7月22日

今をときめく凄腕エンジニア、マイケル・ブラウアーとゴンチチの初仕事

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photo:SonyMusic  

3rd アルバム『PHYSICS』をリリースした頃、なぜか “GONTITI” の音をすごく気に入ってくれたのが、ニューヨークのレコーディングエンジニア、マイケル・ブラウアー(Michael H. Brauer)でした。

参考:「難局を乗り越えたゴンチチ、ポップにイメチェンしようとがんばったけど…」

その時は名前も知らなかったけど、そんなに言ってくれるなら、いつかは仕事してみたい。約2年後にその機会が訪れました。

6th アルバム『マダムQの遺産(Legacy of Madam Q)』のミックスダウン(※注)をマイケルにお願いしたのです。日本ですべての演奏を録り終えたテープを持って、GONTITI の三上さんと松村さん、マネージャーの佐脇くん、そして私の4人は、ニューヨークへ渡り、マンハッタンの「Quadrasonic Sound Systems」というスタジオに入りました。1週間くらいの日程だったかな。

マイケル(ってか発音は “マイコー” なので以下マイコー)は、筋骨隆々のマッチョ体型な上に、背も高いので、全員小柄な我々にはやたら威圧感がありましたが、性格は気さくでいいヤツでした。

その後、日本にも何度か来てもらいましたが、麻布十番の「登龍」という中華料理店の “四川皇麺”(いわゆる担々麺です)が好物で、必ず食べに行く。辛いもの好きで、これをさらに激辛にしてもらい、真っ赤っ赤になったスープを、顔も真っ赤にしながら、美味しそうに飲み干していました。彼は “That hot noodle soup” と呼ぶんです。西洋人には麺よりスープが主役なんですかね。

時計を巻き戻して、ミックスダウン初日を眺めてみましょう。

午後に始まった作業。最初からとやかく言わず、ともかくマイコーのやりたいようにやってもらうことにして、ロビーのソファーでダベっていると、ほどなくスタジオからマイコーが大声で叫ぶ声が。松村さんが「え!? 今、“I love でーす!” て言わへんかった?」とマジメに言うので、大笑い。“I love this!” って言ったんですよ。“でーす” なんて日本語使うわけない。

マイコーは仕事が速い。1曲3時間もあれば仕上げてしまいます(1曲1日くらいかかる人も多い)。聴いてくれ、と言われて、スタジオに入ると、おお! すばらしい音になっています。

マイコーが作る音は、立体感に富んでいる。聴かせたい音はぐぐっと手前に飛び出してくるようだし、奥にある音も、空間がしっかりしているから、その位置でちゃんと存在感を持って鳴ってくれます。

土屋昌巳さんのところでご紹介したナイジェル・ウォーカーの場合は、立体感というよりは、ひとつひとつの音をヴィヴィッドにしてくれる感じ。下手な人がやると、大きな音で聴いている分にはいいけど、小さくした途端に地味になってしまうのですが、小さな音で聴いても躍動感が衰えません。で、ドラムとかベースとかそれぞれ勢いがあるのに、なぜか他をじゃましない。

米国人(マイコー)と英国人(ナイジェル)ですから、持ち味は違うのですが、私にとってはどちらも魔法使いのようでした。眼の前で、サウンドが見事に変わってしまうんですから。でももちろん魔法を使っているわけではなく、理屈があり、技があるはずです。ところが、勉強したり経験を積めば、誰にでもできるというものでは、どうやらないらしい。マイコーとナイジェルにもそれぞれの音がありますし。

こういう達人の手によって、音楽がより魅力的なものに磨かれていく。音楽の不思議さ、深遠さ、面白さを、改めて強く感じた瞬間でした。

それでいて、マイコーはコンソール(調整卓)のツマミ群を指して、「録音してくれた音がすばらしいから、ツマミは何も動かしてないよ」なんてお世辞のようなことを言います。たしかにツマミはほぼフラットなので、またそれにも驚いたのですが、きっと外部に何かつないでいろいろやっていたのでしょう。日本で聴いていた音と全然違うんですから。

こちらから言うことは何もありません。すばらしい音です。この調子でどんどんやっちゃってください。と伝えて、我々はまたロビーのソファーに。

時差ボケで、午後3時頃から猛烈な睡魔に襲われ、いつのまにか、4人ともソファーでだらしなく眠りこけていました。

この時のニューヨークは、なんだかスタジオで寝てばかりいたような気がします。


※注:
ミックスダウン=マルチトラックで録音した様々な楽器や歌を、音量や音質の調整をしながらステレオの2チャンネルにまとめる作業。レコーディングの最終段階。


2018.11.18
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カタリベ
1954年生まれ
福岡智彦
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