前回の
『ZARDのシングル売上ランキング、いま改めて聴いて欲しい “平成歌謡”』ではシングルの売り上げ上位10作品を紹介しました。
ZARDのデビューは、謂わば作詞家としての “坂井泉水” のデビューとも言えます。
プロデューサーの長戸大幸は、坂井泉水に作詞をする時の五箇条を伝授しました。
①口語体で書く
②Aメロで情景描写をする
③Bメロで状況説明する
④サビで願望を言う
⑤サビに曲タイトルを入れる
(『永遠 君と僕との間に』幻冬舎より)
この5つを完成されたメロディーと譜割りに反映させるべく、坂井泉水は膨大なメモを残し、パズルのように組み合わせていきました。
今回は歌詞に注目しながら、ファンの人気が高い曲や、ハヤトモが改めて聴いて欲しい楽曲をランキング形式でお送りします。
第10位:グロリアス マインド(2007年12月12日)
43rdシングル。生前、最後に収録された楽曲です。
グロリアス マインド
グロリアス スカイ
おもいきり泣いたら
昨日までの事は全部忘れよう
Seaside moon Seaside sky
いつまでも変わらぬココロを
もう一度君に届けたい
グロリアス マインド
タイアップの関係で体調が悪い中で “サビ” だけを収録した楽曲(サビ以外は英語)。自身のことをわかったうえで、「もう一度君に届けたい」と決意と、希望を書いた力強い1曲。
第9位:ハイヒール脱ぎ捨てて(1995年3月10日)
6thアルバム『forever you』収録。アルバムのオリジナル楽曲にもかかわらず女性に人気がある曲です。
ハイヒール脱ぎ捨てて
青い海が見たいわ
想い出を脱ぎ捨てて
青い海が見たいわ
後悔を 脱ぎ捨てて
青い海が見たいわ
… とサビが進むにつれ、「女の本音」が見え隠れしていく展開が、シングルには無い “女・坂井泉水” の魅力が詰まっています。この「青い海が見たいわ」は坂井泉水の願望だったのではないでしょうか。
第8位:遠い日のNostalgia(1992年9月2日)
サードアルバム『HOLD ME』収録。バンド形態も取っていた時期のアルバム『HOLD ME』はロック色が強い内容になっています。そんなアルバムの中で、この楽曲は男性目線で書かれた “失恋バラードソング”です。
長戸大幸のサビ五箇条が上手く守られてませんか? この楽曲をキッカケに、男性ファンが増え始めたようです。男性特有の “恋愛の引きずり方” を上手く表現されています。
第7位:Season(1993年7月10日)
4thアルバム『揺れる想い』収録。テーマは “卒業”。ただし “卒業シーズン” ではなく、少し時間が経ち、思い出している季節は初夏を過ごすイメージの主人公。
切なくて 出しそびれた手紙
いつも遠くから君を思い oh
言えなくて 悩んでいた あのseason
いつの日か 卒業したね
ZARDが他のアーティストと違った理由は、男性目線の歌詞をナチュラルに聴かせた点。これが彼女最大の武器でした。
第6位:サヨナラは今もこの胸に居ます(1995年8月28日)
16thシングル。映画『白鳥麗子でございます』主題歌。3回目となる “白鳥麗子” タイアップで、本作も女性目線の失恋ソング。
恋愛に関して、女性はあまり引きずらないと言われがちです。しかし、坂井泉水が書く女性像は別れた男性を思いながら前へ向く主人公が非常に多い。
同時期の同じビーイングで活躍していた “大黒摩季” と真逆過ぎるのも面白い。ただ、この曲の最後の一行、
あなたから卒業します
… は芯のある女性像であることは間違いない。
第5位:Forever you(1995年3月10日)
6thアルバム『forever you』収録。歌を唄いながら作詞をするアーティストは “自分自身のこと” を歌詞にするケースが多い。坂井泉水にも自分自身のことを歌詞にした曲があります。それが「Forever you」です。
手さぐりで夢を探していた あの日
自分が将来どんな風になるのか
わからなくて ただ
前に進むことばかり考えていた
ミリオンセラーを連続で生み出し、ZARDという存在が社会現象にまでのぼりつめていた時期に、過去のモデル業やタレント業に関して事実誤認の報道も多く出ていた時に、心の支えはレコード会社に来るファンレターでした。
テレビ出演もやめ、ラジオ番組のDJやライブも行わない坂井泉水にとって、心の支えになった数多くの手紙。
この曲で、世の中には「私は過去を後悔していない」と宣言し、ファンには「心配しないで」と伝えた “坂井泉水の本音” が詰まった1曲。
第4位:Today is another day(1996年7月8日)
7thアルバム『TODAY IS ANOTHER DAY』収録。映画『風と共に去りぬ』を観た後に書き上げた曲で、ラストシーンの台詞「After all. tomorrow is another day」をヒントにしています。
この曲も膨大な彼女のメモ帳から抜き出した言葉を使っているが、メモ帳に書かれていたのは当初、
人に期待をしない
人をあてにしない
人を信じない
… と、走り書きされていました。そんなネガティブな言葉が、映画をキッカケにして、
他人に期待したい
あてにしたい
信じていたい
… と、逆境に踏ん張る女性像に変わり、“明日があるさ” と弱さと強さの揺らぎを上手く表現しています。
第3位:永遠(1997年8月20日)
22ndシングル。ドラマ『失楽園』主題歌。作者の渡辺淳一から「大人の恋愛を詞にして欲しい」とのオファーを受けた曲です。
不倫をテーマにした楽曲は既に坂井泉水は書いていたけれど、大ベストセラーで流行語大賞もとった話題作だけに、何度も書き直しながら完成した1曲。
1番は楽曲の主人公の女性目線、
今の二人の間に 永遠は見えるのかな
2番はカギカッコと一人称で男性が過去に言った言葉、
「君と僕の間に 永遠は見えるのかな」
男女両方に家庭がある状況で「永遠」という言葉を使う残酷さと同時に「2人にしかわからない世界」を漢字2文字で表現した平成の名歌謡曲と言っても過言ではないはず。
第2位:あの微笑みを忘れないで(1992年9月2日)
サードアルバム『HOLD ME』収録。「何かあったら話聞くよ?」なんて気さくに声をかけてくれそうなイメージを坂井泉水に感じてしまう。それは女性同士の失恋話でも、男性の仕事の悩みでも。私みたいな乙女な悩みでも、同じ目線で物事を考えてくれそうな人と私の中で勝手に感じたのは、この曲を書ける人だから… という決めつけです。
Open your heart ひたむきな
あなたの瞳が好きだった
孤独な時間抱きしめて
人は大人になるから
あの微笑みを忘れないで
いつも輝いてたい
もう何も迷うことなく
走り出そう 新しい明日へ
改めて聴くと、昔は “親友の失恋を励ます主人公” として聴いてましたが、坂井泉水という存在が消えた現在(いま)、永遠に寄り添ってくれる楽曲になった… と、聴く度に目に涙が浮かんできます。
第1位:Good-bye My Loneliness(1991年2月10日)
ファーストシングル。ドラマ『結婚の理想と現実』の主題歌。もともと、“喋る” よりも “書く” タイプだったと発言している坂井泉水ですが、デビュー曲でドラマのタイアップというのはプレッシャーも大きかったはず。
この曲の歌詞は坂本九の「涙くんさよなら」からヒントを得て、“悲しい事を乗り越えて前へ進む” というテーマで、坂井泉水が初めて作詞した楽曲です。
織田哲郎のメロディーと、仮歌が入ったテープを何度も何度も聴き、出てきたのが「Good-bye My Loneliness」という言葉でした。
インターネットもない時代に、サビ頭の印象的な「Good-bye My Loneliness」は、レコード屋に行っても、“歌ってる人は知らないが、間違いなくこの曲” と手にした人も多かったのではないでしょうか?
―― ZARDが唄う曲に登場する女性は “芯が強いけれど控えめ”。“寄り添い、包み込む母性感” を感じさせる、昭和の歌謡曲の雰囲気を漂わせる主人公でした。
昭和から平成へ。80年代から90年代へ。女性シンガーの唄う世界観は“女性の自立”への応援歌でした。しかし、坂井泉水の無数の紙に書かれたセンテンスには、彼女自身の本音と、愛情と優しさが溢れかえっていました。
デビューから30年以上経った今でも、新たなファンを増やし続けているのは、坂井泉水の書いた、優しい温もり溢れる世界感に「ホッとさせられる」から。
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2022.02.10