5月21日

リリース40周年!松田聖子のみずみずしい声が堪能できるアルバム「パイナップル」

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もはや天性!キュートな声は松田聖子にしか出せない


1982年5月、私は高校1年生だった。進学祝いでドルビーシステム搭載のコンポを買ってもらったとき、販売店がサービスで最新のLPレコードを何枚か無料でつけてくれた。その中にあった1枚が、この『Pineapple』。松田聖子、通算5枚目のアルバムだ。

82年の時点で、聖子はすでに新曲を出せば必ずオリコン1位を獲得するトップアイドルだった。しかし私は、この年にデビューした中森明菜・小泉今日子はじめ新人アイドルのほうが気になり、聖子についてはシングル曲を聴いているぐらい。正直、関心は薄れ気味だった。

とはいえ、顔アップのこのジャケットにはドキッとしたのを覚えている。顔にも髪にも水滴が。シャワーを浴びたのか、プールから上がったところなのか、それとも悪戯好きな彼氏に水を掛けられたのか…… どういうシチュエーションなのかわからないが、微笑む聖子。このときはまだあった八重歯もチャーミングだ。

さらに帯には「シュロの香り、南風、いま、ココナツ色の気分…聖子」とある。なんなんだ、「ココナツ色の気分」って!? そういえば、タイトルの「Pinapple」も何やら意味深である。

こりゃもう聴くしかない。新品のコンポのアンプにヘッドフォンを挿し、さっそくレコードに針を落としてみた。A面1曲目は、松本隆作詞・来生たかお作曲の「P・R・E・S・E・N・T」。編曲・大村雅朗の手によるいかにも涼しげなサウンドに乗って聖子が歌い始めると、いきなりガツーンと来た。「……か、かわええ!」

当時「ぶりっ子」だなんだと言われていたが、計算で可愛く歌おうとしたって、あんなキュートな声は出せない。これはもう天性のもので、歌声が絶妙に “潤って” いるのだ。2曲目以降は、そのコケティッシュな声にもう夢中。楽曲どうこうよりも、聖子の声に浸りたかった。

松田聖子の声の魅力を存分に発揮させたアルバム「Pineapple」


A・B面通じて約50分。軽快なロック調の曲は声を弾ませて歌い、バラードは聴かせるが、どれも聴かせどころで“潤う”のだ。最後まで聴き終えた私は、黙って盤をまたA面に戻し、B面ラストの「SUNSET BEACH」までもう1周聴いた。聖子の “声の魔術” に完全にヤラれてしまった高1の私は、シングル曲の聖子しか知らなかった自分を恥じた。

前作の第4弾アルバム『風立ちぬ』は、大村雅朗編曲の「白いパラソル」を除き、全曲のアレンジを大瀧詠一(“多羅尾伴内” 名義)と鈴木茂が手掛け、作詞はすべて松本隆が担当。財津和夫、杉真理も作曲陣に名を連ねてはいるが、全体的に “はっぴいえんど” 色が強い作品である。

一方、この『Pineapple』は、全10曲の作詞を松本が担当しているところは前作と変わらないが、作曲・編曲の顔ぶれがよりバラエティ豊かになっている。作曲者を順に列挙すると、来生たかお、原田真二、財津和夫、呉田軽穂(=松任谷由実)。アレンジャーは、大村雅朗、船山基紀、瀬尾一三、松任谷正隆、新川博。錚々たる顔ぶれだ。

当時クレジットを見て「え、原田真二も書いてんの!?」と驚いた覚えがある。「パイナップル・アイランド」「ピンクのスクーター」の2曲で、ファンの人気が高い曲だ。大村雅朗が、原田の先鋭的な曲をさらにブラッシュアップ。それを自分の中で瞬時に消化して、完璧に歌いこなしてしまう聖子。

これだけの名手たちが顔を揃えたのもすごいことだが、聖子の声の魅力を存分に発揮させてあげよう、というスタッフの “親心” も感じる布陣だ。このメンバーを揃えたのが、CBSソニーの元プロデューサーで、聖子を発掘した恩人・若松宗雄氏である。

プロデューサー若松宗雄が語る “松田聖子の声の魅力”


私は一昨年、ラジオの仕事で、若松氏に“聖子の声の魅力”についてインタビューする機会に恵まれた。聖子はCBSソニーと集英社が共同で実施した次世代アイドルのオーディションに応募。福岡大会で優勝したにもかかわらず、父親の猛反対にあって、全国大会出場を辞退した。

全国大会にピンと来る才能がいなかったため、地方大会の録音テープをもう一度すべて聴き直した若松氏。聖子の声に衝撃を受け、「この声を埋もれさせてはいけない」と顔写真も見ずに即、久留米に飛んだという。そこまでさせる力が聖子の歌声にはあったのだ。

デビュー当時の聖子の歌声は、「青い珊瑚礁」に顕著だが、天に突き抜けるようなハイトーンが魅力だった。しかし売れたがために、その声はハードスケジュールによってだんだん蝕まれていった。喉に不調を来たした聖子は「毎日泣いてましたよ」(若松氏)。

ハイトーンが思うように出せなくなっても、聖子の声にはフレッシュな “みずみずしさ” がある。「それを引き出せれば、聖子らしさは失われない、と思ったんです」と言う若松氏。表現力勝負に舵を切ったわけだ。ちょうどその時期に作詞家・松本隆と出逢ったのは、聖子にとっても幸運だった。若松氏は言う。

「聖子は文学的な表現や、音楽的に高度な部分をパッと直感で理解して、自分のものにする天才でした。私は曲を整えることよりも、聖子が本能で歌っている部分を立てようと、いつもそれを第一に考えていた…… だから聴く人に伝わるし、ヒットしたんです」

表現力に磨きをかけ、歌手としての “芯” を完成


若松氏によると、曲ができ上がっていても、聖子に歌詞と譜面を渡すのはあえてレコーディング直前にしていたという。事前にあれこれ考えてレコーディングに臨むと、大事な “本能の部分” が消えてしまうからだ。

また聖子は、どんな曲でも軽く打ち合わせるだけで「あ、わかりました」とその曲のキモの部分を瞬時に把握し、自分流に歌いこなしてみせた。しかもスタッフが期待する以上の水準で。

前作「風立ちぬ」でも、大瀧詠一の高度な要求に応えるどころか、それ以上のパフォーマンスを見せ、御大に舌を巻かせた聖子。

若松氏が本作にこれだけのメンバーを集めたのは、「どんなピッチャーが、どこにどんなボールを投げようが、聖子は確実にホームランが打てる」と確信したからだ。そして聖子は見事、全球スタンドに叩き込んでみせた。高1の私がKOされたのも当然である。

みずみずしく甘い果実だが、ちょっと甘酸っぱくもあり、しっかり芯のあるパイナップル。聖子はこのアルバムによって表現力に磨きをかけ、歌手としての “芯” を完成させたと思う。

ユーミン作曲によるヒット曲「赤いスイートピー」と「渚のバルコニー」も収録されているが、本アルバムはどの曲も両曲に負けない力作ぞろいだ。

私がかつてそうしたように、ぜひ1曲目から曲順どおりに聴いて、聖子の “みずみずしさ” を堪能してほしい。このアルバムに出逢えただけでも、わが高1の夏は実に有意義な夏だった。

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2022.05.21
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カタリベ
1967年生まれ
チャッピー加藤
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