リマインダー世代の必須科目「ロッキー」
高らかに鳴り響くトランペットのファンファーレとともに、黒地に“ROCKY”というタイトルが右から左へと流れていく―― リマインダー世代なら、それだけで胸が高鳴るのでは?
…… というわけで、このコラムは映画『ロッキー』、とりわけ1982年に公開されたシリーズ3作目『ロッキー3』についてのお話。
『ロッキー2』が劇場公開されたのは1979年、週刊少年ジャンプなどの漫画に飽きてきて映画に興味が移っていった中学1年の頃。田舎の映画館では、前作『ロッキー』とともに二本立てだ。これは行くしかない! そして当時の多くの中学生がそうであったように、マナブはロッキー・バルボアのファンになってしまった。リマインダー世代の必須科目!
物語は今さら説明する必要もないだろうが、念のため。
フィルラデルフィアに住むロッキー・バルボアはプロのライセンスを持つボクサーだが、盛りを過ぎ、借金の取り立てで日銭を稼ぐチンピラ同然の生活をしており、所属ジムからも見捨てられようとしていた。折しも、アメリカ建国200年を祝してヘビー級王座戦が行なわれようとしていた。王者アポロは、無名の選手を挑戦者に抜擢してアメリカンドリームを表現することを提案。そして対戦相手としてロッキーに白羽の矢が立てられる。さすがに力が違い過ぎると一度は断った彼だったが、周囲に励まされ、支えられて心を変える。これまで以上に過酷なトレーニングを積み、自分がただの負け犬でないことを証明するために、彼はリングに上がった……。
シリーズ2作目の監督はシルベスター・スタローン
以上が1作目のあらすじだが、これはもうドラマとしての完成度も高く、アカデミー賞のお墨付きを得たほどの傑作なので、観たことのない方にはぜひ観て欲しい。続く『ロッキー2』では結婚したロッキーが、アポロとのリターンマッチに挑む。前作の監督ジョン・G・アヴィルドセンが降番し、主演のシルベスター・スタローンが監督を兼任したこともあり、つくりは前作に比べると少々粗いが、それでもクライマックスにはアツくなる。
当時ジャンプに連載されていたボクシング漫画『リングにかけろ』が、荒唐無稽になりつつあって“なんだかなあ……”と思っていたマナブは、こちらに飛びついてしまった。
ともかく、『ロッキー』の1、2作目にはジャンプの漫画三原則 “勇気・友情・勝利” のうち、ふたつが中学生でもわかるレベルで宿っていた。負ける可能性が圧倒的に高い相手と戦うための “勇気”、そしてリングの上での “勝利”。“友情” もないわけではないが、わかりやすくてアツい、漫画的なエピソードはない。そして、それを補完したのが、『ロッキー3』だった。
これぞ「ロッキー3」の新味! 昨日の敵が今日の友となる熱血友情ドラマ
1982年、高校生になっていたマナブは東京公開から2か月ほど遅れて、地元の映画館にやってきた『ロッキー3』をいそいそと観に行った。が、まず驚いたのは、黒地に“ROCKY”のタイトルが流れてくるオープニングではなかったこと。バックは黒ではなく、チャンピオンベルト! 王座に就いたロッキーの新たな物語である、と宣言しているかのようだ。
物語も前2作とは異なっており、もはや “負け犬” 的庶民の奮起のドラマではない。ロッキーはチャンプとなり、王座を守り続けて有名人となったのだから、それも当然か。まさに我が世の春。が、それでも落とし穴はあるもので、ロッキーはハングリー精神を欠いていき、引退試合で若く攻撃的な挑戦者(ミスターT、怪演!)にノックアウトされる。このままでは終われない―― そう思ったとき、救いの手を差し伸べたのは旧敵アポロだった。アポロは言う。
「俺と戦ったときのおまえはトラの目をしていた。それを取り戻せ!」
―― そして彼はロッキーのトレーナーを買って出て、リターンマッチへと臨ませる。そう、コレだよ、コレ! 昨日の敵が今日の友となる熱血友情ドラマは!『ロッキー2』は正直、ストーリー展開が『ロッキー』の焼き直しのようだったが、本作はこの熱だけで、シリーズの新味として受け止めることができた。
主題歌は、サバイバー「アイ・オブ・ザ・タイガー」
新味といえば、シリーズで初めてロックな歌物の楽曲が起用されたこと。これまではビル・コンティによるドラマチックなスコアのみだったが、今回はご存知、サバイバーの「アイ・オブ・ザ・タイガー」が主題歌として起用された。これはもちろん “トラの目” というアポロのセリフとリンクしている。力強く、正確に刻まれるビートに乗って、おなじみのあのギターリフが響く。高校生となって洋楽にのめりこんでいた自分も、暑苦しい曲だなぁ…… と思いつつも妙に耳に残り、サバイバーのアルバムをレンタルレコード店に借りに行った。
スタローンはここでシリーズを終えようと思っていたが、人気がさらに高まったことから、1986年に4作目、1990年に完結編とのふれこみの5作目が作られることになった。さすがにこのあたりになると、それまでのようには熱も上がらず、「まだやるのかー」という気持ちで観に行った。もちろん、これはこれで楽しんだし、見届けてよかったと思っている。
余談。2006年、スタローンはさらに、(一応の)シリーズ完結編『ロッキー・ザ・ファイナル』を放つ。「まだやるのかー」もここまでくると失笑に変わる。60を過ぎたロッキーがリングに上がるなんて、お笑い以外の何物でもないだろう……。そう思いつつ、40歳となったマナブは中年太りのお腹をさすりつつ観に行ったら、これがとんでもない傑作で、ボロボロ泣いてしまった。生きることは簡単じゃない。死も視界に入って来る。その物語は “勇気・友情・勝利” のわかりやすいスローガン的なものを、とうに超えていた。この後に作られた、アポロの息子を主人公にした番外編『クリード / チャンプを継ぐ男』と、その続編ともども、これはリマインダー世代の追試課題である。
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2022.05.31