横浜美術館で開催中の展覧会『ヌード NUDE 英国テート・コレクションより』に、リンダー・スターリング(通称リンダー)という女性アーティストの作品が3点ほど展示されている。
ロダンの傑作エロティック彫刻『接吻』を目当てにやって来たボクとしては、思わぬ出会いにハッとしてしまった―― このリンダーは、マンチェスター出身のバズコックスの「オーガズム・アディクト」(1977)のジャケットに描かれた有名な「アイロンヘッド」を手掛けたコラージュアーティストで、ボーカルのハワード・ディヴォートとはパートナーの関係だったのだから。
スコットランドのネオアコバンド、オレンジ・ジュースの曲名からそのタイトルを拝借し、「ポストパンクマインド」を的確に抽出してみせたサイモン・レイノルズの名著『リップ・イット・アップ・アンド・スタート・アゲイン(引き裂いて、再始動だ)』(※注)によれば、ローワー・ブロートン・ロードにある家に、ディヴォートはマネージャーのリチャード・ブーンと暮らしていて、そこにガールフレンドのリンダーも転がり込んでいた。
その二、三軒隣には同じくバズコックスのピート・シェリーが住んでいて、よく姿を現したことからこの家が一種の文化コロニーになっていた。大家曰く、「ちょっとした『ウォーホルのファクトリー』だったわよ」とのこと。
また同じくマンチェスター出身の「肘掛け椅子の反逆児」ことスティーヴン(のちのモリッシー)のリンダーへのリスペクトも度を越したものがあり、彼女が男友達と暮らすフラットに転がり込んで、ともに一年暮らしてしまったという。そこで彼女の女性解放運動への並々ならぬ関心にモリッシーは触発され、関係書を読み漁り、「不可解そのもの」の関係を育んだという。このようにマンチェスターパンクのレジェンドたちに多大な影響を与えたアーティストである彼女が、1978年に結成したポストパンクのバンドがルーダス(Ludus)である。
1980年にリリースされたファーストEP『ザ・ヴィジット』収録の「アイ・キャント・スイム・アイ・ハヴ・ナイトメアズ」という曲を試しに聴いてみよう。
リジー・メルシエ・デクルーのような鋭角的かつ官能的なアヴァンポップスタイルに、ザ・コントーションズの虚無的なブラスの入れ方を混ぜたようなサウンドで、このバンドはポストパンクというよりノーウェーヴに近い。これだけ前衛的なサウンド&ヴィジョンを持っていれば、流石のモリッシーも参ってしまうだろうことは想像に難くない。
ちなみに、そんなモリッシーがザ・スミスを結成するまでを描いた伝記映画『イングランド・イズ・マイン』(近日公開予定)では、リンダーもほとんどヒロインに近いかたちで登場するようだ。
演じるのは、ピーター・グリーナウェイの『英国式庭園殺人事件』(1982)やデレク・ジャーマンの『ザ・ガーデン』(1990)といった、英国「庭」映画の系譜に連なる『マイ ビューティフル ガーデン』(2016)に主演したジェシカ・ブラウン・フィンドレイという女優。モリッシーとリンダーの「性」を超えた複雑な関係はどのように描かれるのか、公開が待ち遠しい。
※注:『ポストパンク・ジェネレーション 1978-1984』という邦題でシンコーミュージックから出ていますが、原題の方がより洒落っ気があり、ポストパンクの本質を衝いている気がします。
2018.05.15
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