U2の『ヨシュア・トゥリー(The Joshua Tree)』を聴くたび、目の前に荒涼とした風景が広がる。そこは「これから始まる場所」であり、どの通りにもまだ名前はついていない。
アルバム『闘(WAR)』までの初期U2は、暗闇を切り裂く閃光のようだった。冷たく燃える青い炎だった。深いエコーはメンバーが抱える満たされない心の残響音に思えた。肌を刺すようなひりひりとしたロックンロール。そこが僕には少し冷めたくも感じられた。
あの頃のU2はいつも臨戦態勢にあるように見えた。それは彼らがアイルランドのバンドであることと無関係ではなかったと思う。社会性の強い歌詞からは、彼らが厳しい現実と向き合って生きてきたことが窺えた。
暗闇で目を光らせ、群れることを拒み、メンバー4人だけで世界に立ち向かっていたのが、初期のU2だった。
『ヨシュア・トゥリー』は、そんなU2がこれまでとは違う世界観を僕らに提示した作品だった。オープニングナンバー「ホエア・ザ・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネーム」でボノはこう歌っている。
どの通りにも名前がついていない場所で
今、僕らは築き上げようとしている
愛を燃え上がらせて
愛を燃え上がらせて
そこへ僕が行くときは
君も一緒だ
この曲こそアルバムの結論であり、U2の決意表明だった。今いる場所を捨て、新たな地平へと踏み出すことを宣言している。
ここでのU2はもう群れることを恐れてはいない。心を開き、音楽の力でファンと強い絆を結び、長い旅を共に歩んで行こうと語りかけているのだ。
音楽的な裾野も大きく広がった。前作『焔(The Unforgettable Fire)』で見られたアメリカ音楽への傾倒は、ここにきてひとつの完成形を見せる。
サウンドのスケール感が増し、元来の鋭さや熱さはそのままに、深い包容力をもつようになった。それはアイルランドとアメリカが海を超えて地続きになったことを意味していた。
そして、僕がなにより素晴らしいと思うのは、すべての曲のテーマがオープニングナンバーの「ホエア・ザ・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネーム」へと帰結していくところだ。
アルバムの中には様々な感情が渦巻いている。けれども、どんな怒りに満ちた曲でも、迷いさまよっている曲でも、バンドが旅の目的を見失うことはない。まだどの通りにも名前のついていない「これから始まる場所」へと向かっていることが、アルバムを聴くほどによくわかるのだ。
『ヨシュア・トゥリー』は全世界で約2,500万枚を売り上げ、U2を一躍世界最大のロックバンドへと押し上げることになった。あれからもう30年がたつ。
けっして楽な時間ではなかったはずだ。なぜなら、音楽の旅に終わりなどないのだから。それでも、U2は飽くなきチャレンジをつづけ、いくつもの偉大な成果を残してきた。ただの1度もメンバーチェンジをすることなく。
現在、U2は『ヨシュア・トゥリー』を全曲演奏するツアーを敢行中だ。それに先立ってボノがこんなコメントをしている。
「最近、約30年ぶりに『ヨシュア・トゥリー』を聴き直した。オペラのようだった。愛、喪失、壊れた夢、忘却の探求、分極化… たくさんのエモーションを感じた。いくつかの曲は何度も歌ってきたが、すべてではなかった。楽しみだよ。もしオーディエンスも僕らと同じように興奮しているとしたら… 素晴らしい夜になるだろう」
疑う余地はない。この30年間、『ヨシュア・トゥリー』の曲はたくさんの人達の人生を変え、彩り、その一部となってきたのだ。
U2は今も僕らと共にある。素晴らしい夜が繰り広げられていることだろう。
2017.06.04
YouTube / zebradee2009
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