2004年にゴリエのカヴァーがオリコンで2週1位に輝いたことでも知られる1982年の全米No.1ヒット、トニー・バジルの「ミッキー」は、強烈なインパクトと共に典型的な “一発屋” ソングとして語られる1曲だ。
そのバジルが、この3月に日本でも放送になったBBCのドキュメンタリー『デヴィッド・ボウイ 最後の5年間』でインタビューに答えていた。今回『DAVID BOWIE is』が日本に来たことで僕も知ることになったのだが、バジルとボウイの間には浅からぬ関係があったのである。
『最後の5年間』でバジルが登場したのはボウイの1974年のダイアモンド・ドッグス・ツアーを振り返るパート。ジョージ・オーウェルの小説『1984年』にインスパイアされたシアトリカルなこのツアーの振り付けを手掛けていたのがバジルだった。
実はバジルは「ミッキー」より遥か前からダンサー、女優、そして振り付け師として名を成していた。ジョージ・ルーカスの1973年の映画『アメリカン・グラフィティ』の振り付けも彼女。“一発屋” などという称号は失礼千万なのだ。
そしてバジルはこのツアーだけではなく1987年の、やはりシアトリカルなグラス・スパイダー・ツアーの振り付けも手掛けていた。いずれのツアーも、『DAVID BOWIE is』の壁4面でボウイのライヴ・パフォーマンスを体感出来る「ショウ・モーメント」コーナーでその映像を楽しむことが出来る。このコーナーでのトニー・バジルの存在感たるや、なのだ。
そしてこのコーナーでは更に、僕はあるキャプションで息を呑むことになった。
別稿で触れたボウイの全米No.1ソング「フェイム」が収められた1975年のアルバム『ヤング・アメリカンズ』の、ボウイによるジャケットのデザイン案が「ショウ・モーメント」コーナーに展示されている。
採用されたものとは全く異なるのだが、そこでのキャプションに、「(実際には)ボウイはエリック・スティーブン・ジェイコブスにジャケット写真の撮影を依頼、それはボウイが気に入っていた、雑誌『アフター・ダーク』の表紙のためにジェイコブスが撮ったトニー・バジルの写真を想起させた」とある。
ネットで検索してみて驚いた。確かに両者はそっくりだったのである。エアブラシで修正を加えたところまで同じであった。前年のツアーの振り付けをしていたことも勿論あるだろうが、ここまでボウイに影響を与えていたとは、バジル恐るべしである。
トニー・バジルは現在73歳。実はボウイより4歳上だった。しかし未だダンスの切れ味は衰えていないらしい。「ミッキー」の大ヒットの時に既に39歳だったというから、あの強烈なインパクトを残したミュージック・ヴィデオを思い出すと少し可笑しくなってしまう。
しかし笑っている場合ではない。このMVの監督も何とバジル自身なのだ。のみならずこの曲も含めた『WORD OF MOUTH』という彼女のアルバムと同名の30分のヴィデオの監督も務め、なんとグラミー賞の長編ミュージック・ヴィデオ賞にノミネートまでされているのである。
やはりデヴィッド・ボウイという稀有な才能の周りには只ならぬ才能が集まっていたのである。改めてそのことを教えてくれた『DAVID BOWIE is』に感謝。
2017.04.02
YouTube / ToniBasilsHouse
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