道化師のソネットの両A面、さだまさし「HAPPY BIRTHDAY」
みなさんご存じのとおり、さだまさしには有名なヒット曲がたくさんある。
子供心に偶然の出会いにあこがれた「雨やどり」、偉そうだけどホントは奥さんがいてくれないと何もできない男の究極のラブソング「関白宣言」、中学生の時ギター部に入って何か一曲弾き語りできるようになれと言われて選んだけど、ギター以前に声が出なくて結局ギターも諦めてしまった苦い思い出のある「天までとどけ」など、思い入れのある曲はいろいろあるのだが、今回私が取り上げたかったのは「HAPPY BIRTHDAY」という曲。
「HAPPY BIRTHDAY」はシングル「道化師のソネット」のカップリングとして両A面扱いでリリースされた。TBS系で1980年2月13日から7月16日まで放送されたテレビドラマ『なぜか初恋・南風』の主題歌でもある。
『なぜか初恋・南風』は水曜夜9時(水曜劇場)に放送されていた、森光子主演によるホームドラマ。パリに住んでいた主人公がご主人を亡くし、日本に帰国後東京でクレープ屋を開く、というシチュエーションの内容だった。水曜劇場の枠は『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』『ムー』など、明るいコミカルタッチのドラマが多く、このドラマも面白くて私は毎週観ていたのだが、視聴率が振るわず途中で打ち切りになったようだ。
引っかかったフレーズ、おめでたい日に「死にました」?
ドラマの内容はもちろん、主題歌である「HAPPY BIRTHDAY」も好きだった。軽い曲調がドラマに合っていたと思う。
誰にだってひとつやふたつ
心に開かずの部屋がある
一生懸命生きているのに
傷を恥じる事などないさ
雨が降る日に気になるものは
雲の大きさばかりだけれど
空の広さに比べれば
別に大した事じゃない だから
HAPPY BIRTHDAY
HAPPY BIRTHDAY
昨日までの君は死にました
おめでとう おめでとう
明日からの君の方が
僕は好きです おめでとう
当時この曲を聴いたとき、誰かが塞ぎ込んでいて、その人の誕生日にそれを励ましている歌だと思っていたのだが、ひとつだけ引っかかったフレーズがあった。
昨日までの君は死にました
おめでたい日に「死にました」はないよなぁ… どうしてそんな言葉を使うんだろう? と思っていた。
これまでの自分から新しい自分に生まれ変わればいいのか!
それから年月が流れ、この曲の存在もすっかり忘れてしまっていたのだが、私が40歳になる頃、この曲に救われることになる。
その頃私は仕事がとても忙しかった。望んで受けた社内試験に合格したものの、着任したのは通勤に片道2時間もかかる、かなり遠い場所。身体がクタクタになる上に人間関係もうまく行かず、全く余裕がなくなり、気がつくと心の風邪を患っていた。ついには仕事を長期で休んでしまい、すっかり自分に自信を失くしていた。周りは楽しそうに仕事をしているのに、なぜ自分だけがこんな目に遭うんだろう…。そんなとき、ふいにこの曲を思いだした。
幸せなんて言葉もあるが
人それぞれに秤が違う
人は人だしあんたはあんた
別に張り合う事などないさ
雨が降る日は天気が悪い
雲には雲の行先がある
空は確かに広いけれど
心の広さと比べてみるかい だから…
そうか、これまでの自分から新しい自分に生まれ変わればいいのか。生まれ変わるなら、今までのことをあれこれ悩む必要はない。過去から解き放たれればいいのか、と。だからこその「死にました」なのか。だから生まれ変わった自分に「HAPPY BIRTHDAY おめでとう」なのか!
聴く人の心に沁み、背中を押してくれるさだまさしの歌
さだまさしの「HAPPY BIRTHDAY」は、そこで気持ちを切り替えなければ前に進めなかった私にとってのエールだった。「死にました」という言葉はかなり強烈だったけど、過去をすっぱりと切ってしまってもいいんだ、という強いメッセージだからこそ、その言葉が必要だったのかもしれない。「おめでとう おめでとう」は「大丈夫、大丈夫! なんとかなるよ!」という言葉に自然と置き換えられた。
私の歌詞の解釈が合っているかどうかはわからない。しかし私にはそう思えたし、それで背中を押された気がした。もちろん、この曲を聴いただけでその後の全てがうまく運んだわけではない。でもこの曲が私自身生まれ変わるきっかけになったのは間違いない。
ちなみにNON STYLEの石田さんは、さだまさしの大ファンで、落ち込んでいるときにこの曲を聴いて心に沁みたと、以前テレビ番組で話していた。やはりこの曲にはそういう意味があったんだな、と改めて思ったものだ。
そして本日(4月10日)は、さだまさしさんの誕生日だ。
さださん、お誕生日おめでとうございます!
心を込めて…「HAPPY BIRTHDAY!」
明日からだけではなく、昨日までのさださんも僕は好きです、おめでとう(笑)。
2021.04.10