAR、三原順子、早見優、石川秀美、山下久美子、太田裕美らが参加した。

アイドル・アーティストの垣根なし、アン・ルイスの感性に刺さった友達だけを呼んだこの素敵なパーティーは、「芸能界と音楽業界、両方楽しんじゃおうぜ」という、セルフプロデュース開始以来の一貫したアン・ルイスの姿勢を視覚化、具現化したもので、参加アーティストにも大きく影響を与える(特に80年代のアイドル系歌手のアーティスト化に関してはかなり影響があったのではなかろうか)のだが、その『ANN CALL'85』のアンコール、参加アーティスト全員で歌ったのが「WE ARE THE WORLD」と「六本木心中」だった。

“遊び人たちのパーティーソング” として、ここでついに「六本木心中」が注目を浴びはじめる。

なお、『ANN CALL』は1989年まで毎年開催され(90年代は不定期)、後の回では、BOØWY、アースシェイカー、忌野清志郎、近田春夫、サンプラザ中野、荻野目洋子、中森明菜、シブがき隊なども参加した。

ブレイクをあと押しした “とんねるず人気”


もう一つの影響も忘れてはならない。とんねるずのブレイクだ。

1984年の『オールナイト・フジ』起用をきっかけに、シングル「一気!」が年末年始にかけてヒット。1985年は『夕やけニャンニャン』『オールナイトニッポン』と、とんねるずは人気番組を次々と開始。ファーストアルバム『成増』は、お笑い芸人のアルバムでありながらオリコン10位を記録する快挙となる。

この “とんねるず人気” の過熱と合わせるように前述の『トライアングル・ブルー』も注目されるようになり、その主題歌の「六本木心中」もチャートをじりじり上げてくる。

「六本木心中」再プロモーションでブレイクした1985年秋




1985年秋、通常のローテーションであれば次シングルのリリースとなるアン・ルイス陣営であるが、新曲はリリースせず、「六本木心中」の再プロモーションに賭ける。

『ザ・ベストテン in 静岡』での中継や、『夜のヒットスタジオ』での吉川晃司やチェッカーズとのコラボなど、多くの人の記憶に残っているアンルイスの「六本木心中」のパフォーマンスは、この時期のものだ。

なお、吉川晃司との過激パフォーマンス(10月2日放送)は、フミヤとのパフォーマンス(8月28日放送。曲中アンルイスの前にフミヤが膝まづき、それをアンが抱き寄せる)に吉川が触発されたものだと、小生は予想するね(吉川ってそういう奴)。

同時期にとんねるずは「雨の西麻布」が大ヒット、歌うお笑い芸人としての地位を盤石なものとしている。またドラマ『トライアングル・ブルー』の「六本木心中」のオープニングテーマは1985年9月まで、エンディングテーマは1985年12月まで続いた。

データで振り返る1985年のアン・ルイス


シングル「六本木心中」は、最高12位売上29.6万枚と「ラ・セゾン」に次ぐ売上を記録。前述したベスト盤『全曲集』は、LP、CDでもリリースされ、LPは最高15位、CTは最高9位を記録、売上は合計26.9万枚となり、当時のアン・ルイスのアルバム売上の自己ベストを更新した。

また、A面は「六本木心中」をはじめとした過去曲の英語バージョンを収録し、B面は洋楽カバー『Cheek』シリーズからセレクションした『ANNIE’S MIX’85』(85年8月10日発売)まで、売上10.9万枚を記録。前述の『Dri夢・X-T-C』のセールスと比較しても、この時期「六本木心中」バブルによって、売上に強力なバフがかかったことが見て取れる。

「六本木心中」で的をぶち抜いたロックシンガー・アン・ルイス


1977年のシングル「甘い予感」(作詞・作曲:松任谷由実)を契機に、歌手としての自意識に目覚め、ロックと歌謡曲の橋渡しとなるシンガーになろうと決意したアン・ルイスであるが、自己を確立するには相応の時間を要した。

なかにし礼の秘蔵っ子(デビュー当時は事務所も「なかにし礼商会」だった)のアイドルシンガーであった彼女がロックシンガーとなるには、桑名正博をはじめ、山下達郎、竹内まりや、Char、伊藤銀次、北島健二などさまざまなミュージシャンとの出会いが必要だったのだろう。

実際、シングルでは、1978年「女はそれを我慢できない」、1982年「ラ・セゾン」がそれぞれヒットするが、どちらもアン自身が意識していた沢田研二の女版といった印象で、どこか借り物の感は否めず、次のセールスにもなかなか繋がらなかった。

アルバムでも、『LA SAISON D'AMOUR』『HEAVY MOON』と良作が続いたが、洋楽ファン、ディープな音楽ファン向けと言った印象が強く、どこか背伸びをしていて気楽さがなく、なによりテレビ画面に映るド派手でとっぽいアン・ルイスに対して好意的な印象を持つ視聴者にリーチする内容とは言いにくいものであった。

1978年から1984年までのアン・ルイスは、端的に言うと「的には当たっているが、的をぶち抜いてはいない」そんな突き抜けきれなさがあった。

そんなアン・ルイスが「六本木心中」でついに的をぶち抜いた。1986年は「六本木心中」で掴んだ世界をアルバムへと敷衍(ふえん)させていく。

シングル「あゝ無情」からのアルバム「遊女」




1986年4月21日、「六本木心中」と同じ作詞:湯川れい子 / 作曲:NOBODYの座組でシングル「あゝ無情」発売。スマッシュ・ヒットを記録(最高21位、7.0万枚)。さらに1ヶ月後の5月21日、アルバム『遊女』を発売する。「あゝ無情」は「六本木心中」の続編的な作りでアン・ルイスの代表曲のひとつともなったが、おそらく、当時の計画では「あゝ無情」はあくまで先行シングルであり、本丸はアルバムだったのではなかろうか。

「六本木心中」をラッキーパンチに終わらせない、アルバムでもがっつり当ててみせる。『遊女』は、そんなスタッフと本人の気迫がみなぎる名盤だ。なおアン・ルイス自身の作詞・作曲が4曲もあり、ライターとしての本人参加率も今までにもなく高い。

このアルバムは、オープニング「Honey Dripper」、続いて「立ちっぱなしのBad Boy」と迷いの一切ない、シングル級のフックの強い曲でリスナーの耳を強引に引っぱっていく。

 今夜もめかして ナイト・ムーヴァー
 腰に自慢の NA GA DO SU 下げた
 噂のあいつは 切り裂きJACK
 恋し乱れし Honey Dripper
 (「Honey Dripper」作詞:柴山俊之 / 作曲:高橋ヨシロウ)

 立ちっぱなしのBad Boy
 顔とセンスは合格よ
 立ちっぱなしのBad Boy
 あとは中身が問題ね
 (「立ちっぱなしのBad Boy」作詞:柴山俊之 / 作曲:うじきつよし)

性のメタファーだらけの下世話スレスレの歌詞、サウンドは衒いなくど真ん中のハードロック。それを肉食の大型獣のようなアンルイスのボーカルが怒涛のごとくなぎ倒していく。その姿のなんてエロティックで、セクシーで、ゲーノーカイ的なきらびやかさが満載で、魅力的なこと!

この密度と勢いはラストナンバーの「トライアングル・ブルー」まで一切緩むことがなく、リスナーに曲をスキップさせる隙を与えない。

アーティストの地位を確立。女流ハードロックアルバムの名盤「遊女」




『遊女』は「六本木心中」で掴んだ世界観をさらに深化・進化したアルバムであり、アン・ルイスというアーティストの完成形だ。売上も最高3位、17.4万枚と自己のオリジナルアルバムの最高を記録、クオリティーとセールスの両面から見て、アン・ルイス『遊女』は、中森明菜『Stock』と双璧の80年代女流ハードロックアルバムの名盤といって差し支えないだろう。

この『遊女』のヒットを契機にアン・ルイスは、その時々のシングルヒットに左右されないアルバムアーティストとしての地位を確立し、『遊女』から1992年の『K-ROCK』まで、6作連続でオリジナルアルバムがベスト10内にランクインした。

『遊女』から1989年の『MY NAME IS WOMAN』まで4作連続で続いた、「女」をタイトルに入れた「女」シリーズ4部作が、アン・ルイスの歌手としてのキャリア・ハイと見ていいだろう。

日本にはマドンナもシンディー・ローパーもいなかったけど、アン・ルイスがいた


最後に蛇足。「六本木心中」のサビの「桜吹雪に ハラハラすがり」の部分。「桜吹雪にすがる」って、どういう意味だろう… と長年疑問に思っていたのだけれども、最近ふと気づいた。これアレだ。桜吹雪の刺青のことだ。つまり桜吹雪の刺青のあるあなたの背中にすがって「あなたなしでは生きてゆけぬ」と思っている… と。この歌「心中」だからね、歌舞伎の世話物のようなものと考えれば、これが正解か… と。湯川先生どうでしょうか、当たってる?

さらにさらに蛇足。ぜひアン・ルイス出演をまとめた『夜のヒットスタジオ』DVDを超絶希望!!

ヒョウ柄、金髪なんていつものこと、頭にオウムつけたり(「アイム・ア・ロンリー・レディ」)、孔雀つけたり(「六本木心中」)、SMの女王になったり(「薔薇の奇蹟」)、体半分男性になったり(「ピンク・ダイヤモンド」)、常に過激な衣装を身にまとい、楽曲ごとに千変万化し視聴者をアディクトするアンの勇姿は、当時の中森明菜と双璧であり、2022年の今でも強い訴求力をもっているにもかかわらず、今や覚えていない人が多すぎるのがあまりにも惜しすぎる。

「80年代の日本には、マドンナもシンディー・ローパーもレディ・ガガもいなかったけどアン・ルイスと中森明菜がいた」
「80年代は確かに日本の音楽業界と芸能界のフォール・エポックだった。テレビの向こうは毎晩お祭り騒ぎで、その中心にはアン・ルイスがいつもいたのだ」

―― そう、確信をもって誇れるはずだ。

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2022.06.05
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