人生で出会った画期的なモノたち
それまでの世の中には影も形もなく、だけどその後は欠かせない、あるのが当たり前となった、つまり歴史を変えてしまったようなモノの出現に遭遇することは、実に楽しく、貴重な体験だと思っています。今年(2019年)、65歳となった私は、そういう体験に何度も恵まれた、巡り合わせのよい人生だったと感謝しています。
カラーテレビ、ビデオ、ワープロ~パソコン、CD、ウォークマン~iPod、携帯電話~スマホ、インターネット、ウォッシュレット…… ざっと数え上げてもこんなにたくさんの “画期的なモノ” に出会ってきました。
何がそんなに楽しくて貴重なのでしょうか?
そのモノによって、人生の一部が確実に変わったからです。その変化を肌で感じることがポイントで、物心ついた時には既にそのモノがあって、もしそのモノがなかったらと想像してみるだけでは、その変化の実態は絶対に解りません。
私ならたとえば、幼い頃には、テレビ(白黒)がなく、冷蔵庫が電気式ではなく氷を入れる方式だったり、洗濯機に脱水機能はなく手回しローラーで衣服の水を搾り取っていたことなど、憶えてはいますが、それで暮らしていた実感がありませんから、テレビが来たり、電気冷蔵庫になったり、脱水機つきの洗濯機になった時も、驚いたり喜んだりした記憶はありません。
アナログからデジタルへ、画期的だったCDの登場
というわけで、
前回お話した『エンタメの横顔 — 80年代の音楽シーンを大きく変えた「MTV」の衝撃と余波』… の続きで、「CD」が登場したときのお話をしますね。
世界初のCDプレイヤーはソニーの「CDP-101」で、1982年10月1日に発売されましたが、その2年後、84年11月に発売された「D-50」を、私は持っていました。こちらは世界初のポータブルCDプレイヤーで、価格も5万円を切り(CDP-101は168,000円)、ここからCDというものが俄然普及していった印象があります。
とにかくありがたかったですねぇ。アナログレコードのいろいろな弱点、…
■ ホコリやカビがつきやすくて、すぐあのパチパチ、スクラッチノイズが出てしまう。
■ 盤面はデリケートでどうかするとすぐに傷がつく。傷は大きなノイズや針飛びの原因になる。
■ 熱に弱くて、ちょっと車の中に置いていたりすると、盤面がゆがんでかけられなくなる。
■ 曲の飛ばし聴きが面倒など、操作性に難あり(オートマチック化した機種もあったけど)。
■ 大きいので持ち運びが不便。
… これらがすべて解決されたのですから。
マイナス面と言えば、“ジャケット” が小さくなって、ヴィジュアル面で寂しくなってしまったことくらいかな。まあそれも、LP の大きさに合わせてデザインしていたものには当然小さ過ぎるということなんですが、改めてCDの大きさでやっていけばいいだけの話。A面・B面という区別がなくなって曲順の “妙味” が薄れたなんて言う人もいましたが、逆につなげたかった音楽もあるはずで、これはないものねだりでしょう(今は、LP の片面の約20分というのは続けて音楽を聴くにはちょうどいい長さだなー、なんて思ったりもしますが…)。
アナログの復権? CDの権威は地に落ちたけれど…
ただ、音質がアナログに比べるとよくない、としたり顔で批判する人もいました。
たしかにCDの規格では、20キロヘルツ(正しくは22.05キロヘルツ)以上の高音はカットされています。分解能も、16ビットですので、2の16乗=65,536分の1の細かさですが、24ビットの2の24乗=16,777,216分の1に比べると全然粗いとも言えます。当時の技術とコスト的な条件からすると、それが精一杯だったのだろうと思います。
しかし、人間の耳には20キロヘルツ以上なんて聞こえないのです。15キロヘルツだってほとんど聞こえません(ビートルズの「A Day in the Life」が終わったしばらく後に入っている “モシャモシャ” の最初のノイズが15キロだそうです。私には聞こえまへん)。何といっても、無音の状態からサッと音が立ち上がる、それまでのレコードやテープでは考えられなかった抜群の SN比によって、私には充分、いい音!という印象でした。
そう、先ほど挙げたレコードの弱点、実はカセットテープならばほぼカバーできていたのですが、音質に難がありました。もし、音質がカセット程度であったなら、CDもそこまでうれしくなかっただろうし、その後の圧倒的な普及もなかっただろうと思います。
今年、米国ではアナログレコードの売上げが、33年ぶりにCDを上回るだろうと言われています。もちろん、それでもレコードはわずか全体の4%で、それだけCDが減っているということなのですが、たしかにレコードはまた徐々に増えています。そして多くの人と同様、私もここ数年、レコードのよさを再認識しているところではありますが、だからと言って、CDが登場したときの、あの喜びは忘れないし、色褪せもしないのです。
…つづく。
2019.12.18