ジングルベルだけが街を浮き足立たせるわけではなく、ワム! や山下達郎からマライアまで、今や世の中にはたくさんのクリスマスソングがあふれ、その数は年々増加している。
ほとんどはお祭り気分や恋の歌で、それはそれで聴かれるべき。しかし、お祭りにも恋にも無縁だった大学1年時のクリスマスに、自分に最もフィットしたのはザ・ハウスマーティンズの「キャラヴァン・オブ・ラヴ」だった。
大学とバイト先とアパートを行ったり来たりの毎日。雑誌をめくると、「今年のクリスマスは誰と過ごす?」「レストラン、ホテルの予約はお早めに」的なネタがイヤでも飛び込んでくる。さも、それが当然であるかのように。誰とも過ごす予定はないが、でも誰かと過ごす人たちが羨ましい。でも、そういう風潮にケッ! と思ったりもする。
つまり、異性のパートナーに不自由するクリスマス不適格者の典型だったワケだ。
ザ・ハウスマーティンズはこの年の秋頃に出たデビューアルバム『ロンドン0ハル4』(86年)で、すっかりファンになった。「ハッピー・アワー」に代表される、ぜい肉をそぎ落としつつも陽気なギターサウンド。それでいて歌詞は皮肉たっぷり。“やってらんねえなあ” という空気が、当時の自分の状況とマッチした。
そんな彼らが年の瀬近くにリリースしたシングルが「キャラヴァン・オブ・ラヴ」だ。これはカバー曲で、オリジナルはアイズレー・ブラザーズから暖簾分けしたアイズレー・ジャスパー・アイズレーによるソウルナンバー。そんな予備知識もなく、大好きなハウスマーティンズの新曲だからと輸入盤屋で買ってみたら、これがギターバンドらしからぬア・カペラ曲!
うーん、どうなのよ… と戸惑いつつ何度か聴いていたら、ポール・ヒートンのソウルフルなボーカルがシミてくる。好意的になると、これはこれで悪くないし、“愛のキャラヴァンに加わろう” という歌詞は聴きようによってはクリスマスらしい讃美歌のようでもある。
気づけば、それは自分の脳裏に刻まれていて、独りで清らかに過ごすクリスマスも悪くないか… と思えてもくる。それくらいの力が、このア・カペラナンバーにはあった。今もこの曲を聴くと、当時の(かなり無駄な)精神修養がまざまざと思い出される。
実際のところ、1986年の12月24日の夜は、「独りでいるのもナンだし、ヒマなヤツ集めて飲みに行くかー」という流れで、大学の友人たちと渋谷でバカ騒ぎした。クリスマス不適格者にも、参加したくなるようなキャラヴァンは、何らかのかたちで存在するものだ。
2018.12.18
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