アルバムを何枚も出して、人気も安定しているバンドが本来のバンド活動を一時的に休止してメンバーのソロプロジェクトやサイドプロジェクトを始動したりすることは珍しくありません。80年代ならデュラン・デュランのメンバーによるパワー・ステーション、アーケイディアやフィル・コリンズのソロ活動時にマイク&ザ・メカニックスがそれに負けないヒットを飛ばしていたことも思い出します。
メンバーはそのままなのにバンド名を変えて覆面プロジェクト的に作品をリリースする場合もあります。それはカヴァー企画やクリスマスシングルをリリースする際だったりします。
しかし、ここに紹介するXTCの変名バンドはとてつもなく気合の入ったものになりました。その名は、ザ・デュークス・オブ・ストラトスフィア(The Dukes Of Stratosphear)。訳すと「成層圏の公爵たち」とでもいいましょうか。
85年に突如6曲入りEP『25 オクロック(25 O'clock)』を発表、当初どこまでXTCという正体を隠そうとしていたかは不明ですが、音を聴けばバレバレであることは定かでした。ただモロに60年代末頃のサイケデリックロックに影響を受けたというか、それを再構築したサウンドは、XTCの作品として発表するには無理があるというもの。
メンバーやプロデューサーの名前も架空の名前で表記されました。ちなみにアンディ・パートリッジは、サー・ジョン・ジョンズ。コリン・ムールディングは、レッド・カーテン。プロデューサーのジョン・レッキーは、スワミ・アーナンド・ナガラなどなど(笑)。
ファンや評論家にも予想以上に受け入れられ、XTCとしてのアルバム『スカイラーキング』を挟んだ後、87年にザ・デュークス・オブ・ストラトスフィアとしてフルアルバム『Pソニック・Pサンスポット(Psonic Psunspot)』を発表します。内容は『25 オクロック』をさらにポップに深化させたもので決して “お遊び” とか “企画モノ” とは言わせない、とてつもなく完成度の高い作品になりました。
ただやっぱり本家XTCと違うのは、ネタ元が割とはっきりしているということ。メンバーがいくつか明かしてもいます。
ビートルズやビーチ・ボーイズ、初期ピンク・フロイドやバーズ、ホリーズといったメジャーどころからエレクトリック・プルーンズやブルー・チアー、カウント・ファイヴ、ムーヴなどマニアックなものまで攻めまくってます。それでいてオリジナリティとアルバムの整合性がしっかりしているところはさすがです。
さらに『25 オクロック』収録の「ザ・モール・フロム・ザ・ミニストリー」のミュージックビデオはビートルズのTV映画『マジカル・ミステリー・ツアー』のオマージュともいえる内容。雰囲気満点のジャケットもすべてアンディ・パートリッジが手掛け、抜かりはありません。
自分たちの趣味をまる出しにしたと言えばそれまでかもしれませんが、このザ・デュークス・オブ・ストラトスフィアの作品には、パロディとか課外活動といったものを超越した一流ミュージシャンの意地みたいなものを感じずにはいられません。
XTCよりこっちのほうが好きという人もいるくらいですから、XTCとしてはこのリリース程度でとどめたのは正解だったかもしれません。
しかし今、アンディさんは「XTCとしての活動はこの先あり得ない」とまで公言しているので、「ここらでまたザ・デュークス・オブ・ストラトスフィアを」と提言させていただきたい所存です。
2017.09.20
YouTube / Nick Kennerley
YouTube / egidio sabbadini
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