12月18日

80年代アメリカの影、ベトナム帰還兵を描いた「ランボー」と「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」

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シルベスター・スタローンをアクションスターに押し上げた「ランボー」


俳優シルベスター・スタローンの名を世界に知らしめたのは紛れもなく『ロッキー』シリーズ(1976年~)だが、80年代を代表するアクションスターに押し上げたのは『ランボー』シリーズ(1982年~)だろう。敵地にたった一人で殴り込み、筋肉隆々の肉体で機関銃や弓を自由に操り、片っ端から敵をなぎ倒す最強マシーン。これが一般的な『ランボー』のイメージなはずだ。

実際に回を重ねるごとに火薬の量も多くなり無敵の超人化していくが、1作目の『ランボー』の主人公は決して好戦的な男ではなかった。出来ることならば自分のことは気にせずに放っておいてほしいと願っているほどだ。実際に最初の『ランボー』では正当防衛のなか一人しか殺していない(直接手はくだしていない)。無名ボクサーのロッキー・バルボアがアメリカン・ドリームを体現する希望の「光」だとするならば、ベトナム帰還兵のジョン・ランボーは孤独で戦争後遺症に苦悩する、いわば挫折の「陰」だった。

ベトナム帰還兵のジョン・ランボーの苦悩


ベトナム帰還兵のジョン・ランボー(シルベスター・スタローン)は、アメリカ北部ワシントン州の山間に戦友を訪ねるが、友人はベトナムでの枯葉剤から癌にかかり亡くなっていた。無力感に苛まれるランボーが田舎町に降りてくる。警戒心の強い保安官ティーズル(ブライアン・デネヒー)は身なりの悪い彼を危険人物と決めつけ理不尽にも浮浪罪と公務執行妨害で逮捕してしまう。

署に連行されたランボーは暴力的な取り調べを受けるなかでベトナム敵地での拷問の悪夢を呼び覚ましてしまう。反射的に山中に逃走、彼を追う警察署員。捜索が難航し州警察、州兵まで出動するなかでベトナム時代のランボーの上官トラウトマン大佐(リチャード・クレンナ)が現れ彼の正体が明かされる。ジョン・ランボーは、ベトナム戦争の英雄で元グリンベレーの史上最強戦士だった……。

デヴィッド・マレル原作「一人だけの軍隊」の衝撃的な結末


原作はデヴィッド・マレルのデビュー作『一人だけの軍隊』(1972年)。原題の『First Blood』は直訳すると『最初に流れた血』。ボクシング用語では『最初の出血』、すなわち『先制』を意味する。

たった “一人の戦い” は市街戦に発展し最終的に銃をおろし泣きじゃくるランボーをトラウマンが抱き寄せて終わる。原作では、ランボーはダイナマイトでは自殺を図るが失敗し、トラウマン大佐によって射殺される衝撃の結末だった。

「ランボー、もう戦争は終わったんだ!」(トラウトマン)

「何も終わっちゃいない! みんな死んじまった。あんたらが始めた戦争だろ。ベトナムじゃあ何百万もする兵器を与えてくれたのに、ここじゃあ駐車場の仕事もない。俺たちは必死に戦った。そんな俺たちが帰って来た空港では “子供殺し!” なんて言いやがる。奴らにいったい何がわかるっていうんだ!」(ランボー)

ブルース・スプリングスティーン「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」との類似点




80年代アメリカン・ロック愛好者ならニヤリ。ブルース・スプリングスティーンの「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」(1984年)と映画『ランボー』第1作の主人公は類似点が多い。ベトナムから帰郷して精油所へ行ったら雇用係に「オレの一存ではどうにも…」と拒まれ、退役軍人管理局にいったら「まだ分からんのか?」と諭される “アメリカに生まれた男” とジョン・ランボーは同じ境遇なのだ。しかし決定的に異なるのはブルースの「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」は、アメリカの悲劇を繰り返さないように70年代から戦争反対を貫くリベラルとしての母国への警告だった。しかし時は米ソ冷戦、ロス五輪、強いアメリカを掲げるレーガン政権下で国粋アンセムと捉えられた。不本意な誤解を解くためにブルースはここから長い時間を費やすことになる。

一方、劇中のジョン・ランボー=シルベスター・スタローンは武器を置くことはなかった。『ランボー2 / 怒りの脱出』(1985年)では望むと望まざるとにかかわらずランボーは戦場に戻された。戦時中にランボーが脱走したベトナムの捕虜収容所に潜入し、今も囚われている捕虜の現状を調査する任務。さらに強靭な兵士となった彼の手によって今度は70人以上が殺傷されている。その戦地が彼が最も尊敬され、英雄として扱われる場所だったかどうかの答えは、多くの者が知っているはずだ。

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2022.07.04
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カタリベ
1970年生まれ
安川達也
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