数年前に、あぶらだこ のメンバーに、直接質問したことがある。
「あの、何でライブやらないんですか? 解散はしてないんですよね?」
…と。メンバーの名前は伏せるが、この問いに対して、
「恥ずかしいんだよね」
…という答えが返ってきた。
あぶらだこ の、ソノシート型式の『あぶらだこ(通称:ADK ソノシート)』(以下、ADK ソノシート)は1983年5月25日に録音された。発売の開始時期が全国で多少の誤差があったらしいが、インディーズであれば、それは仕方ないことでしょう…。
それでも、『ADK ソノシート』は発売から1か月後には売り切れ、1990年代の再発 CD までの間、かなりのプレミアがついていたともいう。元々インディーズは “自主盤” と呼ばれていたが、そもそも自主盤と呼ばれるようになったのもこの頃である。彼らも「自分たちの音源は自分達で出す!」という意識を持っていただろうが、激しいバンドサウンドは時代にそぐわず、ロックバンドがデビューできるなんて誰も思っていなかった。
だって、メジャーの音楽業界は中森明菜、松田聖子、河合奈保子、田原俊彦、細川たかしであり、ロックと呼べる歌手やバンドはアースシェイカーといったところだ。そりゃあ、パンクもメタルも自分で出すしかないだろう。だが何よりも、この当時のインディーズ盤の制作には、とにかく金がかかったのだ。
あぶらだこ の『ADK ソノシート』は、プロデュースを担当したザ・スターリンのTAM氏のレーベル、ADK レコードからリリースされた。この時期、海外からの影響によりパンクからハードコアの影響が日本のアンダーグラウンドでムーブメントになっていた。ただムーブメントとはいえ、島国であるためか、海外からの情報はタイムラグがあるうえ、文化の違いなど様々な要素が加わり独自のハードコアパンクに進化していく。それはのちに “ジャパコア” と呼ばれる世界に誇るハードコアに昇華していくことになる。
当時のパンクスは、暴走族やヤンキーやスラッシュメタルとの繋がりも多かった。だが、あぶらだこ は色々な面で抜きん出ていたと感じた。それは、『ADK ソノシート』を聴くとわかるが、妙にコミカルな空気があるということだ。“コミカルな空気なのにハードコア?” と思う方は、ぜひ聴いてみてほしい。疾走感がとにかく凄いうえに、空耳で聞こえてくる歌詞は猥雑な反面インテリ臭もする… という、ハードコアならではのエッセンスが盛り込まれている… ことがわかってもらえると思う。
あぶらだこ は、まごうことなくハードコアだ。が、作品ごとに変化していく。『ADK ソノシート』の翌年に『あぶらだこ(通称:ADK 12インチ)』、いわゆる12インチのミニアルバムを出すが、そこにハードコア的な曲は少ない。そらにその後、メジャーからリリースしたハードコアのコンピ盤などでは激しいパンクを披露するも、複雑怪奇なリズムや歌詞が増えていく。特に、歌詞はもう古文を読んでいるかのような感じだし、リズムがすさまじく変化する曲ばかり。
そんな あぶらだこ のサウンドを、「プログレだろ?」と思う方もいるだろうし、「アバンギャルドとか、ミクスチャーじゃないの?」と思う方もいるかと思うが、それは違う。ジャンルは “あぶらだこ” だ。しかし、メジャーに進出してから、彼らのアルバム制作は本当に音楽業界で孤立無援であり、徒党も組まない… といった姿勢で今に至る。そんな環境が、彼らの独自進化を加速させたようにも思うし、その結果、幅広い支持を集めることにつながったのではないだろうか。
しかし、同時に思うことがある。1983年に『ADK ソノシート』を買ってからずっと あぶだだこ を応援してきた身としては、やはりライブをやってほしいのだ。ところが彼らは、初期の曲はホント、演奏しない。そして、忘れかけた頃にアルバムを出すが、それでもライブはほとんどない。2004年には『フジロック』にも出演した あぶらだこ だが、彼らは、やはりライブハウスが似合う気がする。あ!意外にクラブ系でもいいのかもしれない… 石野卓球もカバーしているし。
私は、『ADK ソノシート』はハードコアに限らず、日本の音楽史やインディーズ史に残る名盤である!と確信している。たしかに、いまだに歌詞は発表されてないし、いまだに空耳で解読しているけれど、それでも、皆さん、ぜひ聴いてみてください。特に若い方にオススメです。「音、悪ぃよ」と思うかもですが、聴いてるうちに「この音質が “味” なんだよなあ」…に、変わってくるはずですから!!
2019.10.31
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