2月19日

漂う閉塞感に共鳴したダイナソーJr. 1991年のオルタナティブロック革命

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ダイナソーJr.のアルバム「グリーン・マインド」がリリースされた日
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photo:Warner Music Japan  

オルタナティブロック革命30周年、1991年に迎えたロック新時代


今から30年前の1991年、ロックは新しい時代を迎えた。その象徴としてグランジやオルタナティブロックがオーバーグラウンドに顕在化し、ついにはニルヴァーナの『ネヴァーマインド』がチャートの1位を獲得した。

オルタナティブロック革命から30周年を迎える2021年。今こそ1991年のロック名盤を振り返り、いくつかの作品を本サイトでリマインドしていきたい。

その第1弾として、ダイナソーJr.の『グリーン・マインド』を取り上げよう!

ヤル気のない無気力大王、J・マスシス率いるダイナソーJr.


1991年2月19日、ダイナソーJr.のアルバム『グリーン・マインド』がリリースされた。

ダイナソーJr.は、1985年にインディーレーベルからデビューし、カレッジチャートやアンダーグラウンドシーンで人気を博し、4枚目のアルバム『グリーン・マインド』でメジャーデビューを果たす。バンドの中心人物はギター&ボーカルのJ・マスシスで、本作以降は彼のワンマンバンドと言って差支えないだろう。

Jは「定職に就きたくないからバンドをやっているだけ… バンドは単なる暇つぶしでしかない… 音楽で伝えたいことは特にない…」等々、ヤル気のない発言ばかりで “無気力大王” なんて呼ばれていた。

ロソプレイで爆発するエモい轟音ギター、正体不明のモヤモヤ感を表現


それまでのロックミュージシャンは自己顕示欲の塊りのようなタイプや鬱屈とした暗い自我を音楽で解放するタイプが主流だった。しかし、J・マスシスはほとんど自己主張がなく、とことん無気力。かといって暗い性格というわけではない… こんな掴みどころのないキャラクターが当時は新鮮に感じられたのだ。

そんなJ・マスシス率いるダイナソーJr.は、ノイジーに鳴り響くギターの中を鼻詰まり気味の声でオーソドックスなロックを歌っている。しかし、ギターソロになった途端、とてつもなくエモーショナルに轟音ギターが爆発するという、全くもって謎な音像を鳴らしている。

そこから感じられる景色は殺風景そのもので、何となく切ない気持ちと、何となくやるせない気持ちが沸き立ってくる。そして、この正体不明の「何となく…」というモヤモヤ感を音楽で表現した稀有なバンド… それ)がダイナソーJr.なのだ。

バブル崩壊、湾岸戦争… 時代をビビッドに捉えた「グリーン・マインド」


『グリーン・マインド』が発表された1991年2月、私は大学1年生がもうじき終る頃で本来なら楽しい青春キャンパスライフをエンジョイしているはずだった。しかし、大学生活は期待していたものと何となく違っていて、今思い出せることといったら、アルバイトをして、バイト代でCDやレコードを買い、新進気鋭のオルタナバンドやUKインディーバンドのライブをチョクチョク観に行っていたという記憶しかない。

そんな「特に不満があるわけじゃないけど、何かつまんねーな」というヤル気ゼロなティーンスピリットにピタリとハマったのがダイナソーJr.の『グリーン・マインド』だった。また、本作のリリース時期は、バブル崩壊と湾岸戦争の始まりにも重なり、未来はさほど明るくないかもしれないと感じ始めた時代の気分をビビッドに捉えた作品だ。

閉塞感の矛先はどこに? ため息をつくしかない気分を真空パック


同じ時期、パブリック・エナミーは黒人が抱える問題と闘うために闘争本能むき出しの攻撃的でハードコアなヒップホップを鳴らしていた。

しかし、ダイナソーJr.は閉塞感の矛先をどこに向ければよいのか分からず、ノイズギターをぶちかますことで、新たな地平を見つけ出そうともがいていたのかもしれない。もしくは、ノイズギターの中に身を置くことで、ある種のシェルターに守られているような安堵感を感じていたのだろうか?

こうして漂い始めた閉塞感やモヤモヤ感に抗うでもなく、飲み込まれるでもなく、ただ、ため息をつくしかない気分を真空パックした『グリーン・マインド』。

本作は、あれから30年経った2021年に聴いても、心の中のモヤモヤ感をくすぐってくる。そして、こんな気分から私の心が解放される日はまだまだ訪れる気配は感じられない。今日もまた、モヤモヤした気分に舌打ちして、酔っ払って、ロックを聴いて… そんな人生後半戦が何となく続いていきそうな気がしている。


追記
私、岡田浩史は、クラブイベント「fun friday!!」(吉祥寺 伊千兵衛ダイニング)でDJとしても活動しています。インフォメーションは私のプロフィールページで紹介しますので、併せてご覧いただき、ぜひご参加ください。


2021.02.19
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カタリベ
1972年生まれ
岡田 ヒロシ
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