2月1日

人種の坩堝で昇華されたスティングの魅力「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」

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ステイホームでハマったもの、イギリスBBC制作のミステリードラマ


緊急事態宣言下での自粛生活の中、家の片付けをひと通り終え、毎日のいつもよりわずかに手をかけた料理にも少し飽きてきた私がハマったもの。それは、イギリスBBCが制作した連続ミステリードラマであった。まずはアガサ・クリスティ原作、ジョーン・ヒクソン主演の『ミス・マープル』、シェイクスピアゆかりの地、ストラトフォード・アポン・エイボンが舞台の『シェイクスピア&ハサウェイの事件簿(Shakespeare & Hathaway)』、そして3人の退職刑事と彼らを率いるやり手女性刑事がロンドンを舞台に未解決事件に取り組む『ニュー・トリックス~退職デカの事件簿~』etc.

何故ミステリーなのか。それは一話完結だから、と言うのが大きな理由。体力をあまり消費しないで済む。一話で完結しない連ドラは余計に次から次へと見たくなってしまう。そして何故BBCか。それは、私が加入しているアマゾンプライムでは、BBC作品は作品紹介のタイトル写真に大きく “BBC” のロゴがあり、イギリスの作品であることが一目瞭然なので(笑)。

本棚の整理をしていたときにアガサ・クリスティを奥底から見つけたのがきっかけで『ミス・マープル』を観始めたのだが、「ふるさとの 訛りなつかし 停車場の 人ごみの中に そを 聽きにゆく」と石川啄木が歌ったように、そのセリフがとても心地よく響いた。イギリス人のアクセント、そして使われる単語や言い回し。最初はテレビ画面で見ていたのが、だんだんとスマホの小さな画面が私にとっての上野駅となった。

イギリス英語とアメリカ英語、言葉の持つ帰属エネルギー


私は小学2年生から中2年生までロンドンに住んでいたのだが、日本に帰ってきてから心底悲しんだのは、日本ではほとんどイギリス英語に出会えないことだった。せっかく英語が話せるのだから、と帰国子女が集まる英語塾に母が連れて行ってくれた時もアメリカ帰りの子たちに囲まれ固まってしまった。今思えば中2女子、思春期真っ只中の自分のアイデンティティを否定されたと大袈裟に感じ取ってしまったのだろう。その塾に二度と行くことはなかった。

そんな感じで、蓋をしたままだった私のイギリスへの思慕がアマゾンプライムのお陰で一気に満たされている。特に『ニュー・トリックス』は最高! お上品とは言えない言葉や風俗、文化、地名がロンドンに満ちあふれている。また、イギリス映画にありがちなわかりづらさも無い。そして退職刑事が主役なので懐かしい昔の話題がたまにチラッと出てくるのにもくすぐられる。だが、残念ながらそれは情報があまりにもマニアックすぎて字幕には出てこない。字幕の誘惑を横目に耳を澄ませる。

イギリスは言わずもがな英語発祥の地である。そしてその子孫たちが世界各国に散らばっていくつか国を建国したので英語が母国語の国がチラホラあるわけだが、その中でもアメリカ合衆国は日本ともつながりが強いし、世界のリーダーでもあるので私たちが耳にする英語の多くはアメリカ人が話すそれだろう。

一方イギリス人たちは、もちろん自分たちの英語の正統性を当然だと感じている。町でアメリカ英語を耳にすればすぐ気づくし、一瞬「なんだあれ」的な気持ちになるはず。言葉の持つ帰属エネルギーは、良くも悪くも強烈だ。カナダに嫁いだ義姉曰く「イギリスに旅行するアメリカ人は自分たちをカナダ人だと偽る。何故ならアメリカ人は嫌われているから」笑い話だが、一部真理を付いている気がする。

スティングの名曲「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」


ではイギリス人がアメリカでどう感じるのか… その答えの一つが、スティングの歌う有名な『イングリッシュマン・イン・ニューヨーク』だ。この曲がリリースされた当時はさほどスティングが好きでなく(私はどちらかと言うとポリス派)、「いい曲でお洒落なMVだね」くらいの感想だったけれども改めて聴いてみた。

「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」は、スティングがMVに出演しているゲイのアイコンであるクエンティン・クリスプに出会い、生まれた曲である。クエンティンがゲイであることが違法であった頃からゲイであることを隠さず生きてきたことや、彼のチャーミングな人柄に魅力を感じていたスティングだったが、実際にクエンティンに出会い、この人生の大先輩が71歳という高齢でアメリカに移住したことに感銘を受け、ニューヨークに活動の本拠地を移した自分と重ねながらこの作品を書き上げた。

… と、これだけでも面白い話だけれども、彼は聴き手が楽しめるようこの作品にジャズやレゲエやロック、ヒップホップと音楽的にも多くの要素を盛り込んだ。また、言われてみないとわからないのだけれど(私は言われてもどこだかわからなかったのだけれども…)、イギリス国歌である「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン」も盛り込まれ、知れば知るほど最高に贅沢な一曲。聞き手は自然と “自分の経験” をたぐり寄せ、そして曲に満たされる。多くの人がこの曲をカバーしているのも納得だ。

これはニューヨークという人種の坩堝で昇華されたスティングの魅力なのではないだろうか。母国を離れ、多くの出会いに触発され、磨かれていった様が思い浮かぶ。今のステイホームとは真逆の体験である。私たちが今体験している暮らしがどんなアートを生み出していくのか、それも楽しみである。ステイホームだけれど望めば世界中の人と繋がることはできる。私たちは自分の理想をどのように形にしていくのだろう。

残念なことに、これだけ印象に残る名曲であるにも関わらず「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」は1988年にリリースされた当時、全英シングルチャートでは51位。1990年のリミックス版が15位… とスティングにとっての大ヒットというわけではなかった。イギリス人にとっては島国である母国を離れて海外で暮らすという状況があまり馴染みがなかったのか、もしくはこの歌がもつ “個人性” が時代とマッチしていなかったのか。むしろ、個人性を重んじたり、ステイホームを経験して “自分の存在すべき場所” に思いを馳せるような現代のほうがマッチするのかもしれない。

充実のステイホーム、イギリスの女優から感じた “美しさ”


さて、話しは戻るが、イギリスのドラマを見ていて今回すごく感心したのが、女優さんが “きれいすぎない” ことだ。もちろん、パーティ仕様や宣材写真仕様であればすごく美しいのだろうけれど、画面で見る彼女たちの印象は美しさを超えた何かが際立つ。それに年齢層も高い。よく彼らは女性の美しさを「Absolutely Gorgeous(最高にゴージャス!)」と称えるのだが、それは日本人が言う美しさ以上に “バイタリティがあって生き生きしている” ことだと感じる。そしてすごく太っていたり、それこそアゴが出ていたり、骨張っていたりする女優さん(男性の俳優においても同じ)が大勢活躍している。そんな彼らを見ていると、なんだかつまらないことにこだわっていたんじゃないか? と目からウロコだ。

と、私のステイホームはなかなか充実した充電になった。体重が増えたのは想定内… ということにしておこう。

2020.07.31
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カタリベ
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