70年代の番組には欠かせなかった山下毅雄の音楽
カッコいいけど、なんだか怖い。子どもの頃観たテレビ番組には、そんなテーマ曲が多かった。
まず思い出すのが、『テレビ三面記事 ウィークエンダー』で使われていたクインシー・ジョーンズの「アイアンサイド」。
『土曜の夜は「ウィークエンダー」エロい再現フィルムに凍りつく茶の間』で書いたのが、この曲のコラムだ。不気味なサイレン、強烈なホーンセクション。今でも耳にすると、ゾクッとくる。
そしてもうひとつ、これも書かなきゃいられない。1974年から10年間に渡って放送されたクイズ番組『霊感ヤマカン第六感』のテーマ曲である。
ウーウーウーウー 霊感
ウーウーウーウー 霊感
ツーツーツーツー ヤマカン
ツーツーツーツー ヤマカン
番組タイトルを聞いて、あの歌がすぐに頭に流れた中高年は多いのでは。作ったのは、1960年代から数々のテレビ番組の音楽を手掛けた “奇才ヤマタケ” こと山下毅雄。哀愁たっぷりな口笛やハミングが印象的な『大岡越前』、スキャットが色っぽい『時間ですよ』『プレイガール』など、70年代の番組にはヤマタケの曲が欠かせなかった。
『ルパン三世』の音楽といえば大野雄二の印象が強いが、第1シリーズ(1971~72年放送)の担当はヤマタケ。のちに奥田民生もカバーし、「♪ワルサーP38~」のフレーズが印象的だったエンディング曲「ルパン三世主題歌Ⅱ」も手掛けている。
70年代のテレビ番組でよくモダンジャズが使われていたのは、ヤマタケの影響が大きかったことをのちに知った。
ヤマタケの得意技てんこ盛り!「霊感ヤマカン第六感」のテーマ
さて、問題の『霊感ヤマカン第六感』のテーマ曲である。スキャット、口笛、華々しいホーンセクションなど、1分ちょっとの短い曲にヤマタケの得意技が詰まっている。なんと贅沢。そして、いかにも何かが起こりそう。カッコいいけど怖いのだ。
この番組、流れもちょっと変わっていた。冒頭にテーマ曲を流すのではなく、司会のオープニングトークと出演者の紹介があってから、曲とクレジットが流れる。オープニングトークと出演者紹介は、さしずめアバンタイトル。さらに、クイズにも使われる9分割のスクリーンを駆使したクレジットも、ドラマや映画のよう。30分のクイズ番組でここまで盛り上げるか、という始まり方なのだ。
司会はフランキー堺(初代は野末陳平だったらしい)。1950年代から活躍する大物喜劇役者がクイズ番組の司会というのも異彩を放っていた。オープニングでは、「世界で一番楽しい番組」「今週の目玉商品」「世界はこの番組を待っていた!」など、大げさなまでのMCで番組を盛り上げる。そこにあの曲が流れたら、いやがうえにも期待は高まるというものだ。
だが…… クイズ自体はものすごーく単純。相手チームのスクリーンのお題を見て、自分のスクリーンのお題を当てる「霊感ゲーム」、9分割スクリーンから該当するものを当てる「ヤマカンゲーム」など、派手な演出は一切なし。NHKの長寿クイズ番組だった『連想ゲーム』を参考にしたであろうことは、子どもながらにぼんやり気づいた。
正直言って、テーマ曲まで聴いたところで裏番組にチャンネルを変えたり、「宿題やんなきゃ」と自室に行ったりしたこともたびたび。テーマ曲が流れるところが、番組のクライマックスだった気がする。10年も番組が続いたのはテーマ曲のおかげ…… というのは言い過ぎだろうか。
ヤマタケこそ“日本のクインシー・ジョーンズ”
ヤマタケ、他にも有名なクイズ番組のテーマ曲を手掛けている。1分間に12問もの出題が矢継ぎ早にされる番組内容にぴったり、サスペンスフルな『クイズタイムショック』。「アターック!」というヤマタケ自身の叫びで始まる『パネルクイズ アタック25』。今聴いても、どれもクールでカッコいい。いずれも司会は大物俳優。だからこそ、ドラマチックなヤマタケ曲がハマっていたように思えた。
その活躍に対して、ヤマタケの知名度が今ひとつなのはちょっと残念。大友良英が大ファンを公言してトリビュートアルバムを出したり、2000年に作品集がリリースされたり、近年再評価はされているがもっと盛り上がってもいいのでは。
モダンジャズから始まり、あらゆるジャンルを飲みこんで曲作りをしたところはクインシー・ジョーンズにも重なる。ヤマタケこそ “日本のクインシー・ジョーンズ” と、私は勝手に思っている。
特集 田原俊彦 No.1の軌跡

2021.08.18