11月23日

セールス200万枚の社会現象!松任谷由実「天国のドア」は音楽として語られないアルバム?

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混沌とした時代にリリースされた「天国のドア」


1990年… 日本はだんだんとバブル崩壊に向かいつつあり、世界では前年のベルリンの壁崩壊をきっかけとした東西ドイツ統一、そして湾岸戦争が勃発… という混沌とした時代に松任谷由実のアルバム『天国のドア』はリリースされた。

「リフレインが叫んでる」が収録された前々作『Delight Slight Light KISS』はミリオンセールスを記録、「ANNIVERSARY」「WANDERERS」が収録された前作『LOVE WARS』ではさらに売上を伸ばして勢いづいていたユーミンだが、売上枚数がギリギリ200万枚に届かなかった。となると、当然次の作品に期待がかかることになる。

先に言ってしまうと、『天国のドア』リリース翌年の1991年、ユーミンは『第5回 日本ゴールドディスク大賞』に選ばれている。トータルセールス金額は58億5,293万2,707円 。『天国のドア』の売上枚数は202万8,911枚(どちらも日本ゴールドディスク大賞発表によるもの)で、日本音楽界で初めて売り上げが200万枚を超える作品となった。

このような状況から、本作について語られるのは、だいたい「200万枚突破」というセールスのことばかり。アルバムの内容について語られているのをあまり見たことがない。音楽というよりはバブル期のプーム、流行した商品のひとつとして扱われていた気がする。

かつて、ご本人もーー

「90年代初頭には音楽評に載らなくなって、音楽として捉えてもらえなくなっていたよね。社会現象みたいなところに行っちゃって」

集英社刊「松任谷由実 1972-2011 フォトストーリー 『THE YUMING』」より



ーー と 語っている。

事実、私の周りでもユーミンファン以外で『天国のドア』のCDを買った人はたくさんいた。しかしそのほとんどが「天ドア? 何が入ってたっけ? 覚えてないなぁ」という感じで、ブームだからとりあえず買っといた、みたいな人が多かった。

キャッチコピーは「永遠をお探しですか」


『Delight Slight Light KISS』のテーマは「純愛」、『LOVE WARS』のテーマは「恋の任侠」。どちらもテーマとしてはわかりやすく、数々のラブストーリーを元にした曲を詰め込んだ作品だった。しかし『天国のドア』には「永遠をお探しですか」というキャッチコピーはあるものの、前2作のような明確でわかりやすいテーマがなく、ライトリスナーには少々とっつきにくかったのかもしれない。



ただ、200万枚を超えるというミッションをクリアするために、あえてそれまでとは違うアプローチでチャレンジしてきたところは実にユーミンらしい。一過性のブームではないんだぞ、という自信の表れでもある。ジャケ写のユーミンもさらに高い目標を目指しているように見える。

女性キャスターが主人公のオープニングナンバー「Miss Broadcast」


オープニングナンバーの「Miss Broadcast」は女性キャスターが主人公。当時は報道番組がだんだんとショーアップされ、女子アナの活躍も目立ってきたころで、とてもタイムリーな曲だった。「世界は今点滅してる」「この世に真実はないの けれども幻じゃないの」といったフレーズは、あちこちで戦争が起きている現在においても刺さる。

2曲目はカルロス・トシキ&オメガトライブに提供した「時はかげろう」。アルバムと同名のツアーではオープニングで歌われた。「もっと強くなって君を愛しにゆくよ」というフレーズから、果てしなく大きな愛を感じる。カルロスバージョンも良いが、ユーミンのバージョンはそれよりもさらに重くズッシリと胸に響いてくる。

3曲目「Aはここにある」はホーンセクションを効果的に活かした軽快なナンバー。これまでに「オールマイティー」(REINCARNATION 収録)「結婚ルーレット」(VOYAGER 収録)など、恋の駆け引きを歌った曲があるが、この曲は「おりるかあがるか さあふたつにひとつ」と言ってゲームの途中で急に抱きついたりして、かなり強引に相手を攻めている情景がブラスサウンドの力強さとマッチしていて面白い。

4曲目はアルバムのリード曲として、プロモーションでガンガン流れていた「満月のフォーチュン」。三菱自動車「ミラージュ」のCMソングでもあった。エスニック風なアレンジからかライブで披露されることも多く、ダンサーを従えた派手な演出に注目しがちだが、友達の関係から恋に落ちるその瞬間をドラマティックに表現している胸キュン曲でもある。 

5曲目「Glory Birdland」は、昔愛し合った二人が現代で再び出逢うというファンタジックなナンバー。「この次死んでもいつしかあなたを見つける」と歌った「REINCARNATION」の90年代版ともいえる。個人的にアルバムのキャッチコピー「永遠をお探しですか」に一番沿った曲かなと思う。サウンドは極上のAOR。間奏のピアノソロが最高に心地よい。

バブルが終わりを迎えても希望を捨てないで行こうというメッセージ


6曲目「ホタルと流れ星」は別れてしまう2人の情景を、ホタルと流れ星という儚いものに例えて、とても叙情的に表現している曲。出だしからメジャーセブンスのコードが続くからか、全体的に浮遊感を醸し出していて、悲しい曲のはずなのに何故かほっこりとしてしまう。

7曲目「Man In the Moon」は譜割りがなかなかに難解な16ビートのナンバー。当時ラジオで「この曲は久保田(利伸)を連れてきたかった」と言っていた記憶がある。バブル期にブイブイいわせていた、関西弁で言う「イキってる」(調子に乗ってる)メンズが、日常の充足感の合間にふと虚無感に襲われて素に戻る… それでも前を向いて進んでいこうとする姿は、バブルが終わりを迎えても希望を捨てないで行こう、という当時の世間に対するメッセージにも思えた。

8曲目は麗美に提供した「残暑」のセルフカバー。アルバムリリース前の1987年の逗子マリーナのコンサートでも麗美と同じキーで披露されているが、それよりもキーを下げていて、落ち着いた仕上がりになっている。ゆったりとした16ビートに東洋的なエッセンスが加わったアレンジがとても印象的だ。

9曲目、タイトルチューンの「天国のドア」は軽快な8ビートのロック。歌詞ではジェットコースターに乗っているときの高揚感を歌っているが、全体を読むとこれはまさにセックスのことでは? という解釈もあったようだ。ちなみにご本人曰く「それも含めたエクスタシー」。

アルバムの締めくくりは「SAVE OUR SHIP」。旧ソ連の宇宙船「ソユーズ」の打ち上げをユーミンが取材したテレビ番組「ロシアの風・宇宙の風・ユーミン」のテーマソング。

「ソユーズ」はTBSの秋山特派員が乗ったことで当時話題になった。その取材後に書かれたということもあり、果てしなく広がる宇宙を感じさせるスケールの大きな曲に仕上がっている。別れることがあったとしても魂はずっと繋がっている…「ANNIVERSARY」や「Autumn Park」アルバム『ALARM a la mode』収録のように死生観に向き合った曲でもある。ご本人曰く、荒井由実時代に書かれた「空と海の輝きに向けて」とも繋がる作品だとも。

日本ゴールドディスク大賞で特別賞と、ベスト5アルバムを受賞





こうして10曲を振り返ってみると、それぞれにクオリティーの高い楽曲だということがわかる。しかし、アルバムが爆発的に売れたにもかかわらず、ユーミン自身がバブルの象徴と世間に捉えられていたこともあり、バブル崩壊以降のバッシングは本当に酷かった。「もうユーミンは終わった」というような週刊誌の記事も多く見られた。そんなイメージが結びついてしまったこともあり、このアルバムについて語られることがあまりないのかもしれない。

ところで、ユーミンは今年の『第37回日本ゴールドディスク大賞』でアーティストとして特別賞を受賞。また『ユーミン万歳!〜松任谷由実50周年記念ベストアルバム〜』で、ベスト5アルバム賞(邦楽部門)を受賞している。32年後も第一線で活躍している姿を想像していた人は果たしてどれだけいるのだろう。

2022年にはデビュー50周年を迎え、話題になることも多いユーミンだが、メディアで取り上げられる楽曲のほとんどは70年代から80年代の作品、もしくは90年代にヒットしたシングル曲だ。確かにそれらは全て名曲ではあるが、今一度90年代の作品にも光を当ててほしい。「やさしさに包まれたなら」や「守ってあげたい」「春よ、来い」もいい。しかし、90年代のアルバム曲も丁寧に聴いてみていただきたい。練り込まれた歌詞とサウンドに向き合うことできっと新鮮に聴こえるはずだ。

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2023.11.23
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カタリベ
1966年生まれ
綾小路ししゃも
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