2006年僕は福生のアメリカンハウスに一人で暮らしていた。何故、アメリカンハウスに住んでいたのかというと広くて安い。駐車場付きなんていう現実的、生活感的な理由によるが、一番の理由は…
【フェンスの向こうはアメリカ】
この文化的影響力は絶大で、福生は70年代~80年代にかけて才能ある人々を引き寄せている。RCサクセションがメンバー全員で福生のアメリカンハウスに住みながら創作活動に励んでいたのは有名な話。
さらに村上龍もアメリカンハウスに自ら居住し執筆活動を行っていた。そして『ベッドタイムアイズ』の山田詠美。
この【フェンスの向こうはアメリカ】という目に見える国境線はもうそれだけで非日常を演出し、これは表現者にとっての加速装置に他ならない。何も表現しない僕でさえ、誘蛾灯に引き寄せられる蛾の様に福生に始まり本牧に流れ住む生活を送った。
上條淳士先生の福生を舞台にした『SEX』30周年完全版が発売されている。リアルタイムで読んでいたが話の内容はよくわからなかった。今ならわかるかもと一気に3巻まで読んだ。
話の筋なんてもうどうでも良かった。そこには漫画なのに映画的手法で切り取られた一夏の限りなく透明に近い青春があった。ウォンカーウァイの『恋する惑星』に先駆けてのこの表現手法。上條淳士先生の最高傑作と呼ぶにふさわしい。
これほど映画的な漫画をそれまで読んだ事はなかった。ページを開くと登場人物が動き出して喋り出しそうな、本を閉じても物語が展開されていそうな、想像力を掻き立てる画力。
東福生駅のシーンなんて今でもそこに行けば、登場人物がいるのではないかと錯覚する程リアル。風景写真的な描写ではなく、未来のほんの一瞬先の光景まで捉えた筆致と思える。
福生という街の魔力は現在では大分薄らいでしまったが、この作品が描かれた1988年はギリギリ魔力を保っていた。福生のあの空気感、東京の他の街とは違う時間の流れ、風景だけで何かを語りかけてくる叙情性が見事に再現されている。今回の30thでさらに加筆されて、漫画なのに現実の映像が浮かんでくるような仕上がり。
そしてもう一つ重要な要素は《音》。この作品は『To-y』の様に音楽業界をテーマにした作品ではない。しかし、常にブルースにルーツを持つロックが鳴り響いている。
その音とはストリート・スライダーズの「Boys Jump The Midnight」。主人公の設定からしてハリーと蘭丸である。
この作品の主人公は当時流行っていたイカすバンド天国なんて演らないし、表題にある《SEX》もまともにしていない。それにも関わらず匂い立つ様な退廃感に包まれているのだ。
第二ゲート近くのアメリカンハウスで《限りなく透明に近いブルー》を過ごすユキとカホとナツ。
「見つけた。何を 永遠を。」
《地獄の季節》 ランボオ。
これに憧れない18才が何処にいるというのだろう。この作品はスライダーズインフルエンスと言われているが、僕はRCの「MIDNIGHT BLUE」もこの作品に似合うと思う。
眠れない奴らが騒いでる
今夜もおかしくなっちまう
ぶっとばせMIDNIGHT
漫画や映画の世界を実際にすり抜けて行った人達がいる。彼らの軌跡は永遠で、だからこそ残酷で美しい。その物語はずーっと1988年の夏から動かない、何処にも行かない、いつでもそこにある。置き去りにされているのか? 今から体験するであろう人達を待ち伏せているのか?
1988年の夏は永遠なのか?!
2017年を生きる僕、今ここに車があったなら可愛いあの娘とDEMODE DINERでお茶して、ニコラピザで食事してBIG MAMAで買い物したい!
歌詞引用:
MIDNIGHT BLUE / RCサクセション
2017.08.28
YouTube / poko950
YouTube / Hayaneco
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