2月6日

東京ラブストーリーをヒットさせた小田和正の手腕、月曜9時に女性が消えた?

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小田和正のシングル「ラブ・ストーリーは突然に」がリリースされた日
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photo:SonyMusic  
photo:フジテレビ  

原作:柴門ふみ、脚本:坂元裕二の月9ドラマ「東京ラブストーリー」


夜の公園で――
リカ:なんかこれじゃ、いつまでたっても帰れないね…
カンチ:そんな夜もあるよ…
リカ:じゃあさ、こうしよ!『せーの』で、一緒に後ろ向くの
カンチ:オッケー!
リカ・カンチ:せーのっ!

カンチは後ろを向き、ゆっくり歩きはじめる。リカは後ろを向かず、カンチの帰る後ろ姿をそっと見つめている。ふと、カンチは足を止め、何気なく後ろを振り返ると満面の笑みのリカが目に飛び込んできた。

リカ:カーンチ!
カンチ:ずっちーな!

主役のカンチを演じる織田裕二が一生背負うことになる名セリフは、なんと『東京ラブストーリー』第1話のエンディングで登場していたのだ。

『東京ラブストーリー』は、柴門ふみによる同名漫画を坂元裕二脚本で映像化した1991年1月~3月に全11話で放送されたフジテレビの “月9ドラマ” である。嘘か本当か「月曜日の夜9時は、街から女性たちが消えた」というエピソードが今も語り継がれている。

主題歌は小田和正「ラブ・ストーリーは突然に」


脚本家である坂元裕二は『フジテレビ ヤングシナリオ大賞』を19歳で受賞、この『東京ラブストーリー』執筆時はまだ23歳である。カンチこと永尾完治を演じた織田裕二23歳、赤名リカを演じた鈴木保奈美24歳。このドラマのプロデューサーである大多亮もまだ32歳だった。

フジテレビジョン制作1部 “大多班” といえば、当時ドラマ制作部門における最大勢力であり、80年代後半からトレンディドラマを量産したチーム。それは若い力がフジテレビにみなぎっていた栄光の時代でもあった。通常なら脚本家主体になるストーリー部分も、この頃は大多プロデューサー(以下、大多P)が牽引する形でドラマ制作されていた。現在は脚本家としてその名を成すほどに地位を築きあげた坂元も、大多Pにより何度も書き直しを命じられていたという。

BGM、挿入歌などにも並々ならぬ思い入れをみせる大多P。人気グループ、オフコースを解散しソロ活動を本格化させていた小田和正に、このドラマの主題歌を依頼。そのとき、オフコースのヒット曲「YES・NO」(1980年)のような切ない感じの曲が欲しいとリクエストする。

小田は当初「FAR EAST CLUB BAND SONG」を作ったが、大多PからのOKは出なかった。そこで改めて作った曲が1991年2月6日リリースの「ラブ・ストーリーは突然に」であった。この若造が… などと思ったかどうかはわからないけれど、「ラブ・ストーリーは突然に」には、ありとあらゆるヒットの法則が組み込まれていた。「これで文句ないだろ」という、小田和正のミュージシャンとしてのプライド。その結果、累計売上270万枚のプラチナヒットを記録するのだから恐れ入るばかりだ。

ヒットの法則 その壱:カッティングギターの鮮烈なイントロ


さて、今回は主題歌である「ラブ・ストーリーは突然に」が、何故ヒットしたのか? そのヒットの法則をいくつか紹介してみたいと思う。

まずは、出だしイントロのカッティングギター「チュクチュチューン」の鮮烈さが挙げられるだろう。ギタリストの手癖で曲中のつなぎで入れることはあっても、のっけからこのギターアレンジというのは実にインパクトがある。その印象深いフレーズが劇中で始まると、言わずもがな視聴者は切ない場面が次に展開されると理解した。

しかも登場人物たちに不穏な空気が漂い始めると、曲が流れるその前に「来るな…」と予感できるほど僕らは完全に洗脳されていた。

毎回使われるこの手法… まさに大多Pの思う壺である。割と長めなイントロで、歌の直前に入る印象的なベースのリフレインが更にドキドキ感を増長させる感じ、これもまた良かった。

ヒットの法則 その弐:韻を踏んだサビの歌詞


そして歌詞… ドラマで言えば、第1話の空港のシーン、初めてリカとカンチが出会う場面だ。ここではサビの部分を強調するために “あの” で韻を踏んでいる。

 あの日 あの時 あの場所で

―― という、ここはドラマ全体の鍵となる一節であり、もっとも視聴者に響かせたい部分であろう。“あ” の部分にアクセントを合わせ(リズムをずらす)8ビートのリズムから歌の符割りによる浮遊感で強調させるという大胆なアレンジが施されている。歌詞で説明すると、「あのひ あのとき あのばしょで」という “3-4-5”(あるいは7-5)という日本語の気持ちよいリズムの定型をあえて崩して

「♪ あーのーひーあーのーとーきーあーのーばーしょーでー」

と、これを2拍3連(※注1)気味に音を伸ばして歌うことで、聴く人の印象に深く残るように考え仕組まれたリズムアレンジなのだ。“あ・か・さ・た・な” の曲は売れる(母音が “ア” だと発声が気持ち良い)理論でもあるけれど、ここの部分は憎らしいまでにメロディーとリズムと歌詞のバランスがぴったりなのである。

ちなみにこのリズムアレンジは、SPEEDが累計売上200万枚を記録した大ヒット曲「White Love」(1997年)のBメロ部分でも聴くことができる。ただ小田和正の場合、サビでここまでゴリ押しする楽曲を作れることがすごい。これこそ小田の真骨頂なのかもしれない。

ヒットの法則 その参:曲後半に仕組まれたリズムアレンジ


そして、さらに後半「今 君の心が動いた」から “ハーフタイム” というリズムアレンジが仕組まれる。これは8ビートで刻んでいたドラムのリズムを大きなリズムに切り替えて、盛り上がっていた気持ちを一旦静め、その後にくるサビの相乗効果を狙っているのだ。歌詞の内容も心にしんみり入ってくる。

ここで、再びやってくるサビの部分。2度目の繰り返しからは歌詞が変わる

 誰れかが甘く誘う言葉に
 心揺れたりしないで

このメロディー後半部分、今まで8ビートのリズムを崩さなかったドラムがここぞとばかりに、たった1度だけ2拍3連(2拍を3分割したアクセント)のリズムチェンジを歌に被せてくるのだ。

ダメ押しである。劇中で毎回訪れる不安な気持ちの核心が、この一節に集約されているのがわかるだろうか。それは、わがままで自分勝手な思い… 胸がギューっと締め付けられ、狂おしくも切なさに溢れた小田和正渾身のフレーズなのだ。

ヒットさせるための数々の音楽的要素をこれだけぶち込まれたらお腹いっぱいなはずだ。小田和正の天才ぶりには、最早「あっぱれ」と言うしかない。大多Pであれ、ぐうの音も出ないだろう。さすがの一言である。

すれ違う人間模様… ひとりひとりの寂しさと繋がりを描く秀作


さて『東京ラブストーリー』、ネタバレになるけれど、僕は再放送を観るたびに泣いてしまうシーンがある。それは、第10話のクライマックスだ。カンチは、いなくなったリカを探して地元の愛媛に帰る。そして昔、小学校の柱に自分の名前を刻んだことを思い出す。ついにその柱に辿り着くカンチ。刻まれた自分の名前の横に、後から付け加えられたリカの名前がある―― そう、ここで泣く! 毎回だ。ほぼパブロフの犬である。

携帯電話の無い時代、このドラマほどではないにしろ僕らは待ちぼうけしたり、すれ違ったりしたもので、それはもうお互いを信じることでしか回避できないんだよね。

ドラマの中で僕が一番印象に残っているリカのセリフ――

「たとえば、寂しいことがあっても、眠れない夜があってもさぁ… そんなときはこうやって、星空を見上げる。きっと世界中にもこうしてる人がいっぱいいてさぁ… みんなそれぞれひとりっきり、行ったり来たりしてるんだけど、でも、見上げた星空はひとつなんだ」

人は、生まれるときも死ぬときも独りっきりで孤独な生き物なんだけれど、だからこそどこかで人と繋がっていたいし、人を信じたいって思っている。みんな顔には出さないけれど、誰もが本当は寂しがり屋さんなんだと――

『東京ラブストーリー』は、そんな登場人物が抱えるひとりひとりの寂しさと切ない繋がりを描き出した秀作なんだよね。そして80年代の音楽を通じて、こうして発信している僕自身も、“同じ星空を見ている” という繋がりを求めて止まない寂しがり屋さんのひとり… なんだよなぁ(笑)。


※注1:2拍3連
1小節4拍「タンタンタンタン タンタンタンタン」と8音で構成されるリズムを「ターンターンターン ターンターンターン」と同じスピードのまま6音で構成するパターンの音楽用語。


※2018年10月8日、2020年2月6日に掲載された記事をアップデート



2021.02.06
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カタリベ
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ミチュルル©︎たかはしみさお
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