2月25日

村下孝蔵「初恋」が数多くの初恋ソングと一線を画している理由

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photo:SonyMusic  

色あせぬ名曲「初恋」今なお高い認知度!


1999年6月24日、村下孝蔵が亡くなった。当時7歳だった私は、村下孝蔵という人も、その人の死も知らなかった。突然の死だったというから、きっと大きな衝撃が走ったことだろう。

そんな彼の代表曲は、言わずと知れた「初恋」。オリコン売上で言えば52.6万枚。大ヒットではあるが、同じ枚数売れた曲がみんな今まで歌い継がれているかと言うと、そうとは限らない。そんな中この曲は、世代を問わず知名度があり、周りの20代にも必ずといっていいほど認知されている。それにGoogle検索でも「初恋」というかなりのビッグワードであるにもかかわらず、この曲の Wikipedia ページが上位に表示される。

これは世代の人だけが好きで聴いている(検索している)、というレベルの結果ではないだろう。発売から37年も経つこの曲は、いまや “好き” と言うのもはばかられるほどに有名になった。しかし、ただ名が知られているだけではない。有名であるにはそれだけの理由がある。

注目!ほかの初恋ソングと一線を画した歌詞


 五月雨は緑色
 悲しくさせたよ 一人の午後は
 恋をして 淋しくて
 届かぬ想いを 暖めていた

 好きだよと言えずに初恋は
 ふりこ細工の心
 放課後の校庭を 走る君がいた
 遠くで僕は いつでも君を探してた
 浅い夢だから 胸をはなれない

メロディー、アレンジ、コード進行、声質、歌唱力どれも洗練されており、とりわけ「五月雨は緑色」にはじまる言葉えらびの美しさには、思わず膝を打つ。しかしそれ以上に、歌詞の内容に注目したい。それは、相手を特定できる情報がほとんどなく、「放課後の校庭を走る」人ということしかわからない。相手だけではなく、自分の情報もほとんどない。人物の性別や具体的な特徴を極力描かず、自分の内面的な想いと情景の描写に終始焦点を当てているのだ。

だからこの曲は、“特定のだれかの初恋を想像させない” という点において、ほかの多くの初恋ソングとは一線を画している。たとえばアイドルが歌う初恋ソングなら、(少なくとも私は)そのアイドルのキラキラした世界の初恋に想像を膨らませる。あるいは切ない初恋だとしても、その胸中を心の中でなぞり、同じ思いを共有する。いずれそのアイドルの初恋物語に想いを馳せるのだ。もちろん、それはそれで楽しみ方の一つである。

ところが村下孝蔵の「初恋」は、ちょっと違う。“村下孝蔵の初恋” に思いを巡らせる人は、まずいない。これを聴く人の頭の中にあるのは、まぎれもなく “自分の初恋” である。誰が聴いても、聴いたその人の初恋のための歌だと思わされてしまうのだ。

たったひとつの大切な初恋、リスナーにとっては唯一無二


自分では「実は… これ、おれの初恋のテーマなんだ」と思っていても、実は… もへったくれもない。みんなにとっても “自分のための曲” なのだ。ところが不思議なことに、唯一無二の “自分の曲” に感じてしまう。この “自分にとって唯一無二” というのは、ズバリ初恋そのものである。誰もが経験したことがあるごくごく平凡なことなのに、どれひとつとして同じものがなく、誰にとっても特別なものだ。

テレビで「初恋」が流れるときやカラオケで誰かがこの曲を歌うとき、この曲を聴いた人々は一様に「この曲いいよね~」「本当、いい曲だよね~」なんて言い合うが、それは一見共鳴しているかのように見えるが、そうではない。それぞれが “自分の初恋物語” というまったくバラバラのストーリーを頭に浮かべうなずき合っているのだ。

かくいう私自身もそうだ。もし感傷的に語ったりなんかしたら、「いや… ごたいそうに言うけどさ、初恋ってそういうもんだよ…?」というツッコミが飛んできそうな、きわめて平凡な経験だ。それでも、私にとってはやはり初恋は特別である。

そんな、誰に言っても多分伝わらないし聞いてもらえない、だけどたったひとつの大切な初恋を、「初恋」は包んでくれるのだ。もはや、村下孝蔵の「初恋」は私たちの初恋そのものだとも言える。この曲が生まれて37年が経った今も聴いてもそう思えるし、売上以上の影響を世の中に与えているだろう。

いまも多くの人に大事にされる、村下孝蔵の最高傑作!


私は「初恋」に始まり「踊り子」「ゆうこ」等のシングルからアルバム曲、B面曲と彼の曲は多数聴いてきたが、今ふたたび「初恋」を聴いても、やはり素晴らしいと感じる。そして自分の物語のなかへと逃避行する。“ファンになると一番売れた曲がピンとこなくなる現象” というのはたまに存在するが、この曲に限っては間違いなく村下孝蔵の最高傑作のひとつなのだ。

奇しくも命日が五月雨の季節ということで、ファンは6月24日を五月雨忌と呼ぶ。村下本人は、曲が売れなくなった時期に「自分には “初恋” を越える曲はできんかもしれん」と思っていたというが、私はこう伝えたい。

その「初恋」という曲は、たぶんあなたの想像する以上に、いまも多くの人に大事にされている。まるで自分の初恋と同じくらい、大事にされていますよ。…と。

「初恋」の成功によって苦しめられたこともあったのかもしれない。この曲のファンとしては、それを思うと少々切なくなる。しかしそれでも、やっぱりこの曲が名曲だということはまぎれもない事実だ。自分の初恋に心酔しきったあとは、たまには村下孝蔵、彼自身に思いを馳せてこの曲を聴くのも良いのかもしれない。


筆者注:村下孝蔵については、『村下孝蔵「春雨」は傷ついた心を優しく包む。【初恋しか知らないアナタへ】』でも紹介しています。こちらも是非ご覧ください。そして、70~80年代のヒット曲の総合情報サイト『あなたの知らない昭和ポップスの世界』も、よろしければご覧ください。


※2019年6月24日に掲載された記事をアップデート

2020.02.25
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1965年生まれ
ルパン四世
いいコラムですね。
グッときてしまいました。
これから「初恋」を聴こうと思います。
2019/06/24 10:01
2
返信
1992年生まれ
さにー
ありがとうございます!いつ聴いても、胸に刺さる曲ですよね。
2019/07/03 00:12
0
カタリベ
1992年生まれ
さにー
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