12月1日

ユニコーンのミニアルバム「おどる亀ヤプシ / ハヴァナイスデー」全曲解説

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photo:SonyMusic  
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2019年の2枚のフルアルバムとともに必聴!ユニコーン1990年のミニアルバム「おどる亀ヤプシ」と「ハヴァナイスデー」


2019年。再始動から10年を経てもなお創作意欲旺盛なユニコーンは、意表をつき年間2作のフルアルバムを発表した。

先行の『UC100V』(3月発売)は、円やかなリズム隊と要所で尖る上モノが合わさった終始ユニコーンらしい仕上がり。一方『UC100W』(10月発売)は、70~80年代ディメイクを含むエレクトロサウンドが顕著で、ニューウェイヴの残り香をまとっていた結成当初の彼らに通じる側面もある仕上がり。要するに “直球” と “変化球” の2作だった。

この連作からファンが思い出すのは1990年、フルアルバム『ケダモノの嵐』(10月発売)の後にほどなく続いた対照的な作風のミニアルバム、“変化球”の『おどる亀ヤプシ』(11月発売)と“直球”の『ハヴァナイスデー』(12月発売)である。

ミニアルバムという形態は得てしてマニアックな印象で、ビギナーにとっては身銭を切りにくいもの。まだ聴いたことがない方々、あるいは聴かなくなって久しい方々へ向けて、僭越ながら各6曲の私見をまとめさせていただいた。今年の2作とともにお薦めしたい。

メンバーは、ドラムスの川西幸一、ギターの手島いさむ、メインボーカルの奥田民生、ベースの EBI(堀内一史)、キーボードの ABEDON(阿部義晴)。現在もこの5人だ。


ファニーなジャケットと多彩なゲスト、グルーヴが魅力の「おどる亀ヤプシ」


『おどる亀ヤプシ』全曲解説
幼気なジャケットの通り、トータルコンセプトは “子供向け”。当時の彼らとは縁遠い年齢層からも人気を得るにはどんな音楽が良いか? という課題に各自応じた大喜利のような内容だ。大半の編曲・演奏をゲストが務め5人はろくに揃わないが、非ロック圏の楽器や一聴して頼りない打ち込みが耐久性抜群のグルーヴへと変貌してゆき、ヤッツケ仕事でなかったことは聴くにつれ理解できる。

1. 初恋
■ 作詞・作曲:EBI
■ 編曲:ユニコーン
ボーカルは EBI。アフリカ~インドネシア方面の民族音楽をざっくり踏襲した曲調で、有機音と無機音が融合したトラックはデモかと思うほど余白が広い。80年代後期のプリンスとの親和性で語れなくもない趣向だが、一方で歌の中身が “おやつも抜いた” などと吐露する珍妙な恋心であるため、真剣に聴かなくていいとの忠告が7分に及ぶ演奏の開始1分程で脳裏に届く。ちなみに、EBI は今も何故か「初恋」からさほど時を経ていないような声質のままだ。

2. ママと寝る人
■ 作詞・作曲:ABEDON
■ 編曲:長谷川智樹
ボーカルは阿部。ドラマ『探偵物語』他多数の番組主題曲でトランペットを吹いてきた数原晋が引率する短調のスウィングジャズだが、何より印象強いのは過剰なまでに表情がある歌いっぷり。再結成以後はなかなか表出しなくなったコメディリリーフとしての阿部の矜恃が詰まっている。一見いかがわしい曲名は、悪酔い・いびき・ゴルフ等を理由に幼い息子から突きはなされた哀れな父親像の意味合いだ。

3. 12才
■ 作詞・作曲:手島いさむ
■ 編曲:矢野誠
ボーカルは民生。今では等身大のオッサンソングが板についた手島だが、元々は本曲のように内省的な青少年目線が持ち味だった。親の期待を背負い日々学業に励む12才の物語。「♪ かすんで揺れるテキストに 蛍光灯の虫の影」等々、彼の詞才が冴え渡っている。一方で大正レトロ+ヴォードヴィルにブライアン・メイ風のギターソロと、矢野誠による編曲も殊に緻密だ。強引に高音域で歌う民生の声が12才の苦しみと重なる。

4. ボサノバ父さん
■ 作詞・作曲:奥田民生
■ 編曲:ユニコーン
ボーカルは民生。EBIの「初恋」と同様、有機音と無機音が融合したミニマルなトラックが心地良い似非エキゾチカ。年頃の娘が母親とだけ共有している恋愛事情を密かに察する父親の、余裕とも強がりともとれる心境を言葉少なに歌っており、トータルコンセプト=“子供向け” から微妙にハミ出している(素直にルールを守る男ではない)。「♪ 何度か迎えに来たよな あいつのことだろ」だけで物語を広く映すところは、当時20代だったとは思えない名人芸だ。

5. PTA
■ 作詞:奥田民生, ABEDON
■ 作曲:奥田民生, ABEDON, 小西康陽
■ 編曲:小西康陽
トラック制作に小西康陽が参加したテクノポップ。民生が歌うパートは(PTA でなくて)TMN、阿部が歌うパートは光GENJI のパロディと思しき曲調で、それらを “子供向け” として抱き合わせた創意からは当時の音楽市場へのシニカルな視線も感じられる。ちなみに再始動初年のステージでは、柄にもなくB系ファッションで登場する川西&EBI のラップパートを追加。つまりシニカルな視線の数を増やしていた。

6. 俺の走り
■ 作詞・作曲:ABEDON
■ 編曲:仙波清彦
ボーカルは阿部。一輪車で颯爽と帰宅してしまう少女に恋し日々追走する少年の様子を、まるでカンフー映画のサントラのような曲調にのせた軽歌劇である。名物ディレクターのマイケル河合と同じくTHE SQUARE(現:T-SQUARE)に在籍していた仙波清彦が参加。様々な東洋楽器が鳴る中、小川美潮のコーラスがオリエンタルムードを決定づけている。

終わってみれば、6曲中2.5曲が阿部作品。やがて最年長の川西に代わってバンドリーダーとなる阿部の飛躍を記録したミニアルバムでもあるのだ。


ユニコーン初の海外録音で魅せたストレートなロックンロール「ハヴァナイスデー」


『ハヴァナイスデー』全曲解説
トータルコンセプトは “ストレートなロックンロール”。多忙を極めながらも強行したユニコーン初の海外録音で、ニューヨークならではの音響環境やジョー・ブレイニー(後に奥田民生のソロにも深く関わるエンジニア)の手腕により一音一音粒立ちが強調された5人のバンドアンサンブルが聴ける。『おどる亀ヤプシ』では全然出番がなかった川西幸一が憂さ晴らしのように叩くドラムスが白眉だ。

1. ハヴァナイスデー
■ 作詞・作曲:奥田民生
ボーカルは民生。旧態然としていて滑稽なロックスターを演じるツアーソングで、彼らの自虐が透けてみえる点も含めて同年先行した「スターな男」(90年)の姉妹作といえる。宇崎竜童を経由したと思しき “プレスリー唱法” はもともと阿部の宝刀だったが、本曲では民生がそっくりにマネている(再結成以後は EBI もマネることに)。川西のドッシリとしたアタックの隙間をゆく手島のリズムギターが小気味好い。

2. 魚の脳を持つ男
■ 作詞・作曲:奥田民生
バンドマンならば一度は試みたくなるのが「ホンキー・トンク・ウィメン」(69年)や「ダイスをころがせ」(72年)に代表されるローリング・ストーンズ流のルーズなロックンロール。ユニコーンの場合は渡米がその機会となった。歌詞はルーズからの連想だろうか、物覚えの悪い男が道端で遭遇した “確かに見た顔” の相手に対して調子のいい挨拶を済ませるというもの。アウトロだけ軽快なブギに切り替わる。

3. 鼻から牛乳
■ 作詞・作曲:EBI
ボーカルは民生。イントロから不気味に湾曲するベースリフで瞬時に世界が出来あがるニューウェイヴ仕立てのファンク。“鼻” も “牛乳” も無関係。ただし一方通行の愛を囁くストーカーソングであることを踏まえれば、野卑な曲名は1人称の男性像と合致しているとも思える(嘉門達夫の同名曲よりも発表が約2年早かった)。EBI に限り “ストレートなロックンロール” は本領ではないのだ。

4. レベル
■ 作詞・作曲:川西幸一
ボーカルは民生。拳銃を発砲するようにスネアが鳴り続くミドルテンポのハードロックで、“白髪混りの早起きロッカー” が奮い立つ様子を歌う。本曲や民生の「服部」(89年)、EBIの「黒い炎」(91年)等々、若くして書いた生命力みなぎる中年の歌は、50~60代のユニコーンが今再び黄金期を迎えていることですべて伏線の扱いとなった。ただし、彼らが早起きかどうかは定かでない。

5. $2000ならOKよ
■ 作詞・作曲:ABEDON
ボーカルは阿部。ニューヨーク発ならドゥーワップも演らなきゃと思ったのか、レイヴンズ「カウント・エヴリ・スター」(50年)を彷彿とさせるバラッドである。全編アカペラで、阿部は女性コーラス隊に混じりベースパートも兼任。不自然に節を下降させたり、声が詰まった箇所をそのままにしたりと端から正攻法は諦めていたようだが、トボけた歌詞との相性からするとコレが正解だ。

6. 東京ブギウギ
■ 作詞:鈴木勝
■ 作曲:服部良一
本盤の締めくくりは、渡米の反動で芽生えたジャポニスムが知れるユニコーン初のカバートラック(オリジナルは47年の笠置シヅ子)。阿部が水遊びのような鍵盤さばきでハジけるアンサンブルを先導し、民生が余裕綽々で歌いあげる。

ひいては、次作『ヒゲとボイン』(91年)では現代日本の市井がより細かく描かれ、その次の『SPRINGMAN』(93年)では日本のロックバンドにとって永遠の命題である “欧米コンプレックス” が実質のトータルコンセプトとなった。『ハヴァナイスデー』が彼ら自身にもたらしたものは大きい。

2019.12.01
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カタリベ
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