80年代に印象的な解散劇は多々あれど、僕が幼心にも得も言えぬ寂しさを感じたものの一つに、藤子不二雄のコンビ解消がある。
別に不仲になったわけでなく、作品もなんら変わらず続く発展的解消なわけだが、(A)と F が挿入されたそれぞれのペンネームを初めて見た時には、どう表現していいかわからない名残り惜しさが子どもながらに身に沁みた。
藤本・安孫子のコンビ解消は1987年。僕は13歳だったから、『コロコロコミック』はとっくに卒業して『少年ジャンプ』読者だったけれども、ドラ・ハッ・パー(ドラえもん、忍者ハットリくん、パーマン)とともに育ってきた少年の一人だ。そして13歳だったけれども、藤子不二雄ワイドでアニメ化された『エスパー魔美』がひそかにほのかに好きだったことも付け加えておきたい。
もう一つ、13歳で好きだった藤子不二雄作品がある。ちょうどその時放送されていた NHK 夜9時40分からの20分ドラマ・銀河テレビ小説『まんが道』である。第一部が86年、第二部「青春編」が翌87年に放映された。学校の宿題をやっていようがいまいが、これだけはリアルタイムでガッツリ観ていた。そう、このドラマが好き過ぎたがゆえに、コンビ解消が余計に寂しく思えたのだった。
手塚治虫に憧れ、富山・高岡から漫画家を目指して上京してくる二人の若者の物語。つまり藤子不二雄両氏の自伝的ストーリーだ。伝説のトキワ荘でのエピソードも満載。アニメじゃなく実写ドラマで楽しむ藤子不二雄作品に、我ながら少し大人になった気分がしたものだ。
藤子不二雄両氏を演じたのは、竹本孝之と長江健次である。長江健次と言えば、とりもなおさずイモ欽トリオのフツオ。『欽ドン!』でマイ・アイドルだったフツオの今を観ることも僕にとっては楽しみではあったけれど、それより何より竹本孝之が歌う主題歌「HOLD YOUR LAST CHANCE」に心を掴まれた。
作詞・作曲は長渕剛。84年発表の彼のアルバムタイトル曲でもあるから、長渕にとってもある意味当時の代表曲の一つ、重要曲といっていい。“傷つき打ちのめされても” と始まるロックバラードだ。そのメッセージはストレートで熱い。“先ずは 君が強くなれ” と歌うあの頃の長渕の熱さには、現在の彼とはどこかニュアンスが違う鮮烈な実直さがあった。竹本はそのエッセンスを巧みにすくい上げ、長渕よりは野性味を抑制しつつ、青春テイストを前面に押し出し歌い上げていた。若者二人の上京物語とリンクし、その青さに打たれた。第二部「青春編」では2番の歌詞が歌われていたことも印象に残っている。
なお、赤塚不二夫役で松田洋治が出演しており、TBS 系ドラマ『家族ゲーム』を通じて長渕つながりだなぁと思って、当時観ていたことを覚えている。また、無名時代の森高千里がキャストに名を連ねていることもよく話題にのぼるところだ。
TVドラマは「青春編」で終わるが、原作漫画は安孫子のペンにより断続的に2013年まで43年間続き、藤本が96年に他界した際には「さらば友よ」のタイトルで回想録も描かれている(未読の方はぜひ! 泣けます)。振り返ってみれば、音楽や漫画に関わらず、「作品を作家で好きになる」ということを初めて僕に教えてくれたのが藤子不二雄だった。
2018.10.22
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