NHK 教育の TV 番組『趣味講座 ベストサウンド』は、1985年の4~9月にかけて、毎週水曜19時30分から20時まで全26回が放送された。 司会がプログレの貴公子こと若き難波弘之で、アシスタントは中村あゆみ。彼女は「翼の折れたエンジェル」をリリースする直前に登場した。今思うとものすごく脈略のない組み合わせだ。 ざっくり言うと、難波弘之と中村あゆみがゲストとともに「ロックとはなんぞや」「バンドとはなんぞや」といったテーマを全国老若男女の NHK 視聴者に実演を交えながら丁寧に教えてくれる、という番組だった。子どもが見てもまったく問題視されない公共放送によるこのロックバンド養成番組は、直後にやってくる80年代後半のバンドブームの影の立役者であったと僕は思う。いかにも NHK 教育らしくテキスト本まで出版されていた。 さて、「オレたちは囲碁や俳句の趣味講座とは違うんだぜ、ベイビー」と言わんばかりに、第1回目のゲストはいきなりのラウドネスである。初回からハードに趣味講座を展開する NHK、いいぞ! その後、尾崎亜美や世良公則らをはさみつつ、第6回にギタリスト山本恭司(VOWWOW)、第7、8、9回は連続でVOWWOW、第12回にアースシェイカー、第14回は44マグナムの登場だ。NHK、かたより過ぎ! 素晴らしき哉、ジャパニーズメタル偏愛趣味講座である。 回を追って出てくる ARB やシーナ&ザ・ロケッツの起用もたいへん嬉しいのだが、“趣味講座” を謳っているだけに、少々笑いがこみ上げる。なぜなら彼らの身上は、趣味とは対極にある常時本気モードのロック魂だったからだ。 終盤の第24回のゲストには、ビートルズやローリング・ストーンズのいくつもの名曲で鍵盤を弾いている知る人ぞ知るセッションキーボード奏者、ビリー・プレストン。NHK、玄人好み過ぎる! そして難波弘之、恐るべし。 ちなみに、ビリー・プレストンの前に出演したゲストがジャズトランペッターの日野皓正、すぐ後の第25回が福岡ユタカのニューウェイヴバンド PINK という並びの支離滅裂的なギャップもすごい。ある意味、こういうミスマッチ感も音楽の楽しみの一つなんだよと教えてくれているようだ。 この85年の初代司会者・難波弘之編に続き、『趣味講座 ベストサウンド』は89年まで合計4シリーズが放送された。2代目司会者は井上鑑(アシスタント:和田加奈子)、3代目が村田和人(斉藤さおり)、4代目には松岡直也(谷村有美)だ。 NHK、人選が手堅い。そしてシリーズを重ねても、たとえばテーマ「楽しくなければバンドじゃない」のゲストにパール兄弟をもってくるあたり、シビれます。このノリのまま、すぐにでも再開してほしい趣味講座である。
2018.07.23
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YouTube / こいけまい
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