2月1日

スティングが惹きつけられたゲイアイコン「NYのイングリッシュマン」とは誰のこと?

43
0
 
 この日何の日? 
スティングのシングル「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」がリリースされた日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます
▶ アーティスト一覧

 
 1988年のコラム 
すべての人に訪れるクリスマスの夜 ー ポーグスが奏でるニューヨークの夢

苛烈を極めた中森明菜の曲選考、敗者復活した異例のシングル「アルマージ」

1988年夏、福生と上條淳士。BGMはストリート・スライダーズ

人種の坩堝で昇華されたスティングの魅力「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」

追悼:レナード・コーエン ① ~ 名盤「ロマンシェード」との出会い

長渕剛のセルフカバー「乾杯」瀬尾一三が曲に纏わせた人生のリアリティ

もっとみる≫




往年のビッグネームも登場、ライブ動画「タイニー・デスク・コンサート」に注目!


皆さんは、米国で人気のライブ動画『タイニー・デスク・コンサート』をご存じだろうか?

これは、米国の非営利団体の公共ラジオ放送NPR(National Public Radio)の音楽部門「NPRミュージック」が主催し、小さなオフィスの一角に置かれたデスクの横で行われるライブパフォーマンス企画のことで、誰もがインターネット上で動画を閲覧することができる。

ライブハウスのように立派な PAシステムや照明はなく、演奏中はスタッフと少人数の観客しかいない。出演者は本棚をバックに、録音用のカメラとマイクに向けて、アコースティックな楽器を弾きながら歌うだけである。

この企画の始まりは2008年。これまでに900回以上も開催され、出演者にはジャクソン・ブラウン、パット・ベネター、スザンヌ・ヴェガといった往年のビッグネームが名を連ねている。最近の人だとアデルやテイラー・スウィフトも出演した、それなりにメジャーな企画なのだ。

そんな中で、僕が紹介したいのは、2019年7月に配信されたスティングとシャギーの共演ライブである。

逆境の中で毅然と生きるイングリッシュマン、クエンティン・クリスプ


スティングについては、1980年前後から音楽に親しんだファンには説明不要だろう。シャギーはキングストン生まれのジャマイカ系米国人で、レゲエ界のスーパースターである。2人は2018年にコラボレーション・アルバム『44/876』をリリースし、グラミー賞の最優秀レゲエ・アルバム(Best Reggae Album)に選ばれている。ちなみに「44」と「876」は、英国とジャマイカ、それぞれの国際電話の国番号である。

余談だが、スティングがかつて在籍していたポリスは、レゲエの要素を最も早くにロックに取り入れたバンドであった。セカンドアルバム『白いレガッタ(Reggatta de Blanc)』は、その邦題が全く意味不明だったが、本当はこれは「白いレゲエ」のことで、ある意味で彼らのアイデンティティを表しているとも言えた。

話を共演ライブに戻すと、1曲目に演奏されたのが「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」である。この曲はスティングのセカンドソロアルバム『ナッシング・ライク・ザ・サン』からのサードシングルで、リリース時点で既にアルバムがヒットした後だったので、シングルチャートにおける成績は大したことないが、おそらくこのアルバムで最も有名な曲だと思う。

この曲のミュージックビデオで老女役を演じているのが、ロンドン生まれの作家で俳優のクエンティン・クリスプという人で、タイトルにもなっている「イングリッシュマン」とは “彼” のことである。彼はゲイであることを早い段階で公表した人物としても有名で、そのせいで差別を受け続けた(イングランドとウェールズでは1967年まで同性愛は違法だった)。

そんな逆境の中でも毅然と生きている彼の姿に感銘を受けたスティングは、その後、直接話を聞く機会に恵まれたことでますます魅了された… というのがこの曲が生まれた背景である。



イングリッシュマンとジャマイカン、ニューヨークで尊重し合うアイデンティティ


だが、そういう事情をよく知らない僕たちが、この曲から何か感じ取ることがあるとしたら、それはやはり「イングランド出身者としての強烈な誇りやアイデンティティ(そして少なからず自信や優越感も)」だろう。何しろ「コーヒーより紅茶が好き」とか「いつもステッキを持ち歩く」とか、歌詞の中でこれでもかと自分たちのライフスタイルを主張しているのだ。

その意味で言うと、1993年にレゲエ・シンガーのシャインヘッドがリリースした「ジャマイカン・イン・ニューヨーク」も面白かった。この曲は、言うまでもなく「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」の替え歌であり、パロディとも言える作品ではあるが、実は大真面目にジャマイカ人のアイデンティティを歌っているんじゃないかという気もする。

そう考えれば、『タイニー・デスク・コンサート』の中で「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」と「ジャマイカン・イン・ニューヨーク」が実に自然に融合しているのも理解できる。スティングとシャギー、ニューヨーク在住の2人が自らのアイデンティティを主張しつつ、一方で互いに尊重し合っている… そんな美しい光景を目撃できているのだとしたら、それも悪くない。

そうそう、もちろんスティングの変わらぬレゲエ愛を感じられるのも、このライブの良さである。


Song Date
■ Englishman In New York / Sting
■ 作詞・作曲:Sting
■ プロデュース:Sting・Neil Dorfsman
■ 発売:1988年2月1日


Billboard Chart&Official Charts
■ Englishman In New York / Sting(1988年2月20日 全英51位、1988年4月23日 全米84位)
■ Jamaican In New York / Shinehead(1993年4月10日 全英30位)


Billboard Chart&Official Charts(Album)
■ Reggatta De Blanc / The Police(1979年10月13日 全英1位、1979年12月22日 全米25位)
■ ...Nothing Like The Sun / Sting(1987年10月24日 全英1位、1987年11月21日 全米9位)
■ 44/876 / Sting & Shaggy(2018年5月3日 全英9位、2018年5月5日 全米40位)



2019月12月6日に掲載された記事をアップデート

▶ スティングのコラム一覧はこちら!



2023.02.01
43
  YouTube / NPR Music


  YouTube / StingVEVO


  YouTube / Shinehead - Topic


  Songlink
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
1965年生まれ
中川肇
コラムリスト≫
25
2
0
2
1
ロッド・スチュワート「ヘラクレスの涙」いま、ノリに乗ってる76歳の現役シンガー
カタリベ / KARL南澤
103
1
9
8
7
80年代を代表するクリスマスアルバムは「クリスマス・エイド」で決まり! #1
カタリベ / 中川 肇
54
1
9
7
8
ブロンド好きのスーパースターがカープール・カラオケにやってきた!
カタリベ / 中川 肇
57
1
9
8
0
高校教師を見つめていたい、ポリスを通じて英米音楽市場を比較する
カタリベ / 中川 肇
22
1
9
8
4
9月に聴きたいスタンダード、イアン・マッカロクの「セプテンバー・ソング」
カタリベ / DR.ENO
37
1
9
7
9
どうしたスティング、なんと、歌うウェイター役でコント出演!
カタリベ / 中川 肇