5月24日

オリコン1位!中島みゆきと松田聖子に挟まれたポール・マッカートニーのアルバムとは?

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ポール・マッカートニーのアルバム「タッグ・オブ・ウォー」がオリコンで1位になった日
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オリコン1位!ポール・マッカートニー「タッグ・オブ・ウォー」


5月17日付1位 『寒水魚』中島みゆき(通算6週め)
5月31日付1位 『Pineapple』松田聖子(以降5週連続)

1982年5月のオリコン週間LPチャート。この2枚の大ヒットアルバムの狭間で、1週だけ1位を獲得したアルバムがある。

5月24日付1位 『タッグ・オブ・ウォー』ポール・マッカートニー

It was 40 years ago today
1982年に洋楽でオリコン首位に立ったのはこの1枚だけ。そしてポールにとっては、ソロでは現時点で唯一の、日本の総合チャートNo.1アルバムなのである。

揃い踏み! 英米日でアルバムNo.1


1982年4月26日に英米でリリ—スされたポール2年振りのソロアルバム『タッグ・オブ・ウォー』は、1980年末の盟友ジョン・レノン逝去後、そして前年1981年のウイングス解散後初めてのアルバムであった。

イギリスでは5月8日付から2週連続で1位を獲得し、年間チャートでも16位を記録。アメリカBillboard誌でも年間チャート1位のエイジアのデビューアルバムから5月29日付から3週連続で1位の座を奪い、年間チャートでも28位にランクインしている。

5月10日にリリースされた日本でも、年間で38位という大ヒットとなった。

ジョン・レノンが亡くなって1年半、世間の注目が集まったということも勿論あるだろう。しかし『タッグ・オブ・ウォー』はその大ヒットに相応しい充実度を誇っていたのである。

ビートルズ時代のプロデューサー・ジョージ・マーティンとエンジニア・ジェフ・エメリック


『タッグ・オブ・ウォー』のプロデューサーは、ザ・ビートルズのプロデュースで名高いジョージ・マーティン。ポールとアルバム単位でタッグを組むのは、ビートルズの1969年の『アビイ・ロード』以来実に13年振りで、ソロでは初めてであった。

エンジニアにも、ポールとはソロでも仕事を共にしていたジェフ・エメリックが参加し、ビートルズの黄金時代を築いたマーティンとのコンピが復活した。

その結果、当時のLPレコードの帯には “ブラック・コンテンポラリーとビートリィ(ビートルズ風)サウンドのみごとなまでの融合!” という文字が躍った。前回の『40年前の大ヒット!ポールとスティーヴィーの「エボニー・アンド・アイヴォリー」』で取り上げたスティーヴィー・ワンダーとの共演2曲が正にブラコンだったわけだが、これ以外は本当に “ビートリィ” だったのであろうか。

最強の幕開け!冒頭からメドレー2曲


アルバムはタイトル曲「タッグ・オブ・ウォー」で幕を開ける。その意は “綱引き”。二項対立をテーマにした社会性を有した曲であり、ポールらしい劇的な展開を有する美しいメロディに乗った、オーケストラとディストーションの効いたギターとの競演も聴きもの。3枚めのシングルにもなった、正に “つかみはOK” な大曲だ。

メドレーのように続くのが2曲めの「テイク・イット・アウェイ」。元々リンゴ・スターへ提供する予定だったポップロック。ドラムはリンゴと、そして名手スティーヴ・ガッドがツインで叩いている。リンゴがポールのソロに参加したのもこれが初めてで、セカンドシングルにもなりヒットを放った。別稿『祝40周年「ベストヒットUSA」小林克也のVJスタイルはクリエイターへのリスペクト!』をご参照頂きたい。いずれもシングルになったこの2曲のメドレー、最強と言っても決して過言ではない。

タイトル曲から始まるメドレーでのアルバムのオープニングは、ビートルズの1967年の不世出の傑作『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』やウイングスの1975年の傑作『ヴィーナス・アンド・マース』を彷彿とさせる。“ビートリィ”と称していいだろう。

アルバムのキーワードは “スパニッシュ”と“フュージョン”


続く3曲め「サムバディ・フー・ケアーズ」はアコースティックなミドルスローの佳曲で、間奏でのポールのスパニッシュギターソロが印象に残る。

実は “スパニッシュ” もこのアルバムのキーワードの一つ。11曲めのジャンプナンバー「ドレス・ミー・アップ・アズ・ア・ラバー」にもスパニッシュな風合いがあり、9曲めの、「ブルー・スエード・シューズ」の作者でビートルズも「マッチボックス」等の曲をカヴァーしたロカビリーのレジェンド、カール・パーキンスとの共演「ゲット・イット」の中にも「僕はかつて小さなスパニッシュ・ギターを持っていた」という歌詞が出てくる。

話を「サムバディ・フー・ケアーズ」に戻す。ドラムは前曲に続きスティーヴ・ガッド、そしてベースはポールではなくスタンリー・クラークが弾いている。このリズム隊、正にフュージョンそのもの。2人ともポールとはこのアルバムが初対面であった。 クラークは7曲めの、通貨価値の上下を歌った社会派でヘビーなロックナンバー「ザ・パウンド・イズ・シンキング」でも重量感のあるベースを弾いている。

“スパニッシュ” と “フュージョン” もこのアルバムのキーワード。ポールは巧みに時代を捉えていた。このあたりは “ビートリィ” という称号は相応しくないのかもしれない。

リンゴのドラムも冴える名バラード「ワンダーラスト」


4曲めのスティーヴィー・ワンダーとの「ホワッツ・ザット・ユア・ドゥーイン」については前回を、5曲めのジョン・レノン追悼曲「ヒア・トゥデイ」についても別稿『ふたりの Sir が作った究極のジョン・レノン追悼曲:ポール篇』をお読み頂きたい。

6曲めにしてLPではB面1曲めの「ボールルーム・ダンシング」はホーンの効いたきらびやかなダンスナンバー。リンゴ・スターとポールがドラムを叩いている。

1曲飛んで8曲めの「ワンダーラスト」は、リンゴのドラムも冴え渡る、このアルバムでも屈指の名バラード。タイトルは “放浪癖” の意なのだが、ポールがレコーディングの時に乗った船の名前である。この船長が大麻の臭いを嗅ぎ付け、「さっさと降りろ。逮捕されるぞ」と怒った時のことが歌詞になっている。美メロと詩の乖離が著しい名曲は、ビートルズの「ロッキー・ラクーン」や「マックスウェルズ・シルヴァー・ハンマー」にも見られるポールの個性の一つである。

最後は「エボニー・アンド・アイヴォリー」。ファーストシングルの曲でアルバムが終わるのは、ポールのソロキャリアではこれが唯一なのである。

桑田佳祐も1日3回聴いた “ビートリィ” なメロディ


こうやって全曲見てみると、“ビートリィ” な曲というのはそれほど無い気がする。寧ろフュージョンやスパニッシュ、そしてブラコンといった新しいジャンルに果敢に手を伸ばしている印象の方が強い。このヴァリエーションの豊かさこそが “ビートリィ” なのではないだろうか。

1,7,12と社会的な曲があるのも、当時ジョン・レノンを意識したのかと噂された。その真偽はともかくとして、ジョンの香りがするのも “ビートリィ” と称される所以かもしれない。

そしてこのアルバムの録音も目が覚めるほど素晴らしい。ジョージ・マーティンも当時50代半ば。脂が乗っていたのであろう。この点も “ビートリィ” であろう。

しかし最も “ビートリィ” なのは、やはりその曲の尋常ならざるレベルの高さではないだろうか。名曲ばかりで駄曲も無く、何度聴いても飽きが来ない。リリース当時、桑田佳祐が1日3回聴いていると語っていたことを憶えている。当時高2の僕も、実は全く同じだったのだ。

目標を定めて作られたポール屈指の傑作!


2015年にリリースされたスーパー・デラックス・エディションのブックレットでポールは『タッグ・オブ・ウォー』について、

「ジョンの悲劇を受けた僕の感情を全て注ぎ込み、史上最高のアルバム(原文:‘bestest’album ever)を作ることを目的とした」

… と語っている。ポールは明確に目標を定めてこの傑作を作り上げたのだ。翌1983年のグラミー賞の最優秀アルバム賞にノミネートされたのも、ポールにとっては当然だったのだろう。

最後に個人的な話だが、僕が初めてリアルタイムで聴いた洋楽の新譜がこの『タッグ・オブ・ウォー』だった。その内容、並びにチャートアクションは正にビートルズの再来のようで、ジョン・レノンが亡くなった後の僕らビートルズファンに希望の光を灯してくれた。あれから40年、僕は休むことなくポールを追い続けている。

ポールを語るには、ソロで三本指に入る屈指の傑作、否、80年代ロックを代表する1枚と言っても過言ではない『タッグ・オブ・ウォー』を外すわけにはいかない。

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2022.05.24
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カタリベ
1965年生まれ
宮木宣嗣
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