12月21日

久保田利伸の登場!僕らはいつから “裏拍” を意識するようになったのか?

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久保田利伸のセカンドシングル「TIMEシャワーに射たれて」がリリースされた日
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映画「サタデー・ナイト・フィーバー」から始まったディスコブーム


ジョン・トラボルタ主演の映画『サタデー・ナイト・フィーバー』が、1978年の夏に日本で公開された。その影響は大きくて、ビージーズの「ステイン・アライヴ」をはじめ、ドナ・サマー「ホット・スタッフ」や、ノーランズ「ダンシング・シスター(I'm in the Mood for Dancing)」、変わったところではジンギスカンの「めざせモスクワ(Moskau)」など洋楽のダンサンブルチューンが軒並みヒットした。そのブームはやがてハイエナジー(ユーロビート)というアップテンポな楽曲に変貌を遂げ、後に “パラパラ” という日本独自の文化を生み出すまで進化を続けてゆく。

僕はディスコに通った口ではないけれど、個人的にアップテンポな4つ打ちの無機質なリズム曲よりも少し落ち着いた曲が好きで、ABBA「ダンシング・クイーン」のような、メロディアスな曲の方が印象に残っている。

日本人がアフタービートを意識したのはいつから?


なぜ今回ディスコの歴史を振り返るところから始まったかというと、日本人のリズム感覚について語ってみたいと思ったからだ。

まず “踊る” ことに関して考える。ディスコへ行く年頃になる以前、ほとんどの人がフォークダンスの洗礼を受けたのではなかろうか? 小学校の運動会で、きっと「オクラホマ・ミキサー」や「マイムマイム」を踊らされたことだろう。さらに記憶を探っていくと、町内会の盆踊りにたどり着く。夏祭りの夜、大人に混ざって櫓の周りを囲んで踊ったものだよね。

さてここからが本題。よく思い出して欲しい… 盆踊りのとき、みんな “拍の頭” で手拍子をしていなかっただろうか? そう “音頭” の手拍子だ。日本人に深く刻まれたリズムのDNAは「ヨヨイノヨイ!」みたいな1拍3拍にアクセントを置く音頭だと僕は思っている。

ところが、僕らはいつの間にかアフタービート… つまり “裏拍” で音楽を意識できるようになっていた。それは一体いつからなのか? というのが今回取り上げる内容だ。

実際、80年代初めにディスコで流れていたヒット曲に裏拍はあまり感じられない。裏拍のルーツは黒人音楽… ブルースやジャズにあると思うので、アイルランド出身のノーランズや西ドイツ出身のジンギスカン、スウェーデン出身のABBAという白人ルーツの楽曲ではそこまで裏拍のビートを感じられないのだろう。

ダウンビートとアフタービート、その違いって何?


これは自分の感覚だけど、80年代前半までは裏拍を意識して音楽を聴くことがなかったと思う。僕だけじゃなくて、ほとんどの人がそうだったんじゃないかな? ディスコで踊るにしても、その頃原宿の歩行者天国で流行った竹の子族にしても、みんなリズムを拍の頭… つまり1拍3拍でリズムを感じていたはずだ。音楽用語でこれをダウンビート(表拍)という。

それに対して、2拍と4拍にアクセントを感じるノリをアフタービート(裏拍)という。このリズム感覚のルーツは黒人音楽だ。ジャズやブルースを起源としたゴスペル、そしてリズム・アンド・ブルース、ソウルミュージック、ヒップホップやファンク、もちろんラップのノリも裏拍で感じるのが “通” というもの。

ただ80年代前半の日本では、そのノリはまだまだ馴染みが薄かった。いわゆる “黒いノリ” である裏拍の概念は、洋楽に詳しい極一部のマニアしか知らなくて、多くの人は日本に古くから伝わる民謡~唱歌、軍歌~そして60年代から80年代前半の歌謡曲におけるリズム感覚の刷り込みがあったからに他ならない。

先見の明があった佐野元春は単身渡米して、現地のミュージシャンと共に過ごしラップを体得、その後『VISITORS』(1984年)をリリースしたけれど、彼をもってしてもまだ裏拍の感覚は日本人に行き渡らなかった。

彗星の如く出現した久保田利伸、そのノリと “裏拍” の夜明け


そこに彗星の如く出現したのが久保田利伸である。

「失意のダウンタウン」(1986年)のデビューシングルから同年秋のファーストアルバム『SHAKE IT PARADISE』リリースにより多くの日本人は度肝を抜かれたはずだ。僕もそうだった。初めて聴いた「流星のサドル」で久保田利伸から発せられる “ノリ” は、自然と身体が動き出してしまうほどの衝撃だった。

このアルバムに収められている「流星のサドル」(ブリヂストン ラジアルタイヤCMソング)のR&Bシンガー独特な “節回し” や、「Missing」(TBS系『噂的達人』エンディングテーマ)の美しく叙情的な旋律は、テレビの音楽番組でもたびたび披露され多くの人の心を魅了した。久保田利伸が持ち込んだ日本人によるR&Bという未体験の文化が、日本中に一大ムーブメントを巻き起こしたのである。それは間違いなく裏拍の夜明けだった。

僕らが浴びたブラックミュージックの洗礼「TIMEシャワーに射たれて」


その『SHAKE IT PARADISE』から間髪入れずにシングル第2弾「TIMEシャワーに射たれて」がリリースされた。今から34年前の1986年12月21日のことである。

この曲、サビの部分の「♪ TIMEシャワーに射たれて」というところだけしか僕は覚えていなかったけれど、みんなはどうかな? 言い訳がましいが、それはある意味やむを得ないかもしれない。何せ楽曲のほとんどがラップで構成されているからだ。

曲の構成はこうだ。Aパートは完全ラップ(ちゃんとした日本語ラップ)で、そこからメロディーを絡めたラップ気味のBパートに移り、ブレイクを挟んでサビに突入する。つい口ずさんでしまうほどのキャッチーなメロディーラインが実に美しい。このラップとメロディーのギャップがサビしか覚えてないというカラクリだと思うんだけどどうかな?

この久保田利伸から発する日本語ラップが実にグルーヴィーであり、そのノリのままサビに移るので、聴く人は自然と裏拍を感じながらメロディーに乗ってしまう。それこそが「TIMEシャワーに射たれて」の巧妙な仕掛けであり、彼が僕らに浴びせたブラックミュージックの洗礼であろう。

それにしても、まだ日本人に馴染みのないラップパートがかなりある楽曲のリリースにGOサインを出したプロデューサーは、本当に勇気がいったことだろう。久保田利伸が切り拓いた裏拍の夜明けに鮮烈な朝陽を登場させたことで、日本中をR&B文化の光で包み込んだのだ。

この「TIMEシャワーに射たれて」はファンの間でも抜群に人気があり、ライブでも必ず演奏されている。ネット上にUPされている映像を観ると、サビの部分で大きく手を振り客席と一体感を演出している。会場のお客さんを観察すると、みんな手を大きく横に振りながら、上半身から下半身にかけて裏拍でノリを感じているのが分かる。コンサート会場が大きなグルーヴでひとつになっているのだ。圧巻のひと言である。

簡単! 音楽をウラで感じるための簡単な練習法


最後に、「音楽を上手にウラで感じることができない」というあなたに、体得する練習方法を伝授したい。これは僕が高校生の頃にやっていた簡単な練習方法なのですぐにできるし、慣れればどんな音楽を聴いてもウラでノリを感じることができるようになるのでぜひチャレンジしてみて欲しい。

歩きながら好みの音楽を聴くだけなのだが、せっかくなので、ここは「TIMEシャワーに射たれて」で。イヤホンを耳に装着して曲を流し、曲が始まったら(最初はバラード調なので注意)踏み出す足をリズムの裏(2拍4拍)に合わせて歩いてみて欲しい。最初慣れないとぎこちなくなるかもしれない。ただ、慣れてしまえば面白いようにリズムに乗れる自分がいるはずだ。コツが掴めたらいろんな曲で試して欲しい。いままで感じなかった楽曲の新しい面を発見できるかもしれない。



2020.12.20
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カタリベ
1967年生まれ
ミチュルル©︎たかはしみさお
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