芸能人「死亡説」とは、どうして流れるのだろう?
死亡説がささやかれるのは、言い方は悪いが「一発屋」の芸能人に多い気がする。レゲエ歌手三木道三や、つぶやきシローや小島よしおにも流れていた。露出が減ってテレビから消えた途端、死んだことにされるなんてひどい。大衆は、いつも残酷だ。
「死亡説」の帝王と言えば、堀江淳である。
堀江淳は1981年、「メモリーグラス」でデビューし、このシングルは70万枚の大ヒットを記録した。給食の時間に男子たちが「水割りをくださ~い」という出だしの替え歌で「牛乳をくださ~い」と歌い、最後の「飲み干してや~るわ~」をオネエ風に合唱して盛り上がっていたのを思い出す。
街中やラジオで声を聴いてキーの高さや歌詞から、最初は女性だと思っていた。しかし『ザ・トップテン』などのテレビ番組に出たのを見たら男性で、しかも「水割りは嫌い」と言う。水割りがなんだかよくわからなかったが、子供心におもしろかった。
そんなにヒットした堀江淳だが、テレビからすぐにいなくなってしまった。そして1983年、交通事故に合ってケガをしたと報道されたことが原因で、死亡説が流れた。
その噂が立った後、自ら健在であることをアピールするため『“生きてますよ” コンサートツアー』と銘打ったツアーを行ったらしいが、今のようにインターネットもない時代。情報がまわらないので知らなかった。
大人になって飲み屋で誰かが水割りを頼むと「水割りをくださ~い」と他の誰かがマネをして、「死んだらしいよ」とまた他の誰かが答える。
ある先輩にいたっては、「あの人、あの一発で2,000万儲けたのに、税金で半分近くなくなって、フェアレディZ買ったらすっからかんになったらしいよ」と教えてくれる。または「なんか東南アジアで目撃されたみたい」とも。
もはや過去の「一発屋歌手」ではない。たとえテレビに出なくなっても、「メモリーグラス」以外の歌がヒットしなくても、「死亡説・不幸説定番歌手」として、噂になる人。根強く存在感を保ち続けていると言える。ゆらり揺らめきながら、あのたったひとつの歌と共に、脳裏に立ち上ってくる。
昨今は、ディナーショーなどでも精力的に活動しているようだ。テレビで見たインタビューでは「メモリーグラスは、お客さんが喜ぶので最初と最後に2回やる」と元気に答えていた。もう全曲メモリーグラスだけでも良いのではないか、と思った。
先日、仲良しとメッセンジャーをしていた時、ザ・フォールのフロントマン、マーク・E・スミスの話になって、「最近死亡説流れたよね」と言われた。
あろうことか BBC が、マーク・E・スミスの60歳の誕生日に間違えて、ツイッターに訃報を流してしまったのだ。
「あれはひどい! 死亡説なら、堀江淳だろ~」と答えた瞬間、相手のいた居酒屋で「メモリーグラス」が流れていると、驚愕の返信がきた。その偶然には震えたが、堀江淳らしいと思った。いきなり存在を示してくる。
やはり堀江淳は、飲みほせない。飲みほされないのだ。
※2017年5月31日に掲載された記事をアップデート
2019.04.02
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