「ステージフライト」っていう言葉をご存知でしょうか? 簡単にいえば、あがり症からくる舞台恐怖症のようなものらしいです。これをそのまま曲にしたザ・バンドの「ステージフライト」(70年発表の同名アルバムに収録)は有名です。私もここから知りました。
実際にステージフライトのミュージシャンはけっこういるみたいでポール・マッカートニーやアデルも一時期その症状に悩まされたこともあったようです。そしてその症状によって一切のライヴ活動を断ってしまったミュージシャンがいます。XTCのアンディ・パートリッジです。
アンディの場合、単なるあがり症だけが理由ではないかも知れませんが、80年頃からぱったりライヴ活動を行うことをやめてしまいました。これが実にもったいない。XTCはそれまでも高クオリティのアルバムをリリースしてきましたが、その更に上をいく素晴らしいアルバムを80年以降、次々に発表しているのです。
『ブラック・シー』(80年)、『イングリッシュ・セツルメント』(82年)、『スカイラーキング』(86年)、『オレンジズ・アンド・レモンズ』(89年)などファンの間でも意見が分かれる、それぞれ違った味わいと完成度の高さを誇る名盤揃い。スティーヴ・リリーホワイト、ヒュー・パジャムが大活躍の『ブラック・シー』、『イングリッシュ・セツルメント』はロック録音史においても革命的な作品です。しかしながら私がいちばん好きなアルバムはプロデューサーともめた『スカイラーキング』。
そのプロデューサーとはトッド・ラングレンです。ミュージシャンとしても天才同士のぶつかり合いですね。
どちらも我の強いアーティストなので意見が相違してしまうとお互い引かないだろうな、というこちらの予想どおりぶつかってしまったようです。無事リリースされたのが奇跡かもしれません。そんないわくつきの作品なだけにいろんな小ネタもこのアルバムにはまとわりつきます。
キャリアのなかでも相当の人気を誇る名曲「ディア・ゴッド」がシングルのB面でアルバムには未収だったり(US盤には収録、後にA面でシングルリリース)、ステレオ音の位相が正確でないものがそのままリリースされてしまったり(2014年に正確になったものがようやくリリースされました)、ジャケットが発表直前にさし替わったり(当初は女性裸身の局部アップ! これも2014年のリリースで復活)、とまさにいわくだらけです。
しかしアルバムとしてのトータルバランスは最高! 1曲ずつではなくアルバム1枚通して聴きたいストーリー性に満ちた作品です。
ひねくれポップなんて形容されるXTCですが、ここではシンプルで綺麗なメロディの曲や映画音楽のようなムード溢れる曲など思いのほかストレートなアレンジ。曲によっては全く違う表情をみせますが、計算された楽曲の連なり方は実に鮮やかです。
「ディア・ゴッド」の置き所に苦労するのもわかります。アンディはクソミソに言ってましたが、なかなかトッドもいい仕事してると思います。
この頃アンディはソングライティング能力のひとつのピークを迎えてたようで、その爆発力はこのアルバムに収まり切れませんでした。そこで画策したのが別名ユニットによるリリース。これはまた別の機会に。
そしてユーザーの立場として当然のように思うのが「こんな緻密で高水準の作品をライヴで聴けないなんて!」ということ。
あれ? この感覚ほかのバンドでもあったな。そうです。違った理由ではありますが、同じくライヴ活動をキャリア途中でやめてしまったビートルズを思い起こすのです。
『スカイラーキング』や『サージェント・ペパーズ』を当時のメンバーで大きな会場と大観衆のなかで聴きたいと思うのは私だけじゃないハズ。ライヴ盤すら存在しないなんて(するはずないんですが)酷ですねえ。
2017.09.11
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