角松敏生という人は、日本のポピュラー音楽史上もっと評価されて然るべき人物の一人である。『WAになっておどろう』に代表されるように、自分で歌うよりも、他人への楽曲の提供やアレンジをした時に大ヒットに結びつくことが多く、本人も黒子に徹するのを美学としている節もある。
彼の功績については、また別の回にくわしく触れたいが、今回は彼が中山美穂に書いた曲『You're My Only Shinin' Star』の話。
一つ前のシングル盤『Catch Me』に続いて角松敏生の全面プロデュース。前作はバブルの波に乗ってブイブイ言わせていた曲調だったのが、一転してのスローチューン。彼女の代表曲であり、角松の最高傑作でもあるこの名バラード、1988年2月17日にシングル盤リリース。
TBS『ザ・ベストテン』では3月17日に最高3位まで上昇、そこから少しダウンして第5位にランクされた4月7日のことである。
生放送の当日、中山美穂はレコーディングのため都内某所のスタジオにいて、そこからの入り中継。ここまでは、どうという話ではない。ところが、実はこの日この曲の生中継が、歴史に残る怪演出だったのだ。まずは、オンエアの様子を一度ご覧になってください……
いかがでしたか?
とにかく、どうかしてる。いかれてる。シュールという言葉がぴったり。
当のミポリンは、演出の意図をいまいち理解できないって風で、まじめに歌っているところが却って可笑しい。いちおう、司会の高田純次から「スタッフへの差し入れ」という理屈になっているのだが、それは後でつけた台本上の設定で、本当はディレクター側の企画だろう。
この頃のTBSはフジテレビに視聴率の王座を奪われており、『ザ・ベストテン』をパロディにしたフジの『ひょうきんベストテン』が人気を博していた。この4月7日の演出は、それに対するTBSの逆パロディというか、一つのアンチテーゼである。
そして80年代は、今のように歌手がアーティスト気取りをしておらず、面白い画をみせることに皆が一体となって取り組んでいた時代でもあったのだ。
2016.01.05
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