小泉今日子が歌ったサマーソング「常夏娘」
デビュー3年目、14枚目のシングル。前作「The Stardust Memory」を聴いて、“次の夏うたは、そろそろ哀愁を帯びた大人路線へシフトしてきそうだな” なんて勝手に予想していたものだから、“ここへ来てまだこんなギンギンなサマーソングを歌うのか!” と、当時は少々意外に思った憶えがある。
当時、新曲「常夏娘」のタイトルを聞いて真っ先に思ったのは、それよりちょうど一年前に出されてヒットした、石川優子とチャゲの「ふたりの愛ランド」だった。やはり振り切った夏うたで、もともとはココナッツだったという歌詞に出てくる “ココ夏” が “常夏” を連想させるものだったから。「常夏娘」にも、南の島のシンボル的なココナッツのダブルミーニングが込められているのだろう、 と受けとめたのだ。なにより、抜けるような青空を想起させる小泉の夏全開な歌いっぷりが堪らなく快活で気持ちがいい。
緑一二三×幸耕平が放つアイドルポップ、アレンジは矢野立美
作詞の緑一二三は、作詞家・作曲家たきのえいじの別名で、小泉のデビュー曲となった「私の16才」(原曲:ねえ・ねえ・ねえ)の作曲者でもあった。緑名義では、4thシングル「春風の誘惑」も手がけている。主に演歌系の作品が多い中で、西城秀樹や麻丘めぐみ、レイジーらポップス系シンガーへの提供作品も少なくない。
そして作曲の幸耕平は、最近では純烈の一連の楽曲など、やはり演歌系の作品がメインの作曲家ながら、石野真子「ジュリーがライバル」や、川島なお美「シャンペンNo.5」といった作品もある。実はロックバンドのトランザムのメンバーだったという経歴の持ち主。
作詞・作曲ともにアイドル界では決してメインストリートではない陣営による、王道のアイドルポップというところが興味深い。もちろんそこには、洋楽の影響色濃いアイドルの楽曲を多数手がけていた矢野立美の手慣れたアレンジが反映されていることも大きいだろう。小泉のシングルでは「素敵なラブリーボーイ」以来のアレンジ起用。エンディングのビーチボーイズ風のアレンジが、楽曲のオールディーズ感を強くしている。
「渚のはいから人魚」のアンサーソング? 男性目線の歌詞に着目
そういえば、珍しく男性目線の歌詞だったことにも着目したい。小泉にしてみれば、これが初めてだったのではないだろうか。
そういう意味では、かなり強引かもしれないが、前年の夏うた「渚のはいから人魚」のアンサーソングと見ることも出来そう。詞の構造や曲の高揚感は田原俊彦「キミに決定!」の世界観に実によく似ていて、姉妹曲といってもよいのでは? それはもっと強引か…。
ちなみに翌年の同時期に出された夏に向けての曲は「100%男女交際」だった。その間にはアンチテーゼともいうべき「なんてったってアイドル」も放たれている。
昭和もそろそろ終わりに近づいていた中、ステレオタイプの夏の風景が活写されている「常夏娘」を歌った1985年の夏が、純アイドルとしての小泉今日子の最後の夏だったのだ。
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2022.02.28