6月21日
日本における「カノン進行」の源流を探る旅(その2)
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80年代初頭に、松任谷由実『守ってあげたい』(81年)と山下達郎『クリスマス・イブ』(83年)によって広まっていく「カノン進行」の源流を探る連載の2回目です。

参考:『日本における「カノン進行」の源流を探る旅(その1)』

前回は「カノン進行」自体の説明に加えて、プロコル・ハルム『青い影(A Whiter Shade of Pale)』(67年)、パーシー・スレッジ『男が女を愛する時(When a Man Loves a Woman)』(66年)、ザ・ビートルズ『レット・イット・ビー』(70年)の3曲が、日本における「カノン進行」の生成に、大きな影響を与えたというところで終わりました。

では、この3曲のコード進行を細かく見ていきます(比較のためにすべてキーをCに移調します)。まずはプロコル・ハルム『青い影』。

【C】→【Em/B】→【Am】→【ConG】→【F】→【Am/E】→【Dm】→【F/C】→【G】→【G/F】→【Em】→【G7】

特徴は、一般的な「カノン進行」が8小節(実際は4小節なのですが、ここではコード数=小節数として倍で表記します。以下同)の循環コードであるのに対して、こちらは12小節と、少々長いということです。実は、この曲に直接的に影響を受けた日本の曲として、ザ・ハプニングス・フォー『あなたが欲しい』という曲があるのですが、この曲の影響下にある重要な曲といえば、やはり荒井由実の『ひこうき雲』(73年)でしょう。『ひこうき雲』のコード進行はこうです。

【C】→【C/B】→【Em7】→【Em7】→【F】→【F/E】→【Dm】→【Dm】→【G】→【G/F】→【Em7】→【Em7】→【Fmaj7】→【Fmaj7】→【G7】→【G7】

こちらは『青い影』よりも更に長い、なんと16小節の循環コードになっています。

また、3小節目で Em7 が出てくるところや、後ろの方でメジャーセブンスが出てくるあたりも、73年の作品としては非常に画期的で、天才少女・ユーミンの面目躍如という感じがします。

この『青い影』を、バロック臭の強い、ヨーロッパのキリスト教的な「白カノン」とすれば、逆に『男が女を愛する時』は、そのヨーロッパ・キリスト教音楽がアメリカに入って生成したゴスペルの影響下にある「黒カノン」と言えましょう。『男が女を愛する時』のコード進行。

【C】→【G/B】→【Am】→【Em/G】→【F】→【G7】→【C】→【G】

こちらはいたってシンプルな8小節。とりわけ後半は 【F】→【G7】→【C】 と非常にシンプルなかたちになっています。BORO『大阪で生まれた女』(79年)などは、この曲の影響が強いのではないでしょうか。

そして、これら「白カノン」「黒カノン」の中間に位置する、言わば「中カノン」が、泣く子も黙るザ・ビートルズ『レット・イット・ビー』です。

【C】→【G】→【Am】→【F】→【C】→【G】→【F】→【C】

やや簡略化して書きましたが、「カノン進行」とくくるのが少々乱暴な感じがする、ポール・マッカートニーの才気が溢れるコード進行です。

ただし最後の 【F】→【C】 という、いかにもキリスト教的な進行や(俗に言う「アーメン終止」)、ピアノやオルガンを軸としたアレンジ、更には「聖母マリア」が出てくる歌詞など、その強い「キリスト教性」と、ポール・マッカートニーのブルージーな歌唱や、ブルーノートを使ったギターソロなどから、「中カノン」と名付けても違和感のないものです(ちなみに歌詞「Mother Mary」については「聖母マリア」ではなく、ポールの実の母親=メアリーだとする説もあり)。

この曲のコード進行を使った日本の楽曲としては、かぐや姫(イルカ)の『なごり雪』(74年)が挙げられます。ただ『なごり雪』については、ジョン・デンバー『故郷に帰りたい(Take Me Home, Country Roads)』(71年)からの影響の方が強いでしょう。

さて、洋楽において「白カノン」「黒カノン」「中カノン」と出揃ったところに、日本の「カノン進行」の歴史において、最も重要な曲が発表されます。それは、赤い鳥の『翼をください』(71年)です。作曲は、アルファ・ミュージックの社長にして、世紀の伊達男=村井邦彦。

「え、あの曲、カノン進行だっけ?」という声も出て来そうですね。まずは下の動画リンクで曲を聴いてみてください。

まず、イントロが純粋な「カノン進行」になっています。そして、サビ「♪ この大空に~」のところのコード進行を見てみます。

【C】→【G】→【Am】→【Em】→【F】→【C】→【B♭】→【G7】

ほぼほぼ「カノン進行」です。しかし。その「カノン性」(=清潔で敬虔な感じ)をぶち壊すのが、7小節目のB♭です。歌詞で言えば「♪ 飛んで行きたいよー」の「よー」のところ。

キーがCにおけるB♭は、黒人音楽感覚=ブルース感覚を発生させるコードです。つまりこのB♭によって、「白カノン」性と「黒カノン」性が拮抗、ビートルズ『レット・イット・ビー』に匹敵する「中カノン」的な、エバーグリーンな響きを持ち得たのです。

この曲、シングルとしては、そもそもが『竹田の子守唄』(こちらもうっすらカノン臭あり)のB面としてのリリースでしたが、70年代後半から、音楽の授業で広く取り上げられることとなり、じわじわと人々に浸透、今や『上を向いて歩こう』と双璧を成す、国民的楽曲になっています。

つまり、『守ってあげたい』と『クリスマス・イブ』によって、広く根付いていく「カノン進行」の土壌を、主に音楽教育の現場から形作ったのが、この赤い鳥の『翼をください』だったのです。

最後に細かい話になりますが、荒井由実『ひこうき雲』のプロデューサーは、『翼をください』の作曲家=村井邦彦でした。ということは、『翼をください』『ひこうき雲』にかかわり、そして『守ってあげたい』にも間接的に絡んでいるという意味で、「日本カノン進行の父」は村井邦彦ということになります。「カノン進行の母」は松任谷由実で決定。

今回はここまで。

しかし、音楽教育の現場における『翼をください』の浸透からだけでは、「カノン進行」は、ここまで広範な支持を得られなかったでしょう。「カノン進行」が、日本人の耳に馴染んでいく過程には、70年代中盤における、あのバンドの貢献があったのです(続く)。

2018.05.03
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