昨年の12月、神保町シアターで『私をスキーに連れてって』のリバイバル上映を観に行った。
狭い映画館は上映が始まる時間になると、続々と人が入ってきて、あっという間にいっぱいになった。若い人もいれば、バブル世代真っ只中であろう人もいる。老夫婦もいれば、バブルの面影など全くない真面目そうなおじさんが一人で座っていたりする。
様々な世代の人々が詰め込まれた映画館に立ち込める空気からは、異なるものが混じり合いつつも、それでいてどこかあたたかな一体感を感じる。これから時間も空間も超えて、80年代のスキーにみんなで出かけるのだ。わくわくすることこの上ない。生まれる前の音楽と生まれる前のスキーブーム。映画館でお目にかかれる日が来るなんて、思ってもみなかった。
オープニングで原田知世が乗り込んだスキー場へ向かうバスのように、私達は、映画館の座席に乗り込んだ。向かうは志賀高原である。
三上博史が車の上に板を積み、運転席につく。キーを回すとエンジンがかかり、メーターが動く。カーステレオにカセットテープを飲み込ませれば、松任谷由実「サーフ天国、スキー天国」が流れ出す。
買い出しを済ませ、荷物を積んでいるのは六本木の明治屋だ。高校時代、何度も通った道に、衝撃を受ける。30年もの時を経て繋がる自分と映画の共通点に嬉しさが込み上げた。
白い雪の舞うロッジの中には薪ストーブにクリスマスツリー、そこに集う男女のグループ。思えば、2018年の女子大生はそんなものには縁がなかった。ロッジでクリスマスを待つ前に今年も22の冬を迎えようとしている。「オンナ26、いろいろあるわ」という作中でのセリフがあるけれど、あと4年で私もそこまでいけるだろうか。
映画館で観るスキーシーンは贅沢だ。斜面を下り、木の間を抜けて、雪のしぶきが上がる。まるで自分がスキーをしているような気持ちになる。「恋人がサンタクロース」をバックに、ジャンプをしたり、股の下をくぐったり、最近ではそれほどお目にかかれないようなスキーの技が次々と登場する。あぁ、これは映画というより98分の壮大なスキー PV なのだなということを思い知らされる。
バブルの映画とは思えないほど、意外と奥手な主人公とヒロイン。それを盛り上げる幼馴染が、この映画のエッセンスだ。
2人の恋の背中を押す女友達、真理子とヒロコが最高にカッコイイ。セーターは半年、ケーキは火傷だらけ、そんな青春時代の思い出を秘めながら、笑って不器用な男の恋の世話まで焼いてしまう最高にイカした女なのだ。なんだかんだ最後の発表会にも先に間に合うのは彼女たちだしね。真理子とヒロコの2人こそ、『私スキ』のバブル的醍醐味かもしれない。
「志賀万座2時間半、結構楽しめそうじゃない?」
「凍ってるね」
この場面はつい、ドキッとしてしまう。
『私スキ』はセリフがいちいち頭に残る。今の時代から見れば、ちょっとトレンディすぎるんだけど、それがまたいい。おしゃれで、詩的で、ロマンティックなのだ。
映画を象徴する「バーン」をはじめ、「とりあえず」や「内足を持ち上げて引きつける癖」が繰り返し登場する。そうした映画内でのキーワードがある種コピー的な要素を果たしていたのかもしれない。なんたってこれは、壮大な歴史に残るスキー PV なのだから。
志賀万座は車で5時間。直線なら2時間。私はこのモチーフが優(原田知世)と文男(三上博史)の関係を象徴しているように思えてならない。直接行けば2時間の心の距離なのに、5時間も遠回りしてしまう。恋愛とはそんなものなのかもしれない。
5時間かけて振られに行ってもと思いつつも、車を走らせてしまうとか、そしたらちょうど彼女も車を走らせに来るとか。遠いようで近くて、近いようで遠い、そんなもどかしい男女の関係を志賀万座ルートは描き出しているように思える。
スキー場で紙とペンで電話番号を聞く。撮った写真を見るために集まる。コテージを借りて、みんなでスキーをする。そういう30年前の世界観が、今の時代を生きる私にとってはひどく眩しく思える。
真っ白なウェアに身を包んだ母のスキーの写真を眺めながら、私はこれから2018年の冬を迎える。
2018.11.21
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